※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

1977年に設立されたファーストキッチン株式会社は、ハンバーガー&サンドウィッチ、パスタなどを楽しめるファストフードチェーンとして長年親しまれてきた。2016年以降は、アメリカ発のハンバーガーショップ「ウェンディーズ」と合体した、「ウェンディーズ・ファーストキッチン」の店舗展開も進めている。今回は、代表取締役社長の紫関修氏に、就任の経緯や会社の強み、飲食チェーンとしての展望をうかがった。

サービス業に魅了され、数々の転職を経験したのち経営者へ

ーー人生におけるターニングポイントを教えてください。

紫関修:
「会社を辞めてアメリカに行ってくる」と母に伝えた上で、テキサスの語学学校に短期留学したことが大きな転機です。当時、私はテレビドラマの影響で、将来はホテルの総支配人になりたいと考えていました。しかし、実際にホテルで働き始めてから、経営者に必要な知識が足りないと気づいたのです。

そこで、勉強しようと決意し、お金を貯めるための一時帰国を経て、29歳の時にボストン大学でMBAを取得。帰国後はコンサルティング会社に入社したものの、サービス業が恋しくなり、日本マクドナルドに転職したことが飲食業に長く関わるきっかけとなりました。

ーー貴社の社長に就任するまでの流れもうかがえますか?

紫関修:
日本マクドナルドでは、経営企画部長まで経験させていただきました。その後、とあるご縁で、「ゴルフ業界を変えよう」と奮闘するゴルフパートナーと出会い、入社。この会社では副社長に就任し、上場にも携わらせていただきました。

次に目指したのは社長業です。当時、フレッシュネスバーガー事業を行っていた総合サービス業のユニマットに興味を持ち、自ら求人に応募しました。フレッシュネス創業者の栗原氏が退任される時期と入社が重なり、社長に就任した次第です。

2013年以降、ユニマットグループの経営体制が変化しました。それにともない、2016年に新体制となったウェンディーズ・ファーストキッチンの現職に着いたという流れです。

自分の感性とインフォーマル・コミュニケーションを大切に

ーーキャリア選びの軸にしてきた部分もお話しいただけますか。

紫関修:
自分が楽しいと感じることを軸にキャリアを決めてきました。お客様と笑顔で接し、仕事の手応えが日々分かる仕事が好き、という気持ちも大きかったですね。サービス業は極論を言えば、社長がいなくても明日のオペレーションが回る、非常に面白いビジネスだと思うのです。

自分の感性を見つめる方法として、私は毎年、職務経歴書を書いています。仕事内容が「以下同文」にならないように、達成したことや来年の目標を明確にする作業です。転職については、隣の芝生が青く見えるだけで行動せず、やりたい仕事を自分で取りに行く気概が大切です。

ーー社長業における心がけもうかがえますか。

紫関修:
休憩中の雑談など、インフォーマルなコミュニケーションを心がけています。会議のために作った資料を見るだけでは、価値観の共有は困難です。一方、何気なく交わした雑談からアイディアが生まれることもあります。そのため、インフォーマルなコミュニケーションをできるだけ取るように心がけているのです。

私は社員にも自身の心がけを伝えています。弊社に入って「中小企業にしては統率が取れている」と思った一方で、気になったのは社員同士の交流の少なさです。また、社長という立場上、間違いを指摘してくれる人が減り、都合の良い話しか耳に入らない状態に陥ることも危惧しました。自身が新しい価値観を得るためにも、社内の空気感を少しずつ変える必要があったといえます。

変化の中で生まれた「ウェンディーズ・ファーストキッチン」の挑戦をサポート

ーー貴社の強みを教えてください。

紫関修:
社内に根付いている、「サービスが第一」というカルチャーが一番の強みです。また、私が社長に就任してからの8年間で、変化に対してとても強い会社になったとも感じています。

弊社の社員たちは、自分たちの会社がサントリー様からウェンディーズ・ジャパンの傘下に移ることを受け入れました。そして、「ファーストキッチン」というブランドを「ウェンディーズ・ファーストキッチン」という形に変え、成功に導いたのです。

さらには、コロナ禍を含めてあらゆる「変化」を乗り越えてきました。私は、どんな状況でもチャレンジを続けてきた社員たちを誇りに思っています。また、彼らが持っていた強さを、経営者として迅速に活かした結果、会社が強くなったとも自負しています。

ーー斬新でユニークな取り組みが多い企業様だとお見受けします。新しいチャレンジをしやすい社風なのでしょうか?

紫関修:
はい。ただし、弊社が大切にするのは、社長の独断経営ではなく、みんなの知恵を結集して個々の力を発揮する、という社風です。社長の役割は、会社がつぶれない範囲で新しいチャレンジの可能性を見極めることではないでしょうか。

2022年に開始したトレーラー型のドライブスルーは、私がアイディアを出し、研究の末に社員たちが実現しました。新たなチャレンジを会社が後押しした取り組みの一つですね。

とはいえ、ドライブスルー店舗は大成功とは言い難い状況です。ハンバーガーの本場・アメリカのように、日本でも主流になりえるマーケットだと信じ、認知度を上げていきたいと思います。

飲食業界に新たな顧客を生み出す「価値あるブランド」へ

ーー今後の展望をお聞かせください。

紫関修:
私は、巨大な消費者層である団塊の世代が非アクティブとなった時に、いろいろな業界がダメージを負うと考えています。たとえば、個人経営の飲食店が減り、シャッター街になってしまう地方都市に近い現象が、都心でも起こるのではないでしょうか。

そうなった時に備えて、チェーン展開する規模の企業は、既存店舗の魅力を高めて、飲食業界に新しい顧客層を作ることに注力するべきだと言えます。その過程で価格競争になったとしても、価格だけの差別化ではなく、サービス・商品の総合的な価値を高めていきます。

編集後記

サービス業を愛する者として、経営のプロとして、多くの企業で経験を積んできた紫関社長。重んじてきたのは、「新しいことにワクワクしていたい」というチャレンジ精神だ。複数の転機においては、家族にもかかわる環境の変化があったという。何かを得る際は、相応のリスクが伴うものだが、自分との対話を欠かさないことで進むべき道が見えるのかもしれない。

紫関修/1961年生まれ。1985年、東急ホテルチェーンに入社。退社後、ボストン大学でMBAを取得。日本マクドナルド株式会社、株式会社ゴルフパートナー、ユニマットグループなどを経て、2012年に株式会社フレッシュネスの代表取締役副社長に就任。2013年に社長へ昇格。2016年、ウェンディーズ・ジャパン株式会社の代表取締役社長、ファーストキッチン株式会社の代表取締役社長に就任。