塗料の研究開発や販売を軸に、フランチャイズ事業や販促支援などを多角的に手がける株式会社アステックペイント。
同社の代表取締役である菅原氏は、前職の輸入商社時代に出会ったオーストラリア製の塗料に惚れ込み、「同製品ならば日本の建物の寿命を延ばせるのではないか」と感じていたそうだ。その取引が終了したことを契機に、日本の総代理店として自らその塗料を輸入するべく、同社を立ち上げるに至った。
ITの導入にも積極的に取り組み、塗装業界の発展と社員の育成に注力する菅原徹社長に、アステックペイントが発展を遂げた経緯や社内の環境づくりについて話をうかがった。
輸入商社から製造販売へと業界で頭ひとつ抜け出せた理由
ーー貴社の事業について教えてください。
菅原徹:
大学卒業後に勤めた前職の後、30歳になった2000年に独立しました。現在は、建築用塗料の開発・販売を手がけています。
弊社の特徴は、中間業者をはさまずに塗装会社に製品を直販していることです。お客様の悩みやご要望を直接聞くことができるだけでなく、中間業者への手数料がかからない分、高品質かつ低価格での提供が可能です。
2008年には、「プロタイムズ」という事業を立ち上げ、住宅向けの塗装サービスや、塗料の販売および管理を行っています。また、フランチャイザーとして加盟店を募集し、システムの提供や営業および集客方法の指南をしています。加盟店の売上向上に寄与することで、弊社への発注も増えました。全国ネットワークは、2023年に232店舗まで拡大し、全加盟店の売上は12年で250億円以上となり、今後も確実に成長していくと思っています。
また、コロナ禍でお客様を訪問できなくなった時に「AP ONLINE」というオウンドメディア(自社媒体)を立ち上げました。オンラインで役立つ情報を提供することで集客でき、実績に結びつくようになりました。
ーー生産性向上アプリ「現場ポケット」について詳しくお聞かせください。
菅原徹:
塗装業界のDXについても、弊社は意欲的に推進しています。ITエンジニアが社内に40人ほど在籍し、フランチャイズ本部の基幹システムや「現場ポケット」というアプリをリリースしています。現在登録ユーザー数は、3万人を超えました。
現場ポケットは、工事以外の業務をすべてデジタル化し、完結できるアプリです。塗装現場の生産性の向上と発展が一番の目的です。
まずは、朝現場に着いてチェックインすると位置情報が認識されます。その後、作業内容を入れ、終業時にチェックアウトを押して作業内容を入力すると日報の作成が完了。自動的に全社員の作業時間や作業内容が計算できる仕組みです。
現場に関係する営業、施工管理者、職人の配置から図面や仕様書、注意点までアプリで伝達でき、情報共有にも役立ちます。写真のタグ付けで報告書の作成も簡単にできます。
このような活動を通じて「アステックと付き合っていこう」「一緒に伸びていこう」と言っていただける会社が増えてきています。今の取り組みを継続し強化していけば、必ず塗装業界でトップになれると信じています。
会社の成長と社員教育
ーー理念の浸透のために行っていることはありますか。
菅原徹:
全社員に対して、年1回の経営方針発表会と月1回の全体会を実施しています。社会や会社の状況、今やるべきことについて、会社の理念やビジョンとのつながりを意識しながら伝えるほか、全体会の後に社員同士で話し合う時間も設けて、会社と社員の間に認識のブレがないようにしています。
おかげさまでどの塗装会社様に行っても、社員、スタッフの評価が高く、「弊社をモデルとして教育体制を組みたい」「ぜひ指導してほしい」と言われることもあります。弊社は製品やサービスはもとより、人が一番の強みだと思っています。
ーー貴社の採用について教えてください。
菅原徹:
新卒は毎年30名ほど採用しています。関東や福岡の工場では、地元の高校から数名ずつ採用。ITエンジニア系は新卒よりも中途採用の場合が多いですね。
ーー新人教育はどのようなことを行っているのでしょうか。
菅原徹:
入社後1ヵ月は共通の研修を行い、GW後各部署に配属されてOJTが始まります。7か月後からは1人で業務ができる教育プログラムを部署ごとに設定しています。
とはいえ、ある程度独り立ちしてからも悩みや相談したいケースもあるので、毎日終業時の10分間、全社員が上司や先輩と「成長対話」と呼んでいる1on1ミーティングを行っています。その日の業務、反省、明日やることを話し合って確認し、アドバイスを貰うことで不安を解消し、翌日出社して座った瞬間から今日の仕事がはっきりしている状態を作る事ができます。これらがちゃんと仕事しているという信頼関係を作るのです。
私自身が社長兼営業部長からスタートしているため、営業の必勝パターンは確立しています。もちろんマニュアル化されており、ビデオで視聴もできるようになっています。話し方、接し方などの社会人教育は専門コンサルタントに依頼しています。
新しく立ち上げた部署は、中途採用を軸にある程度マニュアル化できてから新卒を入れています。IT系は他の業界や会社で経験を積んだ人に来てもらうのが現状では良いと思っています。
「未来永劫の成長を共に求める」
ーー社員の成長のために大切にしていることはありますか。
菅原徹:
今の時代、65〜70歳が定年となり、新卒で入社すると50年近く社会人生活を送ることになります。しかし、一般的な社会人の場合、30歳〜35歳ぐらいで成長が止まっている場合も多いのではないでしょうか。もっと上を目指して、本人が努力や挑戦した分だけ成長できる環境をつくるのが会社の責任だと思います。
弊社では、信頼関係を構築した上で個人の目標設定は自分自身で作成するようにしています。新卒入社後ロケットスタート的な目標設定をする人もいますが、それでも会社としては全面的に支援し、環境づくりもしていきます。結果として目標に届かなくても、翌年には適正な目標設定ができるようになるのです。
また、育休をとる社員も多く、職場復帰率は100%。子育てをしながら、少しずつ成長してくれれば良いと思っています。
20年後に入ってくる新卒にも多様な選択肢がある環境を提供したいと考え、「未来永劫の成長を共に追い求める」というパーパスを掲げているのです。
編集後記
塗料という一本の太い幹を中心に、自社製品開発、顧客サービス、アプリ開発、オウンドメディアでの情報発信、そしてそれを実現するための人材育成と枝葉を広げていく。全くブレのないお話の中に、業界トップという花を咲かせる日も近いと感じた。
菅原徹/1970年東京都生まれ。1988年に渡米後、1993年にニューヨーク州立大学経済学部卒業。1993年投資顧問会社に就職。1997年商社に転身し、オーストラリアへ赴任。2000年に株式会社アステックジャパン(現株式会社アステックペイント)創業。