※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

観光産業においても環境負荷の低減と地域貢献が課題となる中、独自の切り口でサステナブルなホテル経営を実践している企業がある。それが「龍宮城 スパ・ホテル三日月」に代表される、リゾートホテルやレジャー施設を運営する株式会社ホテル三日月だ。

同社は、館内のゴミ分別の徹底をはじめとして、エネルギーの自給自足や耕作放棄地の活用に向けた取り組みまで、環境への配慮を事業の中核に据える一方、施設ごとに異なるコンセプトで多様なニーズに応えている。

コロナ禍においては武漢からの帰国者受け入れを決断するなど、グループの代表を務める小髙芳宗氏の「誰も取り残さない」という理念を体現してきた同社の歩みは、一体どのようなものだったのか。その軌跡と今後の展望について、代表取締役社長 CEOの滿間信樹氏に話をうかがった。

海外の商品展示会で自ら日本人セミナーを企画

ーー観光業に入った経緯を教えてください。

滿間信樹:
友人から「明日、近畿日本ツーリスト株式会社の面接があるから一緒に行こう」と誘われて、面接を受けることにしたのがきっかけです。幸運にも合格することができたため、そのまま近畿日本ツーリストに就職しました。「観光業界で働きたい」と考えていたわけではありませんが、実際に働いてみると、仕事がどんどん楽しくなっていったことを覚えています。

ーー近畿日本ツーリストではどのような仕事をしていましたか?

滿間信樹:
入社当時は海外旅行の専門店に配属され、予算さえ達成すればあとは自由にできる環境でした。そこで私は、自分で専門分野を決め、アメリカやヨーロッパへの視察旅行や、海外の商品展示会での日本人向けのセミナーを企画したのです。

興味深いことに、1つの展示会でセミナーを企画すると、別の国や業種の展示会ともつながりができて、新たな仕事に結びつきました。私はなるべく競合のいない分野で挑戦したかったので、当時の最新テーマを勉強し、その分野で顧客を集めるようにしました。このやり方は粗利が30%くらいとれるので、利益が非常に大きかったですね。

ーーどのような経緯で現職の会社に入社したのですか?

滿間信樹:
2015年に近畿日本ツーリストを退職し、独立してリゾートホテルなどの支援事業に携わっていました。ところが、2021年ごろに、近畿日本ツーリストでお世話になった先輩から「ホテル三日月の社長に会ってほしい」と頼まれたのです。

当時の私はある会社の構造改革に着手しており、「2年は動けません」とお伝えしたところ、「2年先でもいいから会いたい」と言われました。最終的に、「先輩に対する恩返しになれば」という気持ちで、社長に会い、小髙芳宗社長の決意の強さに感銘し、入社を快諾しました。

グループ代表の価値観を体現した、武漢からの帰国者受け入れ

ーー実際に入社して、どのように感じましたか?

滿間信樹:
弊社グループの代表である小髙と価値観が合うな、と思いました。私はこれまでいろいろな経営者の方と仕事をしてきましたが、やはり価値観が合わない人とは仕事がしにくいものです。対して小髙は、SDGsの上位概念である「誰も取り残さない」という理念を抱いており、私も共感しています。

その小髙の信念を象徴する出来事が、新型コロナウイルス流行時の武漢からの帰国者受け入れです。小髙は、「誰もやらなければ、私たちが率先してやるしかない」と決意して受け入れを行い、その結果、激しいバッシングに遭って大変な時期を過ごすこととなりました。これは私が入社する前の出来事ですが、私はこの選択が人として正しかったと思っています。

二宮尊徳の名言「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」を胸に刻む小髙は、単に利益を追求するだけではなく、地域貢献も大切にしています。このような価値観を持つ人と一緒に働けることに、大きな喜びを感じています。

ーーホテル事業におけるサービスの特色や強みを教えてください。

滿間信樹:
お客さまがくつろげるようにコンセプトを明確にすることを意識しています。たとえば、「龍宮城スパホテル三日月」の本館である「龍宮亭」は、「お客さまが笑える場にしよう」というコンセプトを打ち出し、従業員の制服もパーカーなどのラフなもので、フレンドリーなサービスを心がけています。それに対して、新館の「富士見亭」は、富士山が見える眺望を楽しんでいただけるような少し落ち着いた雰囲気をつくりました。

ファミリー向けの施設では子どもが人目を気にせず元気に遊べるプールをつくり、大切な記念日を過ごしたい人のためには静かな環境を用意する。このように、施設ごとに異なるコンセプトを打ち出して多様性を演出しているところが、弊社サービスの特色です。

お客さまの多様性を尊重できるホテルづくりを目指す

ーー今後はどのようなところに注力していく予定ですか?

滿間信樹:
地球に優しい環境づくりを推進していきたいですね。環境問題に関しては、これまでもさまざまな取り組みを行ってきました。SDGs Edutainment Parkを設置して、行動変容のきっかけづくりをしているのもそのひとつです。

弊社は現在、CO₂やエネルギー消費量の削減に取り組んでおり、10年後には必要なエネルギーをすべて自社でまかなえるようになるのではないかと期待しています。食糧についても、耕作放棄地を活用して自社で調達し、残滓を肥料として還元する循環型の事業を構想中です。

ーー最後に、貴社の今後の展望をお聞かせください。

滿間信樹:
2023年に弊社が1万2千名にアンケートを取ったところ、弊社のカーボンニュートラルの取り組みに対し、リピーターのお客様20代〜60代、未利用者の20代、30代の利用意向が大きく上昇しました。この流れは、おそらく今後も加速していくでしょう。しかし、日本はSDGsの認知度が高いにもかかわらず、サステナブルなホテルというのはあまりありません。

弊社が今後目指すのは、「サーキュラーエコノミー」「カーボンニュートラル」といった、価値観を共有できるエンターテインメントホテルです。前述の「龍宮亭」と「富士見亭」のように、コンセプトを明確にし、宿泊者の方々が共通の価値観の中で居心地が良くなるホテル事業を継続していきたいと考えています。

編集後記

武漢からの帰国者受け入れという決断は、社会からの批判を覚悟の上での選択だったという。利益を度外視してでも「誰かがやらなければならない」という使命感に突き動かされた経営陣の姿勢に、企業の社会的責任の本質を見た思いがする。また、施設ごとに異なるコンセプトを打ち出し、多様な価値観を受け入れる姿勢は、まさに現代のホテルのあるべき姿を示しているようだった。

滿間信樹/1965年、千葉県生まれ。一橋大学大学院経営管理研究科修了。1988年に近畿日本ツーリスト株式会社へ入社し、虎ノ門公務支店長、経営企画部部長、訪日旅行部長、アジア各社の子会社代表・役員を経て、2015年に独立。リゾートホテル、着地型観光事業者、チェーンホテルなどの業務支援を行い、2022年に株式会社ホテル三日月へ入社。執行役員社長室長を経て、代表取締役社長 CEOに就任。