
1946年に創業した和菓子メーカーながら、時代の変化に柔軟に対応し続けてきた株式会社 宗家 源 吉兆庵。同社は四季折々の果実を活かした菓子づくりを得意とし、全国に8グループ約450店舗を展開している。
百貨店の衰退やギフト需要の減少という逆風にもかかわらず、シンガポールからニューヨークまで、8カ国40店舗の海外展開を実現させたという。和菓子の伝統を守りながら、グローバルな視点で新たな挑戦を続ける、同社の代表取締役社長(※)の河藤誠紀氏に話をうかがった。
(※)役職は取材当時のものです。
岡山の名産品に頼らず独自の商品を全国に展開
ーー貴社が全国展開を果たした経緯について教えてください。
河藤誠紀:
私が入社した頃は山陽新幹線が開業したばかりで、岡山県を訪れる観光客が多い時期でした。当時、岡山に観光に来られた方がお土産として決まって購入していたのが「きびだんご」です。
ですが、弊社は創業者・岡田寅太郎のポリシーのもと、独自に果実を使った菓子を開発しました。そして現在、これらの商品は全国各地の百貨店や直営店で販売されています。この方針は他社との差別化だけでなく、県外でのシェア拡大に繋がりました。
ーー果実をお菓子に使用する際、どのようなことに苦労されているでしょうか?
河藤誠紀:
原材料として使用する果実の供給が、需要に追いついていないことです。日本の果実は海外から高い評価を得ており、百貨店でギフト用として販売され、インバウンド需要が特に高いのです。そのため、フレッシュな果実を使用した弊社の商品が、海外へのお土産として選ばれる要因にもなっています。
弊社も新鮮で質の良い果実を原材料として求めているのですが、加工用の果実は生産者にとって規格外の商品であり、値段も一般的な相場よりも低い価格で取引されるため、積極的につくっている農園はありません。そこで、JAと連携協定を結んで、弊社のために加工用の果実を生産してもらったり、自社農園や契約農家で果実を生産しています。
また、果樹園や農家は、担い手不足の問題を抱えています。果実のつくり方は、それぞれの農園単位で固有のやり方があり、一朝一夕でそのやり方を習得できるものではありません。また、果樹は植えてから実ができるまでに最低でも3年ほどかかります。
当然、その間は赤字ですので、それがネックとなり、農園の人材不足を招いているようです。今後、地域の農園に新しいリーダーが現れて、加工用と生食用の果実を栽培してくれれば、弊社と地域の農園間でWin-Winの関係が築けるのではないかと期待しています。
百貨店の衰退で販売戦略を変革

ーー社長に就任されてから現在までの2年間の所見をお聞かせください。
河藤誠紀:
社会全体が大きな変革の時代を迎えたという印象がありますね。特に、弊社の商品を販売していただいている百貨店の業態が大きく変わっています。お中元・お歳暮の文化が衰退したことで、ギフト商品の売上が右肩下がりになりました。百貨店そのものがなくなってしまった地域も多々あり、弊社としても、危機感を感じています。
これまで弊社はギフト需要を見込み、百貨店を中心に商品を販売してきました。現在は、新たな販売経路を開拓すべく、ターミナル駅や商業施設、量販店、コンビニエンスストアなどでグループ内の販売会社ごとに商談を進めているほか、ネット通販での売り方も模索しているところです。時代にあわせて、販売チャネルを大きく変えていかなければいけないと感じています。
ーー今後はどのように事業を拡大していく予定ですか?
河藤誠紀:
弊社は、アメリカ、イギリス、カナダ、シンガポール、台湾、香港、タイ、ベトナムの8カ国に、40店舗を有しています。昔は海外のデリバリーサービスは日本ほど発達しておらず、売上を上げるためにはエリアごとに店舗を構える必要がありました。現在は配達事情が改善され、広い範囲にデリバリーできるようになっています。
主要都市に拠点を設け、そこから発信すれば、その国の方が注目してくださるという仕組みに変わってきたのです。そこで、弊社は2024年5月にアメリカ・ニューヨーク5番街に旗艦店を出店しました。
欧米ではギフト商品は主にクリスマスの時期しか需要がありません。そのため、店舗で販売する商品は基本的に自家需要を見込んでおり、そこが日本と大きく違うところです。また、お客様の年齢層も大きく異なり、日本においては高齢のお客様が中心ですが、海外では若い方々が購入されます。今後は、お客様のニーズや好みにあわせた商品の売り方や魅せ方も考えていく必要があると感じています。
新しいことにチャレンジし続ける老舗企業でありたい
ーー最後に、今後の展望を教えてください。
河藤誠紀:
過去の日本においては「創業何百年」という言葉が重みを持ち、それが老舗として誇るべきことのように考えられてきたように思います。しかし、現在は価値観が変わり、老舗企業であってもどんどん新しいことにチャレンジする姿勢が重要です。
弊社も長い歴史の中で伝統を守り続けるだけではなく、時代の変化に柔軟に対応してきました。今後も海外事業やネット通販など、新しい取り組みを行い、変化し続けていきたいと思います。
また、社内における課題としては、人材不足が挙げられます。従業員・スタッフ一人ひとりが働きやすい職場を目指し、それぞれの長所を発揮し合える会社になれるよう努めてまいります。今後は、皆さんが働きやすいように製造現場を改善しつつ、ジェンダーレスな職場づくりを目指します。社員一人ひとりが、それぞれの長所を発揮し合える会社になれたら素敵ですね。
編集後記
名産品に頼らないという創業者の決断から始まり、果実菓子という独自路線を確立。今では世界8カ国に展開するまでに成長した歴史に深い感銘を受けた。河藤社長の「老舗も新しいことにチャレンジすべき」という言葉から、伝統を守りながら革新を続ける同社の姿勢がうかがえる。百貨店の衰退やギフト需要の減少という課題に対しても、前を向いて新たな挑戦を続ける姿勢に、老舗企業の真の強さを見た。

河藤誠紀/源 吉兆庵グループに入社後は管理、製造部門に携わり、専務執行役員、副社長を歴任。2022年、株式会社 宗家 源 吉兆庵代表取締役社長に就任。(現:株式会社源 吉兆庵 取締役社長)