トラスコ中山株式会社 機械工具やメンテナンス備品など総数280万点を扱う専門商社。国内外に94拠点を構えるプライム上場企業 トラスコ中山株式会社 代表取締役社長 中山 哲也  (2023年11月取材)

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インタビュー内容

―業界最後発組からリーディングカンパニーへ成長できた秘訣―

【ナレーター】

200万点以上のアイテムと38万点以上の在庫数を有し、業界のリーディングカンパニーへと成長を遂げたトラスコ中山。その秘訣に迫った。

【中山】

「できればあなたのところから買いたくないけど、買わざるを得ない」という会社をつくるというのが私の理想です。

通常の考え方でいうと、販売会社が販売力を高めるには、お客様にどうPRしていくかを考えるのですが、当社はそうではありません。それをすると、どうしてもゲリラ戦で1件1件の勝負になってきますので、とてつもない時間と労力がかかってしまいます。

しかし、我々が今やっていますのは、仕入れをしてくる力を高めようということです。

ですから、品揃えを豊富にする。それから在庫をできるだけたくさん持つ。それと物流システムや情報システムの部分を強化していこうということです。これをやれば全てのお客様にその効果が波及するわけです。

我々はいまだに業界最後発の会社です。その中でどうして先頭集団にまで這い上がってこられたかというと、やはり人の考えないことをやってきたからだと思います。

私の主義でもある「人の思いつかないことをやる。人のやらないことをやる」というのは、やはり成功の秘訣、鉄則だと思っていますね。

【ナレーター】

多数決経営には力はないと言い切る中山。その根拠について、次のように語る。

【中山】

当社の多数決の答えは、間違いなく他の会社の多数決の答えとほぼ一緒です。誰もが考えることですから。

そうなってくると、同じ考え方を持った者同士が競い合ったところで、大して差がつかないというのが世の中の現実なのかなと思いますね。

ですから、在庫政策にしても、物流投資にしても、情報システムにしても、やはり我々は一番になってやろうとか、どうしてやろうというよりも、きちんと業界にとってのインフラの会社になるべきだと思っているのです。

「電気・ガス・水道・トラスコ」とよく言っていましたが、やはりモノづくりにとって必要不可欠なプロツール供給をどこよりもスムーズに、どこよりも早く供給できる会社になるのが、我々の大事な指針だと思っています。

―チャンスを掴む人間の特徴―

【ナレーター】

チャンスは万人に平等に存在し、それは運によって左右されるものではないと語る中山。チャンスを掴む人間の特徴とは。

【中山】

目の前に現れたチャンスを「チャンスが来た」ととらえられるか、気づかないで過ぎ去ってしまうかは、これは人生の大事な岐路だと思うので、やはり目の前のチャンスを取るべきだと思います。

それに気付くためには、やはり基本はきちんと仕事に真正面から真面目に向き合っているか、取り組んでいるかというところが大事なことだと思います。

ですから、きちんと自分の仕事に対して誰よりも当事者になって、「この仕事に関しては俺の右に出るものはない」というくらいの自信を持って取り組むことが、どんどんチャンスが見えるようになってくる秘訣ではないかと思っています。

【ナレーター】

チャンスを掴み、それを成長の糧にするためには、個人・企業問わず敵を作ることを恐れない心を持つことが大事だと、中山は語る。

【中山】

「敵がいないのは味方がいない証拠である」と、こういう言い方をしていますが、実際人間が生きていく、もしくは会社が経営方針としてやっていく中で、誰もがその方向とか考え方に賛同してもらえるわけではないですよね。

結局、「仲良く」と思っていると、そういった本来の自分たちが進むべき道を左に曲げたり右に曲げたりということになります。

その結果、そんなことしていると、見ている人から見れば「なんだ、あいつは。自分の信念がないのか」といった見方や取られ方にもなってしまうので、やはり自分たちが正しいと思って進む中では、多少ぶつかり合いがあってもそれを恐れずに進むということが非常に大事なことだと思うのです。

これは個人と会社、どちらにとっても当てはまることです。

―ユニークな制度と派遣社員不採用の真意―

【ナレーター】

2017年から3年連続でホワイト企業として認定されているトラスコ中山。その所以の一つが、従業員の家庭環境に合わせたユニークな制度があることだ。

【中山】

「おしどり転勤制度」ということで、例えば働いている女性社員のご主人が他の会社にお勤めの場合、例えば仙台に転勤になったとしたら、当社の女性社員も仙台に転勤をさせてあげる、“おしどり”での転勤を後押しする制度があります。

必ず半年か1年以内にはきちんと赴任をさせてあげるという制度です。

また、「ハッピーサンデー」という制度がありまして、今約100名前後の単身赴任者が私どもの会社にもいるのですが、彼らに日曜日の夜、家族団らんの時間をきちんと過ごしてもらえるよう、「月曜日の朝一番に家を出て会社についたらそれでOKですよ」という制度です。

【ナレーター】

先輩や上司に教えを請うという風潮についても、その行動が後の成長につながるような形に変えていきたいと、中山は語る。

【中山】

新入社員というのは何も知らないわけですから、必ず「質問をしたい」、「聞きたい」ということで来るものです。

今までの我々も含めてですが、新入社員が聞いてきたら、懇切丁寧に教えるというのが社会では一般的だと思います。

しかし、答えも持たずに質問に来て「答えを教えてください」と言われ、答えを書いてあげるような甘やかしは、新入社員の成長をかえって妨げることになるので、今年から、聞きにきたときには「ところで君はどう思う?」と聞き返すようにしています。

「君はどう思う?運動」ではないですが、「白紙で聞きにいったらだめだ」という意識を新入社員にも持っていただきたいというのか意図としてあります。

新入社員は新入社員、3年目の社員は3年目の社員なりに、何か答えを考えてきてから聞く。それに対して上司がアドバイスをする。そんな地道な活動の中で人づくりをしていきたいなと思っています。

【ナレーター】

トラスコ中山では派遣社員を採用していないという。その理由に迫った。

【中山】

誰でも、できれば「いい人生だった」と思える人生を歩みたいですよね。できるだけわだかまりが少なく仕事ができる環境というのを、やはり会社としては制度として行うべきです。

ですから当社に派遣社員がいないというのは、「人生のいいとこ取りをするな」という発想からです。

「人生のいいとこ取り」というのは、「何日の何時から何時まで人手がいるから来てください」ということが当たり前のように言われていますが、それはその人のその部分だけをすぽっと抜いているだけで、「後は知らない」という世界でしょう?しかし人生はそんなものではありませんよね。

ご飯が食べられる、生活ができる、所帯が持てる、そういう給料を払う義務や責任が、会社にはあると思っています。

―数値目標よりも重要な「能力目標」とは―

【ナレーター】

今後の展望について、中山は次のように語る。

【中山】

在庫が約37万アイテムありますが、この数字を2023年には50万アイテムに拡大しようということで今、進んでいます。

我々は卸売業なので直接販売はしていませんが、エンドユーザーさんまで届けられる機能を持てば、無駄な運賃や労力を減らしていけるのではないかということで進めています。

もう少し今よりは進化させた形でやりたいなと思っています。意外かもしれませんが、我々の扱っている商品はそれほど最先端なものではありません。

ですから、いつもの商品を世界最先端の物流でお届けするという、ここが面白いなと思っているのです。

まさか、いつも買っているドライバーが、いつも買っているあのモンキーレンチが、こんな物流システムで回ってくるのかというのは意外性があるかなと思っています。

【ナレーター】

トラスコ中山では、数字目標よりも会社としての能力を高め、機能を身につけることの方を重要視しているという。その真意とは。

【中山】

当社はうそのように、あまり数字の追求がない会社なのです。

例えば「ユーザーさんに対して直送サービスをできる体制をきちんとつくろう」とか、もしくは「24時間365日受注と配送ができる会社にしよう」とかといった点に重きを置いています。

ですから、数値目標ではなく、どちらかというと「能力目標」というのでしょうか。私はこちらの方が実は大事なのだと考えています。

そういう面では、我々がもっと幅広い能力をつけなければなりません。数字ではなく、いわゆる機能ですね。会社が持つ機能をどう高めていくかというのが、今、大きな経営課題です。

―企業の存在価値は「人や社会のお役に立つこと」―

【ナレーター】

「人や社会のお役に立ててこそ、企業の存在価値がある」。日本、そして世界のモノづくりを支えるべく、トラスコ中山の挑戦は続く。

【中山】

社員教育の一番の基本ですが、自分たちの仕事がきちんとお客様の、世の中の、社会のお役に立てているかどうかというところがあってこその、社員教育だと思っています。

単純に研修を受けさせれば教育ができて、人が成長するというものではありません。

やはり日々の仕事の中でお客様からいただく一言、「いつも助かっているよ」、「いつもご苦労だな」という、こうした声が社員のやりがい、教育、全てにつながっていくものだと、私は思っています。

いくら私が社員の頭をなでたところで、お客様の「いつもご苦労だね、助かるよ」という、さりげない一言には敵わないと思っています。それは忘れてはいけません。

きちんと社会に貢献できる企業づくりについては、目が離せないところだと思いますね。

【ナレーター】
モノづくりの現場で必要とされるプロツールを取り扱う専門商社、「トラスコ中山株式会社」。

業界最後発で創業した同社は、「枠にとらわれない発想」を原点に、顧客の利便性を追求してきた。現在、在庫58万アイテムを展開し、物流センターを全国28か所に保有して、商品の即納を実現。

最近では、複数の商品を一箱にまとめて発送する「ニアワセ」、ユーザーに直送する「ユーチョク」といった独自のサービスにも力を入れている。

また、経済産業省・東京証券取引所・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が共催する「DX銘柄」に2020年から3年連続で選定され、2023年には「DXプラチナ企業2023-2025」にも選定されるなど、DXの領域においても、その存在感を際立たせている。

モノづくりの現場を支えるプラットフォーマーを目指し、歩みを進める経営者が思い描く未来像とは。

【ナレーター】
数値目標よりどんな企業になりたいかという「能力目標」を持つことが重要だと、代表取締役社長の中山哲也氏は語る。

【中山】
通常、目標というと「売上はいくら」。もしくは「利益がいくら」という金額に表せるものが多いのですが、それとは別に、我々には「能力目標」という考え方があります。

例えば「100万アイテムを保有できる会社になろう」。もしくは「1日24時間365日、受注と発送ができる会社になろう」など、金額ではない能力の目標を掲げています。

実は、これらの実現にはすべて、デジタル技術が必要です。100万アイテムというと、人間の勘や勇気と努力ではどうにもならないわけですから。すると、デジタルを使わなくてはいけない。

そうした、いろいろなものの積み重ねが「DXグランプリ企業」の選定や、今年の「DXプラチナ企業2023-2025」をいただくことにつながったのだろうと思います。

【ナレーター】
中山の原点は、入社2年目に体験した出来事にある。現トラスコ中山に新卒で入社し、配送業務を担う部署へ配属。顧客からの何気ない言葉を通じて、あることが最も重要だと気づかされたという。

【中山】
お客様から、今の業務につながるようなうれしい言葉をかけていただきました。商品を配達したときに、「中山くん、それ待ってたんや。助かった、ありがとう」と。それは、入社2年目の私には非常に心を打たれる言葉でした。

そのときに、うれしいだけではなく、「配達という仕事もおろそかにしてはダメだ」と実感したんです。

それからずっと、配送については自社で行い、その後も自分たちの力で配達できる仕組みを残し続けました。

今、物流が非常に強い会社になっている一番の原点は、そのお客様の一言がきっかけですね。

【ナレーター】
その後、常務取締役、専務取締役を経て1994年、35歳の若さで代表取締役社長へ就任。これを機に、中山は改めてこの会社の使命を考えたと振り返る。

【中山】
当社は機械工具という商品を通して日本の製造業、ものづくりのお役に立つことが会社の使命だと考えました。

その後、「がんばれ!! 日本のモノづくり」というキャッチフレーズとともに、日本のモノづくりのお役に立つ会社になろうと、改めて思ったわけです。

お役に立つためには、支店をもう少し増やさなくてはいけない。物流センターも、もう少しつくらなければいけないということで、新たにやるべきことが見えてきたのです。

【ナレーター】
社長就任から約30年、「これまで経営危機に直面したと思ったことは一度もない」と語る中山。その真意とは。

【中山】
経営危機は回避できると思っています。どんな業界で、どんな会社であっても回避できる。

それはなぜかというと、経営危機に陥らないようにいろいろな策や手立てを前もって打つことができるからです。

今回のコロナでも、我々の業界全体では大体20~30%ダウンが平均値でしたが、私どもは3%と少し。業界平均から見れば、はるかに低い業績ダウンでした。

ただそれは、ラッキーなのではなく、弊社の物流が活きた結果であることは間違いありません。

私は、根っからの心配性。加えて、自前主義です。自社で持っていることほど強いものはないという考えですね。

例えば、配送にしても運送会社さんにお任せしたほうが安いかもしれません。でも、損か得かという判断ではなく「会社の大動脈は他人資本に依存しない」という考えでやっていますので、物流センターもすべて保有しています。

しかも車両からコンピューターにいたるまで、すべて買い取り。非常に珍しい会社だと思います。

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経営者プロフィール

氏名 中山 哲也
役職 代表取締役社長
生年月日 1958年12月24日
出身地 大阪府
座右の銘 教科書にない経営
略歴
1981年3月 中山機工株式会社(現トラスコ中山株式会社)入社
1984年10月 取締役
1987年12月 常務取締役
1991年12月 代表取締役 専務取締役
1994年12月 代表取締役社長(現任)

会社概要

社名 トラスコ中山株式会社
本社所在地 東京都港区新橋4-28-1 トラスコ フィオリートビル
設立 1964
業種分類 卸売業
代表者名 中山 哲也
従業員数 3,043(2023年12月末時点)
WEBサイト http://www.trusco.co.jp/
事業概要 生産現場で必要とされる作業工具、測定工具、切削工具をはじめ、あらゆる工場用副資材(プロツール)の卸売業。 プロツール唯一の総合カタログ「トラスコ オレンジブック」を年間約16万部発刊、プロツール検索サイト「トラスコ オレンジブック.Com」では約410万アイテムを公開し、モノづくり現場の資材調達の利便性向上を使命に企業活動を行う。
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