【ナレーター】
配られた紙の数字を、順番に読み上げるだけの会議. そして彼女には、もう一つ、見えないものがあった。
【藤﨑】
みんなで頑張ろうっていう気持ちはあるんだけれども、ではドムドムが皆さんにどういう風に思っていただいて、どこに向かっていけばいいのか。そのことが私には見えなかったんですね。
ですので、この2つを考えた時に、何かを変えなければいけないと思いました。
【ナレーター】
会議のかたちを変え、会社の指針をつくる。 しかし彼女は、入社したばかりの、社内で最も新しい人間だった。
【藤﨑】
経営ミーティングの中だと、私が一番最後に入って、スーパーバイザーって方は他にもいらしたので、立場的には私が一番新しいわけです。そこで何を言っても変わらないと思ったんです。
だったら経営ミーティングではなくてその上、取締役会に参加できれば、会議のスタイルも変えられるし、それから指針も作っていけるかな っていう風に思ったんですよね。
【ナレーター】
彼女は自ら取締役会へと足を運び、こう告げる。
【藤﨑】
そこで「役員にしてください」と伝えました。もちろん断られました。「何の数字も出していないのに」と。でも私は諦めきれませんでした。
【ナレーター】
何の実績も出していない人間の、前代未聞の直談判。 訴え続けた末に、会社が出した答えは -社長への就任だった。ただし、条件がついていた。
【藤﨑】
私は2020年の3月まではスーパーバイザーも兼ねてたんです。要するに大赤字だったので、それを改善するために私が社長になることの条件の中の1つが、スーパーバイザーをそのまま続けて、営業部長もやって社長もやってってことで。
他のスーパーバイザーは全部なしにすると。店長クラスも全部下げる。やはり資金的なものもあります。「それでもできますか?」と。
それから「接待交際費もないです」「広告宣伝費もないです」という状況の中で、「社長をやりますか?」ということだった。
【ナレーター】
社長でありながら、営業部長を兼ね、スーパーバイザーも続ける。他のスーパーバイザーは全員、店長クラスへ降格、 交際費なし、広告宣伝費なし。
それでも、やりますか。
2018年8月。 藤﨑は、その条件を飲んで社長に就任した。
【藤﨑】
私2018年の8月に社長に就任したのですが、2020年の3月まではスーパーバイザーも兼ねてましたので、会社にいるのは月曜日のミーティング日だけでした。
あとは本当に火曜日から日曜日まで店舗を回ってた。要するにみんなと接していたということです。
【ナレーター】
週に6日、全国の店舗へ。 彼女が徹底したのは、命令ではなく、対話だった。
【藤﨑】
命令する雰囲気ではなく、「こういう商品が出ますのでみんなで売っていきましょう」という表現をしてくださいと。また、「思いやりのある言葉がけ」と言っているのですが、「思いがある言葉がけ」って言葉がけと違うんですね。
「思いがある」ということは他者をちゃんと見ているということなのです。見なければ言葉は発せられません。それを互いにラリーすることによって信頼関係は構築できるのです。
【ナレーター】
思いのある言葉は、相手を見ていなければ出てこない。 泥臭い対話の往復が、組織を、少しずつ動かしはじめた。
しかし、組織に変化の兆しが見える中、広告宣伝費がゼロのままだった。
最大手がひしめくファストフード業界で、予算のない中、何を売るのか。彼女がまず取った行動は、店の外に出ることだった。
【藤﨑】
お客様がドムドムに何を思っていらっしゃるのか知りたかったので、外に出てポップアップを展開しました。そうこうしているうちに、SNSの時代ということもあり、皆様がどう思っているかが分かってきました。
その中で、ブランドをお客様と一緒に作っていこうと考えました。そして2つのコアコンセプトが決まって、1つが「お客様とブランドを作る」、もう1つが「美味しいはお客様との最低限のお約束」です。
どこへ行っても何を召し上がっても、今は美味しい時代です。なので、美味しいの上をいくもの、付加価値のあるものを作っていきましょうというところから、ああいう商品ができてきました。
【ナレーター】
美味しさは、もはや当たり前。約束にすぎない。その上をいく付加価値をつくるために、彼女は開発の場から、多数決を排除した。
【藤﨑】
ハンバーガーの開発に関しては、あまり大人数で決めていません。私も含めて3人で決めます。あまり大勢で決めると、美味しいの基準は皆それぞれ異なりますから。あまりそれを聞きすぎると、どんどん一つの形のものが丸くなっていってしまいます。
丸くなってしまったら尖った商品はできません。やっぱり「丸ごと!!カニバーガー」 は気に入ってます。すごいです、美味しいですよ。ぜひ召し上がってみてください。
【ナレーター】
なぜ、彼女たちの発想はこれほどまでに人々を惹きつけるのか。 そこには、美味しさに対する一つの仮説がある。
【藤﨑】
この間ある脳科学者の方がおっしゃっていましたけれど、人が「美味しい」って感じるのって、純粋な味覚だけだったら15%以下だそうです。
あとはこれまでの体験だったり、食べるお店やシチュエーションも含めてが判断基準になるらしいです。だからドムドムに対する愛着とか期待が、皆さんの「美味しい」になっていただけているかもしれないと思って本当にありがたいです。
だからこちらだけの「自分たちらしい」だけを押し付けてもダメだということです。
【ナレーター】
そして 2025 年 12 月. 彼女はさらに、自ら退路を断つ決断を下す。
【藤﨑】
12月15日にMBOをしまして。雰囲気というか、自分の責任の所在も変わったかなっていうところではあります。
その中でスガキヤさんという名古屋のラーメンのチェーンさんとも出資をしていただいたりとか、あとベジテックという野菜の仲卸、それから流通をされている会社。
それからスワローホールディングスという冷凍の春巻きの生産だったら日本一というところの、食に関する皆さんとタッグを組むことができたんですね。
出店をするにしてもお客様の満足度を上げるにしても、何が一番大切かって「人」なんですよね。
小さな会社なので出店を重ねるにもグッズを充実させるにも人が要ります。従業員の方の採用、それから教育に力を入れ始めました。
足元をしっかり固めながら頑張っていきたいと思っています。
【ナレーター】
39歳まで専業主婦だった女性が、たどり着いた仕事論とは。
【藤﨑】
皆、上を見てしまうと足元が見えなくなってしまいます。私はそうではなく、目の前のことしか対応できません。足元のことをやるとハードルも低くなります。
低いハードルを越えるのは比較的簡単なのです。そうすると成功体験になります。それが積み重なって私は今があるのかなと思っています。
苦しい時は、例えば酸素がなくなって苦しくなった時と同じで、ジタバタするものです。だから私もジタバタするのです。逃げたくなる時にジタバタして、苦しいからこそ頑張れます。止まるから皆、苦しいのです。
とりあえず何かやってみれば、苦しさは半減します。こちら側にタスクができ、それに夢中になれるからです。
泣いていても改善はしないし余計苦しくなる。
だから苦しい時ほど笑っていた方がいいと、私は思いますね。
【ナレーター】
遠くの目標に惑わされず、足元だけを見て、動き続ける。止まってしまうから、苦しくなる。 主婦から始まったこの経営者の歩みは、その一点だけで貫かれている。