釣りに使うルアーは小魚の動きをまねて不規則な動作を出すといった工夫を凝らすため、そのアイデアとともに膨大な数のアイテムが創出される。釣り商材全体に当てはまる傾向だ。これに対応して流通の調整役を担っているのが株式会社ツネミ(東京都江東区)である。
同社は1943年に創業した釣り用品専門の商社で、1966年には他社に先駆けて海外のルアーブランド商品の輸入に着手している。莫大な種類の商品を扱いながら、日本の釣り業界をリードしてきた功労者でもある。
直近はDXを推進して社内環境の整備や流通の効率化を進めているという代表取締役社長の常見英彦氏に、事業の強みや経営計画について話を聞いた。
さまざまな経験を積むことができた社会人生活の序盤
ーー大学卒業後の就職先は異業種だったとお聞きしました。
常見英彦:
弊社は祖父が興した会社ですが、大学を卒業する当時ははっきり事業継承の話はなかったので、まずは社業とは関係ない他社に就職しようと考えました。
小売りの経験を積みたかったため、中でも一番勉強になると思った百貨店にターゲットを絞った結果、幸いにも老舗の大手に内定。「不特定多数の人と接する仕事に就きたい」という念願がかないました。
ーー百貨店ではどのような経験をしましたか?
常見英彦:
入社後配属されたのは食品売り場でしたが、当時お惣菜を小分けのパックにした商品「個性色々」が大人気で、毎日忙しい日々を過ごしました。今思うと、若い時代に一番忙しいフロアで人と接する仕事ができたことは、とても価値のある経験でした。
ほかにも、2年目から配送センターの班長という立場で、100名のアルバイト・パートさんを管理する仕事を任されました。3年目からは売り場の仕事に加え組合活動にも従事しました。これらの経験を通して、後の経営にも応用できることを学べたと思っています。
多品種を手掛ける釣り業界に不可欠な卸売りを担ってきた強み
ーーツネミの事業の特色を教えてください。
常見英彦:
弊社は創業以来、いわゆる中間流通である卸売業という業態を一貫して続けてきました。問屋不要論が叫ばれたりもしますが、釣り業界にとって卸売業は絶対になくてはならないと考えています。
なぜなら、この業界には非常に多くの製造メーカーが存在しているからです。弊社の仕入先として日頃から稼働しているのは約500社ですが、口座登録では1000社を超えています。ゆえにメーカーと小売りの間をつなぐ役割がどうしても必要です。
もう1つ、釣り用品は非常にアイテム数が多く、弊社の倉庫には6万点を超えるアイテムと約110万個の在庫があります。それだけ多くのアイテムを流通させるためには、中間に入る商社機能を持つ卸売りが不可欠だと強く自負しています。
ーールアーフィッシング分野の先駆けとお聞きしました。
常見英彦:
先々代の頃の日本にはまだ魚を釣るために使う疑似餌、つまりルアーという概念がまったくありませんでした。生餌で釣るのが普通だった1960年代に、弊社は海外からルアーフィッシングの概念を持ち込み、ルアー商材の輸入を始めています。
当時は「そんなもの売れないよ」と揶揄されましたが、粘り強く続けた結果、海外のトップブランドを日本に流通させ、ルアーフィッシングのパイオニアと言われるまでに発展しました。
ーー現在ではどのように事業を展開していますか?
常見英彦:
今では海外ブランドよりメイドインジャパンのほうが強くなり、日本のルアーブランドが市場を圧倒している状況です。
また、先代のパイオニアとしての偉業をリスペクトしながら、次の世代にもつなげるために私の代からは、オリジナルブランドの開発に着手しています。今後ともブランドイメージの向上に努め、海外に向けても拡販していく方針です。
海外への輸出拡大と釣り振興活動に注力していく
ーー今後の経営計画について教えてください。
常見英彦:
ルアーの例をみてもジャパンブランドのクオリティの高さはすでに海外でも認知されています。グローバル化の名のもと海外事業を拡大しようと、東南アジア圏を皮切りに取引を増やしています。
アジア以外ではヨーロッパが期待のマーケットです。現地の代理店を通じて市場未開拓の国に販路を広げていく方針です。
ーー人材採用に関してはどのような思いを持っていますか。
常見英彦:
入社前から釣り好きである必要はありません。かつて釣りも業界のこともまったく知らずに入社した社員が、自身も一生懸命勉強し営業力を磨き、トップセールスに成長した実例もあります。
弊社は、社歴の長い人がたくさんいることからもわかるように、働きやすい職場環境づくりにも取り組んでいます。それに加えて、釣り業界は環境保全にも貢献するエコ意識の高い分野です。SDGsの時代に生きるこれからの世代の人にもきっとやりがいのある仕事になるでしょう。
ーー将来の展望をお聞かせください。
常見英彦:
2023年10月に新規事業としてトラウト中心(ニジマスなどのマス類)の管理釣り場「フィッシングステージ彩の国」を立ち上げています。オーナーがご高齢になった関係で、せっかく20年続いた釣り場を終わらせてはもったいないと施設ごと事業を継承しました。
一人でも多くの方々に釣りの楽しさ、素晴らしさを知ってもらう場を提供することで、釣り振興活動に貢献することも弊社の企業理念の大きな柱です。
公益財団法人日本釣振興会では、魚族資源の保護増殖や水辺環境の美化保全、釣りの普及振興などを主に日本の釣りの未来のために活動しています。これら環境と業界発展に貢献していくことは、企業が成長するのと同じように大切なことと考えています。
編集後記
常見社長は日本釣振興会で2003年から理事を長く務め、2024年には会長に就任している。インタビューでは、釣りとビジネスに関してどんなことでも答えが返ってきて詳しい説明が聞けた。業界を知り尽くしたスペシャリストの今後の活躍にも注目だ。
常見英彦/1963年、東京都生まれ。明治大学商学部卒業。1987年、株式会社高島屋に入社。1993年、株式会社ツネミに入社。営業・仕入業務を担当し、2000年に代表取締役社長に就任。公益財団法人日本釣振興会では、2003年に理事、2012年に副会長、2024年5月末に会長に就任。