“メンタルヘルスケア”で生産性が向上!?
業界トップシェアを誇る、その強さの秘密とは


株式会社アドバンテッジリスクマネジメント 代表取締役社長 鳥越 慎二

※本ページの情報は2017年2月時点のものです。

EAP(従業員支援プログラム)サービスで業界トップシェアを誇り、同業界で国内唯一の上場企業でもある株式会社アドバンテッジリスクマネジメント。

同社を牽引する代表取締役社長、鳥越慎二氏は、コンサルティング会社での経験をもとに、1995年、休職者の収入を補償する保険「団体長期障害所得保険(以下、GLTD)」専業代理店として創業。企業のメンタルヘルス対策にも意欲的に取り組んでおり、2002年に事業を開始。ストレスチェック義務化に対応したプログラムを始め、採用時から休職・復職までの、あらゆるシーンでメンタルに特化した独自ソリューションを提供している。世の中の働く従業員が抱えるメンタル上の様々な問題にアプローチしていくことで、働き方の改革・改善に踏み込んできた。現在進行形で強い組織作りをリードしていく鳥越社長の生い立ちや創業時代、今後の展望まで話を伺った。

鳥越 慎二(とりごえ しんじ)/東京大学経済学部経済学科卒業。コンサルティング会社在籍中にノースウエスタン大学にてMBAを取得。その後、株式会社アドバンテッジパートナーズの代表パートナーから声をかけられ、同社の中で別会社として株式会社アドバンテッジリスクマネジメントを設立。1995年、休職者の収入を補償する保険「GLTD(団体長期障害所得保険)」専業代理店としてスタートして以来、企業のメンタルヘルス対策にも意欲的に取り組んでおり、2002年に事業を開始。ストレスチェック義務化に対応したプログラムを始め、採用時から休職・復職までの、あらゆるシーンでメンタルに特化した独自ソリューションを提供している。「企業に未来基準の元気を!」をコーポレートメッセージに据え、さまざまな企業の課題と日々向き合い、個人と組織の抱える「働けないリスク」に取り組み続けている。

学生時代から育まれた経営への興味

―鳥越社長の学生時代のご家庭の環境などについて、お聞かせください。

鳥越 慎二:
私はどちらかといえば、ごく一般的な家庭に生まれました。父は地銀務めとして中小零細企業の経営状況を見ることが仕事のひとつでした。よく自宅でも仕事をしていたので、父に「どんな仕事をしているのか」と、よく質問していました。元々、私は人の下につくより自分で好きなようにやりたい性格でしたので、割と早い段階から“会社を経営すること”には興味がありましたね。大学で経済学部を選んだのも、そのような背景からで、大学3年生~4年生の間は経営のゼミに所属していました。

当時はコンサルティング会社に入り、MBAを取るということが、ゼミの中でもよく話題になっていました。MBAは、コンサルティングの現場では得られない経営の知識を学べるという事で先輩にも勧められておりましたので、コンサルティング会社に入ってからは、その考えを具体化していきました。


―他人に指示されるより自分で進めたいという事でしたが、企業の中で、自分の意思を通すことは難しかったのではないでしょうか。

鳥越 慎二:
おっしゃる通りです。コンサルティング会社は、今でこそ成功報酬がありますが、当時ではそういったものがありませんでした。単価を払えば終わりであって、それが大成功で終わってもお金が沢山貰えるわけではありませんし、逆に大失敗に終ってもお金を取られることもありません。結局いつまでたっても他人事であり、主体ではないわけです。そこでやはり自分で起業したいと改めて感じ、MBAを取得した後、入社から7年弱で退社しました。

人事ソリューションを提供する

―起業したきっかけをお聞かせください。

鳥越 慎二:
事業そのものは、「アドバンテッジパートナーズ」という既にあった会社から始まりました。同社は“インキュベーション(起業育成・支援)を目的とした、起業したい人向けのインフラを提供する会社”で、1人・1パートナー・1事業というように事業を立ち上げて、立ち上がったらスピンオフして会社にしていく、というのがコンセプトでした。

その代表パートナーから「鳥越さんもこない?」と、声をかけて頂きました。インキュベーションなので、オフィスもあり、人もいて、取引銀行も用意されています。当初すでに4~50人の社員がアドバンテッジパートナーズにはいましたので、そこから私の事業に興味がある人を2、3人もらって、オフィスの一角を借りてアドバンテッジパートナーズの中での別会社として事業をスタートさせました。

―御社の事業についてお聞かせください。

鳥越 慎二:
GLTDについて言えば、通常、保険代理店というのは、保険会社に任された売り方で商品を売り、保険会社に言われたように商品をメンテナンスするのが従来の仕事でした。しかし我々の場合には、お客さんのサイドに立って、お客さんの作りたい制度をヒアリングして設計しています。

保険の掛け金は、会社が全額負担するケース、あるいは会社と従業員がそれぞれ負担するケースがありますが、いずれにしても保険金そのものは従業員に満額支払われます。会社には全くメリットがないのですよ。でも、それをやるのは、福利厚生としてGLTDを導入すれば、従業員サイドから見れば「うちの会社こんなこと始めたのか。いい会社だな。」と、会社としてのロイヤリティが高まります。いわば人事施策なのです。

我々は、そのような人事施策を背景に会社を説得しているので、我々と会社の目線は、その保険商品がいかに人事制度を成功させるために有効であるかどうかです。GLTDのサービスには、従業員が休んだ後の復職支援や、復職規定などを作るお手伝いも含まれています。我々は保険を使った、従業員のモチベーションを上げるための制度を考え、設計し、売っています。保険の形態をしていますが、通常の保険代理店というわけではありません。

メンタルヘルスケアで言えば、GLTDのサービス上で、従業員がどんな理由で欠勤・休職したのか、1ヶ月ごとにお客さんにフィードバックしていた時期がありました。すると、ある会社では休職理由の30%以上がメンタルヘルス不調で一番多かったのです。メンタルヘルス不調が原因で休職した場合、原因は会社にあるし、休職者本人だけでなく、周りの人の負担も大きい。人事としては、会社がお金を出してでもメンタルヘルス不調を予防させたい、休職前後のサポートをしてほしいというニーズがあったので、それらをお手伝いする事業が始まりました。

需要が高まりつつあるメンタルヘルスケア

―御社の5年後、10年後の展望についてお聞かせください。

鳥越 慎二:
GLTDに関しては、アメリカで従業員数100名以上の会社ではほとんど加入していますが、日本はまだまだ初期段階ですし、普及率も低いです。メンタルヘルスケアに関しては、現在、ストレスチェックが義務化されたことで認知は高まっています。ただ、まだ1年目なので、法令遵守を主眼に置いている会社も多いですね。1人あたり数百円程度の簡単なものもありますが、実際踏み込んだ対策はできないのが現実です。本当にメンタル上の課題を解決するなら、1人数千円使って、相談窓口(カウンセリング)の設置や専門家による集団分析などを行って原因を探り、対策を講じなければ効果がないと思います。

例えば、従業員1000人の会社が1人3000円をメンタルヘルス対策として投じると、1年間に300万円の費用がかかります。一見かなり高いように見えますが、1人がメンタル不調等で休職した場合、休職中の本人への手当や周囲の業務調整、残業代、事務対応等や、穴埋めのための採用コストなどを合わせると約600万円かかると言われています(※年収600万円の方が半年間休職した場合)。300万円を投じて休職者が1人いなくなるだけでも大きなメリットがあるわけです。今はまだまだスタートラインで、今後さらなるマーケットの深化が見込めます。

また、メンタル事業に関連する周辺事業も沢山あります。人材育成ビジネス、人材教育ビジネス、産業医療領域、さらに健康診断と一緒にやってほしいなどのフィジカル面と併せたサービスのニーズもある。ゆくゆくは、健康経営ビジネスと称して総合的なメンタルケアを目指していけると思います。

“企業に未来基準の元気を”をテーマとする強い組織の真髄とは

認知対処行動がプラスに働く人が多い組織ほど強い組織に近づくと鳥越社長は語る。

―強い組織を作るためには何が必要だとお考えでしょうか?

鳥越 慎二:
“認知対処行動”と言って、これはとても重要です。物事の受け止め方の癖というものが人によって違い、苦境があった時にそれを糧にして伸びるのか、それでへこたれてだめになってしまうのか、その行動パターンがどちらに行くのかはその人の物事の基本的な考え方によります。

その観点で考えると、できるだけ考えがプラスに向いて、刺激に対しての耐性が高く、やる気に繋げられる人が多い組織が強い組織だと言えます。何か起きたときに、考えても仕方の無い事をいつまでも悩んでいる人がいますが、何らかの苦境が起きた時に自分がどの傾向かを認識出来ているだけでも、随分違うと思いますよ。落ち込んだ時、自分の傾向に気がつき、行動に目を向けることにより、初めは感情のコントロールが難しくても、だんだんと出来るようになるものです。


―貴社では、どういった人材を求めていますか?

鳥越 慎二:
よくどんな方に右腕になってもらいたいか?という質問をされるのですが、僕は刺激を自分の糧にして捉えられ、プラスに行動してくれる人に右腕になってほしいですね。

あともう1点、頭のよさと行動力ですが、これはなかなか両立できない人が多いです。動きが早い人はそこまで考えていなくて間違いばかりの人が多いし、頭のいい人は考え込んでしまってなかなか行動に移せない人が多いので、その中間くらいの人がいいですね。ちゃんと考えるのだけど、考え込まないで、ぱっと動く。なかなかいませんが、弊社ではそういった人材が欲しいですね。

今後の展開と必要とされる人物像

―今後、新しく力を入れていきたいことはございますか?

鳥越 慎二:
私が個人的に描いているものですが、みんなが生き生き働けるような環境を阻害する要因を無くしたいと考えております。社会的に介護や育児は働けなくなる要因になりかねないし、働けても、それが原因で仕事に集中できないという事があります。そういった問題の解決に貢献したいですね。我々は会社相手ですので、会社と一緒になって考えていければと思います。また、今あるGLTDの考えが介護や育児にも繋がると面白くなると思いますね。

編集後記

鳥越社長は、幼い頃に会社を良くしようと尽力する父の背中を見て育ち、経営の道をひたむきに歩いてこられた。現在の社会の世相をマッチングさせたアイデアによって企業を強い組織へリードしている。今後も、日本社会の原動力である働き盛りの人々たちが芯から安心して働けるような、そんな働く環境作りを展開されていくだろう。介護や育児の面でどのようなビジネスを展開されていくのか、注目したい。