※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

ミライアス株式会社は、不動産売買の仲介サービス「スマート仲介」によって顧客利益を最優先し、急成長を遂げてきた。2018年創業の同社は現在、従業員25名で年10億円を売り上げる。代表取締役の山本健司氏は、大手不動産会社2社で何度もトップセールスを獲得した不動産営業のプロであったが、自らの働き方に疑問を持ち、顧客満足と社員の幸せの両立を目指して起業に至った。不動産業界の慣例を覆して会社を成長に導いた山本社長に話を聞いた。

体力まかせに働いて気づいた不動産業界の問題点

ーー家業から転職して大手不動産会社で活躍されるようになった経緯を教えてください。

山本健司:
大学卒業後は、父の経営する不動産会社で働き始めました。小規模な家業のため携る業務範囲が少なく、父の助言もあり、第2新卒で東急リバブルに入社しました。

何年か経験を積んで家業を継ぐ思いがあったのですが、その後、リーマン・ショックで家業はほぼ倒産状態になります。帰る場所をなくした私は、「営業職でナンバー1を目指して頑張る」という決意をしました。今のように働き方の規制も厳しくなかったため、20代から30代前半の体力がある時期に誰よりも努力し、休まず一生懸命働いて、営業成績で全国1位をとりました。

ーートップセールスの経験は起業に影響しましたか?

山本健司:
強く影響したことは、働き方と在り方です。

年を重ねれば体力も落ちてくるため、この働き方を続けることはできないと思っていましたし、ベテラン・若手問わず、業界全体に当てはまる事項です。まずはここから変える必要があるのではないかと考えました。

また、業界リテラシーについても課題を感じていました。不動産業界は他業界に比べIT化が遅れており、透明性に欠け、カスタマーファーストではない在り方が散見される状況でした。

転職したスタートアップ企業のソニー不動産株式会社(現SREホールディングス株式会社)でも、会社がある程度の規模を超えた頃から同じ壁にぶつかったのです。自分の目指す、不動産業界のあるべき姿が明確になっていきました。

さまざまな職場環境を経験する中で、「不動産取引の仕組みに透明性を加えて、働き方・在り方を正しくすることが自分の使命だ」と感じたのが起業のきっかけですね。

不動産テクノロジーを利用した仕組みづくりによる効率化が急成長を導く

ーー貴社の不動産売買仲介サービス「スマート仲介」について聞かせてください。

山本健司:
「スマート仲介」は、これまで営業がワンストップで行っていた不動産の仲介取引を分業化し、ITやデジタルに置き換えることで、DXを実現しています。さらに、情報の透明性を高め、顧客だけでなく協業先にも貢献できる環境を整えるなど、クオリティコントロール(QC)も重視しています。

「スマート仲介」のサービスでは、その時々で起こる社会事情に合わせて改良を行い、必要なサービスを入れ替えて、わかりやすく価値を提供することを心がけています。

ーー「片手型報酬仲介」という独自の販売方法についても教えてください。

山本健司:
弊社は、売り主様か買い主様かのいずれか一方のみから仲介手数料をいただく「片手型報酬仲介」という取引を行っています。仲介手数料を両方からいただかない仕組みなので、顧客の囲い込みの必要がありません。

また、従来は、営業がワンストップで販売図面や契約書類の作成など事務作業をしていましたが、大半の事務作業は不動産営業事務が担当をする分業化を推進しています。営業のスケジュールに影響されないため、スピード感のある販売が実現できています。また、ネットを通じて、誰もが公平に情報閲覧できる販売フローの構築によって、直接のお客様だけでなく、1つ会社を挟んだお客様にも早く情報が届くようになり、その結果、販売力が強化されています。

ーーその仕組みが強みになっていますね。

山本健司:
DXを利用することで、他の不動産会社が3カ月以上かかる販売を、早ければ1カ月程度で完結することができます。片手型報酬仲介で一つの取引あたりの売り上げが2分の1になっても、3倍速で進めると結果は1.5倍になります。

私たちは「あたりまえを、あたらしく、スマートに」をミッションとして掲げていますが、これはすべてをITやAIに置き換えることではありません。不動産テックツールを適切に配置し、人の価値を最大限に引き出すことで、業務負担を軽減しつつ作業効率を向上させるということを意味しています。

提供価値が高ければ事業は成長し、分業化とITによる合理化で働き方が改善され、社員はプライベートとの両立が図れます。そして、満たされた社員がまっすぐにお客様に貢献し続けることが出来る。私は「このような幸せのサイクルを加速し続けることで事業拡大ができる」と確信していました。

ーー貴社の社員は働きやすさを実感していると思いますか?

山本健司:
はい、ここ3年間の弊社の離職者はゼロです。また、「はたらく人ファーストアワード2023」のBronze賞も受賞しました。弊社は、他の企業よりも給与水準がやや高く、飛び込み営業や電話営業ではなく、すべて反響営業を行っています。さらに、業務が分業化されており、営業職が営業に特化した仕事ができることも影響していると思いますね。

若手が活躍できる環境を整えて成果を引き出す

ーー社内の雰囲気はいかがですか。

山本健司:
弊社では新卒も中途も活躍していて、社員の平均年齢は29歳です。社員は楽しく仲良く働いているように見受けられます。私も営業時代は仲間たちと「自分たちで新しく物ごとを生み出したら楽しい」「将来こうなれば良い」という会話をよくしていましたが、今の弊社もそのような雰囲気だと思います。「自分たちでサービスを導入して試し、ダメだと思えばやめる」という裁量権があるところが良いのかもしれませんね。

ーー活躍している社員に共通している点はありますか。

山本健司:
「人思い」という点です。特に営業職では、「お客様との会話や社内の指示・命令・調整の中で他人に配慮できるかどうか」というところで大きな差がつきます。そのような性質は、周囲から助けられて好循環を生み出すでしょう。

もう1つは、気をつかうのでなく、気を利かせられる人です。これらは先読みができるということであり、最終的な成果にもつながります。

ーー今後は、どのような点に力を入れていきたいですか。

山本健司:
活発にチャレンジとイノベーションが起きる職場環境の整備に力を入れていきたいと思っています。私がつくった「スマート仲介」は、社員、お客様、世の中によって育てられました。その中で特に、現場で意見を出してくれる社員は重要です。今後は若手社員を管理職に少しでも多く抜擢して、活躍できる環境を整えることがイノベーションの肝だと思っています。

自己成長やチームワークを目指す人物には経験機会を最大化できる場であること、プライベートとの両立を図りたい人物にはその選択ができる場であること。つまり「自分で自分自身を選択できる場」であることが重要だと考えており、「ITやAIを活用した成長・職場環境の整備」が私のテーマです。

編集後記

かつてとは異なる働き方と社会のIT化に柔軟に対応して、会社を成長させてきた山本社長。不動産業界の常識にとらわれない手法は、顧客の利益を最優先する不動産売買だけでなく、従業員の希望に合わせた労働環境の提供も実現している。営業のプロである山本社長のサービス精神がさまざまな側面に表れていると感じた。

山本健司/1983年生まれ。法政大学法学部法律学科卒業。家業の不動産会社に従事後、東急リバブル株式会社に入社し不動産仲介部門契約件数全国1位を連続受賞。その後、ソニー不動産株式会社(現SREホールディングス株式会社)に入社。最年少マネージャーとして住宅・投資・開発事業を行い社長賞受賞。2018年、ミライアス株式会社を設立。顧客の利益を最優先する片手報酬型の不動産売買仲介サービス「スマート仲介」を打ち出す。