※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

フランチャイズビジネスインキュベーション株式会社は、わずか3年で350店舗以上(2025年5月末現在、383店舗)を展開するまでに成長した鰻専門店チェーン「鰻の成瀬」の運営会社だ。一般的な店の半分ほどの料金でうな重を食べられるとたちまち評判を呼び、瞬く間に一大チェーン店となった。

急成長をけん引する代表取締役社長の山本昌弘氏に、従来の常識を覆す独自戦略や、第一次産業とのコラボ事業計画などについてうかがった。

フランチャイズビジネスに着目したきっかけと、自社ブランド立ち上げの経緯

ーーまずはフランチャイズ事業を立ち上げた経緯を教えてください。

山本昌弘:
フランチャイズビジネスに興味を持ったきっかけは、以前の勤務先でその事業モデルに可能性を感じたことでした。そこでは、事業の収益構造にフランチャイズシステムが深く関わっていることを知り、その仕組みについてより詳しく学びたいと考えるようになりました。

その思いから、当時日本最多の加盟店ネットワークを持つ企業へ転職し、フランチャイズビジネスの現場を経験。入社後は、加盟店の運営をサポートするSV(スーパーバイザー)としての業務に加え、新規加盟店の開拓や新たな契約形態の構築にも携わりました。

このようにフランチャイズビジネスの川上から川下までを網羅的に経験し、知識を深めた後、2020年に独立し、フランチャイズ支援事業をスタートしたのです。

ーー他社のフランチャイズ支援から、自社でフランチャイズブランドを立ち上げたきっかけは何だったのですか。

山本昌弘:
フランチャイズ本部の支援だけでなく、本部の運営自体を自分たちで行うことを決めたきっかけは2つありました。1つ目は、既存のビジネスモデルでは経営の継続が難しいと判断したためです。

創業当初は営業が私一人だけの状態でしたが、次々と契約を獲得していき、順調な滑り出しでした。しかし、一度私が止まってしまうと収益もストップしてしまう状況だったので、このままでは会社として存続できないという危機感も感じました。

2つ目が、フランチャイズ本部のサポートをする自分たちの役割について疑問を持ったことです。私が営業代行をして次々と契約店舗を増やしていったものの、その後の先方の事業運営が上手くいかず、苦戦している姿を目の当たりにしたのです。

そのときに、「自分がしていることは、果たして世の中のためになっているのか」と。これを機に、他社が運営する店舗のフランチャイズ支援だけでなく、自分たちで一から店づくりをしようと思い、鰻の専門店チェーン「鰻の成瀬」を立ち上げました。

アルバイトが鰻を焼く“職人不在の鰻屋”という新発想

ーー「鰻の成瀬」の経営戦略をお聞かせください。

山本昌弘:
大きく稼ぐことよりも、「いかに長く継続できるか」を経営の軸にしています。そこでボタンを押すだけで鰻を蒸す・焼くができる調理システムを開発した企業とタッグを組み、アルバイトでも美味しいうな重をつくれるようにしました。

鰻の調理を自動化することで得られるメリットは、主に2つです。

1つ目が、低価格でうな重を提供できることです。自動化により職人がいなくてもうな重をつくれるようにすることで、人件費を大幅に削減できます。それにより、一般的な鰻屋の半分ほどの価格での提供を実現しました。

2つ目が、飲食業界で深刻な課題である人手不足を解消できることです。鰻を焼く技術を持った職人を雇用するとなると、採用のハードルが一気に上がってしまい、慢性的な人手不足に陥ってしまいます。そこで誰でも鰻の調理ができる仕組みをつくり、採用の間口を広げました。

この他にも、注文ミスや食材の廃棄ロスを減らすため、メインメニューをうな重3種に限定しています。このようにオペレーションの簡素化を徹底し、店側のメリットを優先した店舗運営を行っているのが、大きな特徴です。

ーー店側のメリットを優先する飲食店運営の発想はどこから生まれたのですか。

山本昌弘:
私は以前から日本の飲食事業が提供するサービスに対し、過剰な部分があると感じていました。プロの料理人が自慢の料理を提供してくれ、幅広いメニューの中から好きなものを選べる。そしてそのサービスに見合う対価を支払うのが基本です。

しかし、中には「そこそこ美味しいものが食べられればいい」という方もいるはずで、外食にそこまで高いクオリティを求めていない方も一定数いるのではないかと考えたのです。そこで飲食事業の常識とは逆の発想で、「とにかくシンプルにすること」を徹底しました。

食にこだわりのある方からは敬遠されるかもしれませんが、「味はそこそこでいいから、手軽な価格でうな重を食べたい」方に選んでいただければいいというのが、私たちのスタンスです。

SNSで店の情報を発信し、口コミで全国展開を実現

ーー3年で350店舗という驚異的なスピードで規模を拡大できた秘訣を教えていただけますか。

山本昌弘:
加盟店の募集をする場合、専用のプラットフォームに広告を出すのが一般的です。しかし弊社は、フランチャイズ募集の広告を一切出さず、ここまで店舗を拡大することに成功しました。その鍵となったのが、SNSの活用です。

直営店のオープン当日から店舗の1日の売上をX上で公開し、業績が落ち込んだときも「今ピンチです」と店の内情を赤裸々に公表しました。すると私たちを応援してくれるファンの方が増え、「面白い店がある」とたちまち話題になったのです。

こうしてSNSをきっかけに口コミで店の情報が広まり、売上も安定していきました。さらに、SNSを見て「加盟店のオーナーになりたい」と希望者の方も集まってきたのです。

このように広告に頼らず店のPRを行い、さらに短期間でここまで多くの店舗を展開した例はまだありません。ただ、私も手探り状態で感覚だけで進めてきたので、マニュアル化できるものではないですね。

農家と協力して日本の食料問題の解消につなげたい

ーー今後の展望について教えてください。

山本昌弘:
今後は海外展開を強化していきたいですね。国内市場は厳しさを増す一方なので、利益を拡大するには海外進出は必須だと考えています。まずはすでに出店している韓国と香港を起点に、加盟店を拡大していく予定です。

なお、フランチャイズ展開に伴い、韓国はマスターフランチャイズ権を売却して現地法人に運営を一任し、台湾は子会社を設立し、自分たちで加盟店を広げていく方針です。この2つのアプローチ方法を比較し、より効果的な方法で世界進出を進めていきたいと思っています。

和食は日本が誇れる文化なので、海外にも積極的に広めていきたいです。

ーー最後に今後チャレンジしたいことをお聞かせください。

山本昌弘:
第一次産業を担う農家さんとコラボした店づくりに挑戦したいですね。通常、飲食店を立ち上げる際、まず店のコンセプトを決め、そこから食材を選ぶのが一般的な流れです。そうではなく、「新鮮なトマトを活かす料理を提供するために、イタリアンの店を出す」など、食材を起点とした店づくりをしたいと考えています。

この発想に至ったのは、日本の食料自給率の低さや、農業の後継者不足などの社会課題に危機感を持ったのがきっかけです。生産量に合わせて出店枠を設定すれば、農家さんは安定的な収入を得られるようになりますよね。

これにより、農業を営む方々の廃業を抑制する一助になればと思っています。お客様に料理を提供する飲食店と、料理に使われる食材を提供してくれる農家さんが協力し合うことで、お互いに利益を上げる仕組みをつくりたいです。

編集後記

鰻を焼く工程を自動化することにより、うな重のチェーン店展開を実現した山本社長。集客方法の斬新さと、これまでに類を見ない成長スピードは、飲食業界に衝撃をもたらす新星として一気に注目を集めた。フランチャイズビジネスインキュベーション株式会社はこれからも常識にとらわれず、独自の戦略で日本そして海外に食の変革をもたらすことだろう。

山本昌弘/1983年滋賀県生まれ。高校卒業後イタリアに留学。帰国後、大手英会話スクールやフランチャイズ本部を経て、2020年にフランチャイズビジネスインキュベーション株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2022年「鰻の成瀬」1号店をオープンし、独自の広告戦略により3年で350店舗を展開。他にもドライヘッドスパや療育特化の放課後デイを運営。2024年新たに「よもぎ蒸しサロン」FC事業を開始。