デジタルシフト化が加速している現代において、注目を浴びている「チャットボット」。自動的にロボットと会話をするだけの機能にとどまらず、問い合わせ業務の負荷軽減やマーケティングへの利用など、さまざまな用途で活用され、多くの企業で導入が進んでいる。
2016年に創業した株式会社クウゼンは、対話型インターフェースを活用し、業務効率化やマーケティング課題の解決に取り組む、スタートアップ企業である。同社の代表取締役CEOである太田匠吾氏は、「空前絶後の対話革命を起こし、世の中を驚かせるようなプロダクトをつくりたい」との思いをもち、最先端のテクノロジーを活用した対話型ロボットをコーディングなしで構築できるクウゼン(KUZEN)を開発した。
同社を牽引する太田氏に、現在のビジネスに目を付けたタイミング、自社プロダクトへの思いや、会社を支える人材について、話をうかがった。
スタートアップ成功の鍵はタイミングを逃さないこと
ーー現在の事業を始めたきっかけはありますか?
太田匠吾:
2016年頃から、文字によるチャットや音声による会話といった「対話」を自動化できるインフラが整ってきました。当時FacebookやLINEが、APIを公開、つまりSNSサービスのメッセージ機能の開発環境がオープン化されたことで、自動で会話を行うシステムを開発する会社が次々と参入してきました。
スタートアップの成功は、タイミングの要素がとても大きいと思っています。一例として挙げると、「ヤフオク」と「メルカリ」の対比が分かりやすいです。「メルカリ」はスマートフォンがなければ生まれていないサービスですが、同じネット上の販売サービスでも先駆け的な「ヤフオク」という存在があったにもかかわらず、いち早くスマートフォンに対応したため革新的な勢いで人気を集めました。
私たちも2016年に到来したと言われるチャットボット元年のタイミングを逃さず、「ここでチャレンジしよう」との決意から、現在の事業に取り組み始めました。
ーー貴社の事業内容を教えてください。
太田匠吾:
対話型ロボットを構築できるプラットフォームを開発し、BtoBのSaaS事業を行っています。主力事業はマーケティングの支援とDX支援の2つのサービスを提供しています。
マーケティングに関しては、LINEをインターフェースにした支援を主力事業として取り組んでいます。いわゆるBtoCのサービスを行っている企業に対して、弊社のプロダクトを提供し、消費者ユーザーとそのクライアントとのサービスのやり取りを自動化するイメージです。
一方でDX支援とは、社内業務の効率化や、社外からの問い合わせ対応の自動化への取り組みです。チャットのインターフェースでユーザーからの問いかけに対して自動で返答するという仕組みを提供しています。
ただ売るのではなく、コンシェルジュのように解決するサービスを
ーー貴社ならではの強みは何でしょうか?
太田匠吾:
私たちが創業以来一貫して行っているのは、コンシェルジュ的なサービスを提供するためのプロダクトをつくるということです。この「コンシェルジュ」というのは、現在のクウゼンという社名になる前の会社の呼び名でもあります。
ただ顧客にツールだけを提供してセルフサーブ型で売るのではなく、カスタマーサクセスを中心にしっかり顧客と向き合って、顧客との対話を通じ課題を解決できるような高機能サービスを提供しています。そこまでできるプロダクトは世の中にもまだ多くないため、事業も順調に拡大を続けています。
ーー具体的な活用事例を教えてください。
太田匠吾:
色々な業界でご利用頂いており大変ありがたいのですが、最近の取り組みとしては例えば人材会社で使用いただくケースが多く、人材会社のエージェントと求職者のやりとりを自動化する、という取り組みを行っています。
人材会社では、業務の効率化を図るツールを介さずに多くの人員リソースを投じて業務を行うケースが多いと感じています。直接、エージェントが求職者に電話などでコンタクトを取りますが、「もう転職先が決まってしまった」というように提案のタイミングが合わないという悩みをよく聞きます。そこで、弊社のプロダクトが求職者とエージェントのやり取りの間に入り、求職者の活動状況に相応しいサポートを自動で実現します。
求職者がLINE公式アカウントに登録した際、友だち登録のお礼メッセージから会話がスタートし、希望の求人条件などのヒアリングを自動で行います。会話で得られたデータやウェブサイト上の行動履歴を基に、求職者に適した求人情報をタイムリーに提供します。
求職者の行動履歴に基づいて、提供した求人に対し、高い興味関心を示していると判定された場合、エージェントが対応します。対応の方法は、電話でのフォローアップだけでなく、LINE公式アカウント上で個別にメッセージを送ることも可能です。
求職者とエージェントの間でクウゼンを介することで、求職者とのコミュニケーションを最適化し、効率的に契約に結びつけることができます。
さらに、エージェントとの面談の日程調整もクウゼンを利用すれば自動で行うことができます。優秀な人材に対しては、優先的に面談予約のご案内を行い、面談日を早期に確定させ、担当エージェントのカレンダーにスケジュールを設定するところまで、クウゼンでスムーズに処理することが可能です。
IPO達成への道~新規パートナーの開拓へ~
ーー今後の会社としての注力テーマを教えてください。
太田匠吾:
中期的な目標として、あと2年でIPO(新規株式公開)を達成することを掲げています。株主から資金を調達して成長するというビジネスモデルのため、IPOは必須です。目標達成のためにはマーケットに対して着実に成長している姿を見せることが重要になってきます。
もともと弊社は、「プロダクトを中心とした事業を行っていきたい」という思いが強くありました。創業からしばらくは開発にリソースを多く割いていたため、ビジネスサイド(営業やマーケティングなど)にはあまり手をかけられなかったのです。
ビジネスサイドを重点的に強化するべく、今後は新規取引先の開拓に注力し、会社の成長を促すことで、IPOの達成を実現していきます。
ーー今後、自社プロダクトを開拓していきたい業界・業種はありますか?
太田匠吾:
私たちの場合は、業界特化型ではなく、どの業界でも幅広く使えるプロダクトを提供しているため、業界を絞って開拓していくことは今のところは考えていません。
先程申し上げた人材業界での活用については、大きな広がりを見せています。労働力が減少している中で人手不足が深刻化していることから、求職者とのコミュニケーション効率を高めることができる対話の自動化への需要が高まっているためです。
他にも不動産業界やリユース業界など色々な事例が生まれており、そのニーズを深掘りすることで新たなサービスを立ち上げることができる可能性を秘めた領域であり、成長可能性は無限大だと思っています。
弊社のプロダクトは、ノーコードでさまざまなことができます。必要な部門でうまくプロダクトを使ってもらうために、SaaS型でスピーディーにサービスを提供できるところが、付加価値となっています。業界業種に限らず、ニーズがあるところに素早く参入し事業自体を変化させていくというのが、ベストな戦略だと思っています。
チャレンジングな仕事をしたいのならうってつけの会社
ーー貴社が求める人物像を教えてください。
太田匠吾:
「新しい取り組みに対してチャレンジしたい」という思いが重要だと考えています。
先程の「メルカリ」の話にも通じますが、新しい時代の流れに人が集まると、「インフラを駆使して、どのようなサービスを提供しようか」というアイデアが多く生まれます。
私たちがサービスを提供する顧客はエンタープライズ寄りの企業が多く、顧客からの要望が多岐にわたるため、仕事の難易度が比較的高い傾向にあります。相手のことを深く理解し、「一体どんな課題を感じ、弊社のサービスに問い合わせをしてきたのだろう」「この企業のビジネスは一体どんな付加価値があるのだろう」という点まで深掘りして会話をする必要があります。単純な仕事ではありませんが、そういったチャレンジングな仕事をしたいという方には面白みを感じてもらえる仕事だと思います。
ーー仕事の難易度が高いとのことですが、社員の方には専門性のレベルも求められるのでしょうか?
太田匠吾:
元々知見があるのであればそれに越したことはないのですが、どちらかというと、「顧客がどのようなロジックで、どのような課題があって、どのようにサービスを提供すると喜んでもらえるのか」という点を深くヒアリングし、弊社のプロダクトで、一体どんな課題をどこまで解決できるのか」という説明が納得感を持ってできるかどうかが重要です。
仕事をする上で大切な3つのバリュー
ーー社員の方に対して、大切にしてほしい価値観はありますか?
太田匠吾:
弊社では「Client First」「Ownership」「Team Kuzen」という3つのバリューを定めています。
1つ目は、まずは顧客にしっかりと向き合い、顧客の課題を解決できるようなプロダクトを提供しよう、という意味です。BtoB事業はいくら製品サービスが安くても、顧客に評価されないと使ってもらう事はできません。「顧客中心で物事を考えよう」という思いを社員に浸透させたいと思っています。
2つ目は、「オーナーシップを持って業務に取り組んでほしい」という想いを込めています。任された仕事をただこなすだけではなく、顧客が何を求めていて、どういう形でご支援すれば良い結果が生まれるのか、1人1人が考えて最後までやり切る力が必要です。
最後の3つ目は、「SaaSというビジネスモデルはみんなで成し遂げるものだ」という認識を大事にしてもらいたいと考えています。開発陣が精魂込めて素晴らしいプロダクトをつくり、営業が顧客の課題を聞いてプロダクトを届け、メンテナンスを行い、顧客の課題を解決することでその結果顧客満足度が上がるという流れになっています。誰か1人のスーパースターが大掛かりなことを成し遂げることは現実的に難しく、チームワークが最も重要なビジネスモデルだと思っています。
人間がやっている仕事は、AIが代行していく時代へ
ーー新卒世代の方に聞いてほしい、この業界の特徴とは何でしょう?
太田匠吾:
最近注目されているチャットGPTというサービスを含め、生成AIを絡めた「対話」というものが、かつてないほど注目されています。AIの進歩は凄まじく、確実にあと10年もすれば、世の中は大きく変わるほどのスピードで技術が進化しています。
高度なAIを活用して、業務の効率化やマーケティングにどう取り組むかが今後の課題です。特に、対話によって築かれたユーザーとの接点を活かすことが重要だと思っています。
ーー具体的に、AIの世界はどう変わっていくと思われますか?
太田匠吾:
いわゆる単純作業は、一通りAIがやってくれるようになると思っています。
たとえばウェブサイトを作る時、今はデザイナーの人がデザインを考えて自ら作成しなければいけません。これからは、それをAIが考えてくれるようになります。ただ、最後に人間が意思を持って良いか悪いかを選択することはこれからも必要だと思っています。
ーー設立から7年が経過しましたが、今後どのような会社にしていきたいとお考えですか?
太田匠吾:
新しいプロダクトを生み出していったり、現在行っている事業が広がりを見せていく変化を楽しみながら、社員と共に成長していく会社にしていきたいです。
編集後記
最先端テクノロジーの先駆者として企業を牽引してきた太田匠吾氏。「これからのAIを活用したビジネスに興奮が止まらない」と、今後の業界の可能性に目を輝かせていた。
高精度な技術をただ売るだけでなく、顧客の課題解決に合わせた提案にこだわるビジネスモデルは、今後も日の目を浴び続けるだろう。株式会社クウゼンの勢いは止まらない。
太田匠吾(おおた・しょうご)/東京大学大学院農学生命工学研究科修了。JPモルガン証券投資銀行本部にてM&Aアドバイザリー業務、株式・債券関連の資金調達業務に従事後、産業革新機構では大企業のプライベートエクイティ投資やスタートアップ企業へのVC投資を経験する。2016年、株式会社クウゼンを創業して代表取締役CEOに就任。