埼玉県川口市は古くから鋳物(いもの)の街として知られている。そんな川口市にある石川金属機工株式会社はその技術力と品質管理で、日本のインフラから防衛産業まで、幅広い分野を支え続けてきた老舗企業だ。
鋳物業界は縮小傾向にあると言われているが、とりわけ石川金属機工の社長、石川氏は次の世代への技術継承と、新たな事業への挑戦に余念がない。この記事では、同社の強みと、石川社長の描くビジョンについてうかがった。
家業を継ぐという意思で困難を乗り越え、会社を支えてきた2代目社長
ーー石川社長の経歴をお聞かせください。
石川義明:
石川金属機工は、私が10代の頃に父が創業した会社です。私は学生の頃から家業を継ぐ意識が強く、就職先も最終的に社長を継ぐことを視野に入れて考えていました。
大学卒業後はまず修行のため、お世話になったのが株式会社日本製鋼所です。当初は5年程度お世話になる予定でしたが、父が病気を患ったこともあり、約3年で戻ることになりました。
幸い、父が病気から回復して再度働ける状態になったので、私はしばらくの間、営業や銀行とのやり取りなどの業務経験を積みながら過ごしました。
社長に就任するまでの間は、1975年に起こったオイルショックや技術者の世代交代など、さまざまな困難に直面したものです。しかし嘆いても仕方がないので、目の前のことに一所懸命取り組み、なんとか乗り越えてきました。そして入社から15年後の1995年に父の後を継いで社長に就任して現在に至ります。
護衛艦「むらさめ」にも使われる、高品質の鋳物を作り続ける老舗会社
ーー貴社の事業内容を教えてください。
石川義明:
弊社の事業はメイン事業である鋳造(ちゅうぞう)による鋳物の製造と、船舶用品や減速機といった機械類の設計や組立てです。
鋳造とは、金属を溶かしたのちに鋳型(いがた)と呼ばれる型に流し込むことで、さまざまな形の鋳物と呼ばれる金属製品を作ることです。
弊社の鋳物は、防衛庁護衛艦「むらさめ」をはじめとする数多くの船舶の軸に使用されており、大手重工業企業とも多く取引をいただいております。その他にも、自動車部品や食品機械、一般作業機械などにも弊社の製品が使われています。
なお、弊社は1941年から80年以上鋳造事業に取り組んでおり、2041年に100年企業になることを目指しています。
ーー会社の強みは何でしょうか?
石川義明:
弊社の一番の強みは、長年継続してきた安定した高い品質です。常に一定の品質を継続できるように、納品前のチェックと作業標準の設定を徹底し、製品に問題が発生した場合に原因の特定と改善ができる仕組みをつくっています。
また、弊社独自の鋳造法である、遠心力を利用して材料の安定化を図る「遠心鋳造」も強みの一つです。この方法では一般的に用いられている砂型鋳造法よりも密度が高く、非金属介在物や気泡材料を含まない鋳造が可能になります。
これらの高い品質と独自の技術により、おかげさまで昭和30〜40年代からのお取引先ともお付き合いが続いています。長年培ってきた品質と信頼こそ、大きな強みといえるでしょう。
縮小を続ける鋳物業界で、それでも鋳物を作り続ける信念と気高さ
ーー今後、注力していきたいテーマは何ですか?
石川義明:
営業体制の強化が目下の注力テーマです。弊社の営業部門は世代交代をしたばかりで、中心となっているのは20代、30代の社員です。弊社の次世代を担う存在として心強い限りですが、まだ経験が浅く、営業ノウハウをしっかり教え込んでいく必要があると感じています。
また、弊社は長年お付き合いいただいている顧客が大半なので、既存顧客との信頼関係の構築も重要です。顧客に対して地道に誠実に対応していれば、そこから新規顧客を紹介いただくなど、信頼を介した顧客とのネットワークを広げることにもつながります。顧客の信頼を得られる人材を育てることが第一です。
ーー業界の未来についてどうお考えですか?
石川義明:
鋳物業界は縮小の流れにあり、鋳物の街として有名な川口市でも、ここ数十年で事業者の数が10分の1程度まで減少しています。今後、鋳物業者は生き残るために新たな挑戦が不可欠になってくるでしょう。弊社も現在の事業を大切にしつつ、新たな事業の柱を作るための種まきを進めています。鋳物とは船舶の部品や水道管、エンジン、自動車のパーツなど、さまざまな場所で活用される縁の下の力持ちです。
私は、そんな鋳物を通じて社会を支えるのはもちろん、社員たちを少しでも幸せにして、さらには鋳物業界や鋳物の街・川口を知ってもらう手伝いができればと思っています。そのためにも、これまでと変わらない確かな品質を届けることが重要です。これからも国防からインフラまで皆様の生活を支え続けていくため、弊社はこの目的に向かって挑戦し続けます。
編集後記
時代と共にニーズは変わりゆくものだが、一方で鋳物のようにあり続けねばならないものがある。石川社長の話からは、鋳物業界を背負う者としての信念が感じられた。長年伝承してきた技術力を使って、これからどんな事業に挑戦していくのか、石川社長の次の一手に注目が集まる。
石川義明/1952年埼玉県生まれ、芝浦工業大学卒。株式会社日本製鋼所に入社。3年の修行を経て1978年に石川金属機工株式会社に入社。1995年、同社代表取締役社長に就任。川口新郷工業団地理事長、川口鋳物工業協同組合理事長、埼玉県工業団地連合会会長、川口土地開発、電力広域的運営その他理事を歴任。川口駅周辺町作りビジョンの策定に関わる。現在、川口信用金庫理事、川口市開発審査会会長、川口地区労働基準協会会長を務める。