※本ページ内の情報は2025年10月時点のものです。

環境計測、特に水とガスの計測分野で独自の地位を築く株式会社アナテック・ヤナコ。大手が参入しないニッチな市場で、顧客ごとのカスタマイズに応える高い技術力と「壊れない」と評価される装置の信頼性を強みとしている。同社を率いるのは、代表取締役の桺本依子氏。かつて家業に興味がなかった桺本氏だが、社員の熱意に押されて社長に就任した。「1000年企業」という壮大なビジョンを掲げ、組織改革、海外展開、新技術開発と、未来に向けた挑戦を続けるその歩みと経営哲学に迫る。

社員の思いが導いた青天の霹靂の社長就任

ーー社長就任までの経緯を教えていただけますか。

桺本依子:
弊社は、1892年創業の柳本製作所という分析機器メーカの環境計測部を前身とする環境計測機器メーカーで、創業家でない方が代表を務めておられました。私は3人姉妹の次女で、跡継ぎとして育てられることはなかったので、父がどの様な事業をしているのかすら理解していませんでしたし、正直なところ、全く興味がありませんでした。そのため、旅行が好きだったこともあり、私は全日本空輸に就職しました。

結婚・子育てを経て、ある日父に頼まれて父の仕事を手伝うことになりました。最初はアルバイト感覚でしたが、父に色々な課題を与えられ、それを解決していく創造的な仕事が性に合っていたようで、どんどんのめり込んでいきました。そしてある日、弊社の社員から社長就任の話をいただいたのです。話を聞いた時は、まさに青天の霹靂で、社長業の厳しさを知る父からは猛反対されましたが、一大決心で引き受けてしまいました。

ーー社長に就任された当時、会社はどのような状況でしたか。

桺本依子:
弊社の中心事業である水質計測は、日本の水環境が改善されるにつれて右肩上がりの市場ではなくなってきていました。加えて、社員のほとんどが年配の方で、若手はごく少数「このままでは未来がない」と強い危機感を覚えました。そこで、長い間途絶えていた新卒採用を再開するため、環境整備からスタートしました。まず、2008年に会社を宇治市から京都市伏見区に移転して新社屋を建設しました。2009年から毎年新卒採用が始まり、丁度リーマンショックの最中だったこともあって優秀な人材採用が出来、今では20代、30代の若手が社員の半数近くを占める、活気ある組織になっています。

大手が挑まぬ領域で磨き続ける技術と信頼

ーー貴社の事業内容と強みについて教えてください。

桺本依子:
事業の約8割は、河川や工場排水などの「水」を24時間365日監視する水質計測装置関連事業です。その他に、工場から出る「ガス」を連続測定する装置なども手掛けています。私たちの強みは、大手が参入しないニッチな領域に特化している点です。たとえば、成分が複雑で測定が難しい排水など、お客様ごとに細かくカスタマイズした装置を開発できる技術力が高く評価されています。

ーー多くの大手企業から選ばれる理由は何だとお考えですか。

桺本依子:
多様な環境でも正確に計測し続ける信頼性と堅牢性です。工場では測定に不具合があると生産工程も止まってしまうため、装置の安定的な稼働は極めて重要です。弊社の装置は過酷な状況下でも稼働率が非常に高く性能が良いという安心感が、長年にわたり選ばれ続けている理由であると理解しています。

創業130年から1000年企業への新たな挑戦

ーー今後の成長に向けて、どのような戦略を描いていますか。

桺本依子:
国内では、時代に即した新装置の開発やアフターメンテナンスをさらに充実させていきます。そして、今後の大きな成長軸となるのが海外展開や新しいマーケット向けの新商品の開発です。現在は韓国・中国・ベトナムに代理店がありますが、特にインドに注力しており、2025年4月にインド現地法人を設立しました。インドでは、大気汚染や水質汚染が深刻な問題となっています。弊社の技術で、こうした環境問題の解決に貢献したいと考えています。インド市場を足掛かりとして、中東、アフリカのマーケットにもとても興味があります。

ーー未来を担う人材育成は、どのように進めていますか。

桺本依子:
現在、会社の中核を担っているのは30代後半から40代の社員です。彼らを次世代の経営幹部として育成することに力を入れています。やはり、会社の一番の財産である社員の教育は必須であり、外部講師研修なども実施しながら、より高い視座で経営を考えられる人材を継続的に育てていきたいです。また、海外からの人材も積極的に採用していく予定です。

加えて、人事評価制度も刷新しAIを導入したデジタルツールを取り入れたり、あらゆる業務のDXも推進しています。これにより、より生産性が高く働きやすい環境をつくっています。

ーー最後に、長期的な展望をお聞かせください。

桺本依子:
私たちのミッションは「計測の力で未来に誇れるものづくりを」です。そのために、常に新しいことに挑戦し続けます。水質計測の技術を応用した新しい分野で活躍する新製品の開発も進行中です。時代の変化に乗り遅れるのではなく、むしろその先頭を走り、「測る」技術で未来に貢献していく。これが、1000年企業を目指す私たちの行動指針です。

編集後記

家業に無関心だった状態から、課題解決の面白さに目覚め、ついには社員に請われて経営者へ。桺本社長の歩みは、まさに挑戦の連続だ。その根底には、常に「1000年企業を目指す」という長期的な視点がある。現状維持を良しとせず、未来を自ら創造しようとする強い意志が「測る」という技術の可能性を無限に広げている。同社の挑戦が描く未来に、大きな期待を寄せたい。

桺本依子/1984年、全日本空輸株式会社に入社。結婚・出産を経て、2003年にヤナコ分析工業株式会社へ入社。2006年に株式会社アナテック・ヤナコ代表取締役に就任。現在は、次世代人材育成や海外進出を推進している。