函館どつく株式会社は、1896年に創業した老舗の造船所だ。2007年には株式会社名村造船所の連結子会社となり、協力会社を含め、1000人の従業員が在籍している。
2023年6月には、名村造船所から出向した服部誠氏が代表取締役社長に就任した。
同社の強みや生産性向上の取り組み、造船の仕事の面白さなどについて、服部新社長に話をうかがった。
伝統や技術を活かし、船の建造・修繕基地として確かな仕事をする
ーー服部社長のこれまでの経歴を聞かせてください。
服部誠:
福岡にある久留米工業大学を卒業した後、名村造船所に入社しました。入社後は船を機能させるために必要な装置や設備を船体に取り付ける艤装(ぎそう)の現場担当を務めていました。
2018年に出向となり、新造船事業本部長を経て2023年に代表取締役社長に就任しました。
ーー貴社の事業内容について教えてください。
服部誠:
弊社は1896年に創業し、今年で128年目に入る老舗の造船所です。事業基盤を強化するため、2007年に名村造船所のグループ企業となりました。事業内容としては新造船事業・修繕船事業・鉄構機械事業の3本柱で運営しています。
弊社で製造している船の中でも、4万トンのばら積み貨物船「HIGH BULK 40E」は、業界内で特に知名度の高い製品です。修繕船事業に関しては、自衛隊や海上保安庁の船艇のほか、フェリーや内航貨物船の修繕も行っています。鉄構機械事業では、橋梁やアンローダという荷役装置を製造しています。
これらの事業比率は、新造船事業が約65%、修繕船事業が30%以上を占めています。これまで培ってきた造船の技術を活かしながら、船の修繕基地としての重要な使命も果たしていきたいと思っています。
ーー貴社ならではの強みは何でしょうか。
服部誠:
青森県むつ市大湊に基地がある海上自衛隊から長年にわたって船の修繕依頼をいただいており、修繕船事業において高いウェイトを占めています。
また新造船事業では、必要なものを必要なときに、必要なだけ使うジャストインタイムを徹底しています。たとえば3%の余裕を見て材料を調達した場合、それが10隻になれば10倍もの余剰在庫が発生してしまいます。それを1〜2年置いておくと鉄板が錆びてしまい、結局は廃棄することになります。
こうした無駄を省くため、定期的に棚卸をし、在庫が残っていないかチェックするようにしています。北海道という土地柄に加え、重量のあるものを扱っているため調達に時間がかかりますが、工夫をこらして調整しています。
材料費も抑えるため、名村造船所グループでまとめて資材を調達し、良品の割合を高める歩留まり改善にも注力しています。さらに、できるだけ使用する材料を削減できるよう、船の設計の見直しも行っています。
この他にも、捨てる部分を最大限減らすため、一枚の鉄板から多くの部品をとれるよう、すき間なくパーツの型取りをしています。こうした努力の結果、鉄板の廃棄率は6%程度に抑えられています。
生産性の向上で最も重要なのは従業員の目標管理の徹底
ーー会社経営にあたって服部社長が重視しているポイントは何でしょうか。
服部誠:
グループや個人単位で目標を決めて仕事に取り組むことが、生産性を上げるために最も重要なことだと考えています。特に造船はつくるものが大きく、工場も広いため、人の動きの無駄をどれだけ減らせるかが重要なポイントです。
そのため、ひとつの仕事に対して作業時間を計算し、何日で終わらせるかという目標を設定してから作業にとりかかることを徹底しています。また、適材適所で人を送れるよう、人員配置も工夫しています。
ーー今後の経営方針を教えてください。
服部誠:
経営が厳しい期間が長かったのですが、ようやく光が見え始めてきました。まずは生産性を向上するため、設備の入れ替えを行い、しっかりと足元を固めていきたいと思っています。
設備の導入による生産性の向上については、歪矯正機(ひずみきょうせいき)を導入したときに強く実感しました。
それまでは船のひずみを直すためにバーナーであぶったり、人力で胴体をひっくり返したりしていました。それが歪矯正機(ひずみきょうせいき)を使うことで、一人で複数台を同時に扱えるようになり、6時間かかっていた作業を5分に短縮できたのです。
設備の導入には多額の費用がかかりますが、この例のように人の手で作業する場合と比べて効率を格段にアップできます。なお、自動溶接ロボットなどの最新設備に関しては、今後の流れを考慮しつつ計画的に導入していこうと考えています。
設備投資に関しては腰を据えて長期スパンで行うため、今後の会社を担う若手・中堅社員を中心に進めてほしいと思っています。弊社の従業員の平均年齢は30代にまで下がってきているので、これからの活躍が期待できる方たちの意見を採り入れていきたいですね。
造船の仕事に携わる醍醐味とは
ーー新規開拓についてはどのようにお考えでですか。
服部誠:
現在は稼働率の高い大型のドック(※)を使って船の修繕を行っているのですが、受注している分で手一杯の状態です。そこで以前使用していたドックを活用することで、作業スペースを確保し、新規依頼を受けられないか検討しているところです。
また、鉄構機械に関しては頻繁に注文が入るものでもないので、受注のチャンスを逃さないよう、常にアンテナを張っています。
(※)ドック:船の建造や修理、荷役作業などのために海岸を掘り込んでつくる構造物のこと
ーー採用についてはいかがですか。
服部誠:
年齢構成が均等になるよう、新卒採用で毎年10名程度ずつ採用していこうと思っています。まずは地元の大学と連携し、弊社の敷地内で研究に必要な材料を提供するなど、交流を深めていければと思っています。
このような取り組みを通じ、積極的に若手人材を獲得していきたいですね。造船や船の修繕は人が中心になりますし、地域の雇用を創出するために今後も人材採用に注力していきます。
ーー求職者の皆さんに伝えたいメッセージをお願いします。
服部誠:
弊社は船というスケールの大きな製品をつくっており、ここでしかできないものづくりができるのが最大の魅力です。造船の仕事は鉄板を曲げたり溶接したりするだけではなく、船という世界中の海を移動する生活空間そのものをつくり上げています。
こうした世界観にワクワクしながら、私たちと一緒に働いてくれる方をお待ちしています。
編集後記
なるべく在庫を抱えない生産体制をつくるなど、徹底的に製造現場を見直してきた服部社長。社長の話を受け、たとえ大きな船をつくる仕事でも、こうした細かな改善により利益率に大きな差が出るのだと感じた。函館どつく株式会社はこれまで培った技術力を活かしながら、日々改善を重ね、安全な航海を支えていくことだろう。
服部誠/1969年佐賀県生まれ。久留米工業大学卒業後、株式会社名村造船所に入社。2018年に函館どつく株式会社に出向し、新造船事業本部長を経て2023年に代表取締役社長に就任。