伝統と革新、ここにあり! 業界の革命児が追求する“本物の菓子づくり”とは ~バームクーヘンの『クラブハリエ』などを展開する老舗菓子メーカー~

伝統と革新、ここにあり!
業界の革命児が追求する“本物の菓子づくり”とは


たねやグループ CEO 山本 昌仁

※本ページの情報は2017年3月時点のものです。

滋賀県近江八幡の和菓子舗『たねや』は、バームクーヘンで有名な『クラブハリエ』も有する老舗菓子メーカーだ。伝統的な菓子だけでなく、和菓子×オリーブオイルなどの斬新なアイディアで、常に革新的な菓子づくりに挑戦している。2015年には、たねやグループのフラッグシップ店『ラ コリーナ近江八幡』をオープン。自然との共存をテーマに、“食”を介した新しいアプローチを展開している。

“自然に学びながら変革し、次の時代へ”を唱える、たねやグループCEO兼株式会社たねや代表取締役社長、山本 昌仁氏に『たねや』の目指す未来を聞いた。

山本 昌仁(やまもと まさひと)/1872年(明治5年)創業の和菓子舗に生まれる。2011年に十代目当主として、たねや四代目代表取締役社長に就任する。2015年には、たねやグループのフラッグシップ店『ラ コリーナ近江八幡』をオープン。2016年にはグループ本社を『ラ コリーナ』内に移転した。その斬新な社屋には、本社をクリエイティブな発想を育てる場にしたいという思いが込められている。

菓子の道を極めるために

-『たねや』は1872年(明治5年)の創業です。後継者としての意識は、幼少期からお持ちでしたか?

山本 昌仁:
私の幼いときは、今のように約2,000名の社員を抱えるわけでもなく、従業員が1-2人いるだけの家族経営でした。常に和菓子のある環境で育ちましたので、自然と自分も菓子を作るだろうと感じていました。1984年(昭和59年)に、『たねや』はデパートの県外1号店を日本橋三越にオープンします。私は中学生になる年頃で、経営者としての意識はそのころ芽生え始めました。


-現会長の時代に、近江八幡以外の地へも商いを広げていかれたのですね。

山本 昌仁:
父は滋賀県を中心に店舗を拡大していました。しかし、どんなに初めて出した菓子もすぐに都会に真似をされてしまいます。それならばしっかり東京のど真ん中で商いをさせて頂こうと出したのが、日本橋のお店です。

東京に進出するに先立ち、いいところを東京でしっかり伸ばしていくためにと、自分たちの精神や代々やってきたことをまとめた書を編纂しました。この“道”という言葉から始まる書『末廣正統苑(すえひろしょうとうえん)』は、今でも『たねやグループ』のバイブルです。当時はバブル期に差し掛かる頃でもありましたが、私たちの道はお菓子屋の道、食の世界を極めていこうという、他にぶれることのない商いをしようとする戒めともなりました。

お菓子屋が成り立つのは、原材料となる農産物や、それを作る環境があるからこそ。我々はそれを頂戴することで、お菓子にして販売できています。そのため、我々は社員の素材を見る目を養おうと20年前から農園も手がけています。今ではたねや農藝という、単に作業をするだけでなく、農藝士を育てる取組みをしています。

ここでは、自然の恵みに常に感謝する精神をもち、農という大切さを今一度根本的に見直し、農に対するこだわりをどんどん出していける人間を育てていこうと思います。原料となる米一粒、小豆一粒を時間をかけて作る苦しみや楽しみを全て踏まえたうえで、その材料をお菓子にしてお客様に提供していくという姿勢です。

やはり、自分たちの作っているものにはプライドを持たなくてはなりません。私たちはどういう過程で作っているかわからないものは使いませんし、農家の方がこれだったらどこにも負けないというこだわりを持ったものだったらぜひ扱わせて頂きたいと考えています。

私たちの代表的な菓子である栗饅頭も、原材料から加工してお客様に届くまでの間にしっかりとしたストーリーがあるからこそ、他社より高い値段でも県内で一番ご購入頂いているのでしょう。どんなものかも見えない材料で作って販売したところで、価格競争に陥り、プライドは持てません。お客様には、価格以上の価値を感じて頂けるような菓子を提供したいのです。

近江八幡市の隣町にある永源寺では、自社でヨモギ栽培をしています。オーガニックが浸透していない20年ほど前には、自分の田んぼにも虫が来ると町内をあげての大反対に遭いました。しかしヨモギが菓子となり、いろいろなデパートで販売し始めると反応が変わってきました。作ったヨモギがどう売られているのかを生産者が見ることができると、格段に理解が進みます。これは他の作物でも同様です。

私たちはこの近江八幡がオーガニックの町になればいいなと思っています。地道な作業ですが、これこそが“食”をやっている我々にしかできないこと、お菓子屋ができる最大限の、次の世代への申し送りです。

プロフェッショナルとしての心構え

『クラブハリエ』ショップのガラス張りの工房。

-バームクーヘンのクラブハリエのショップでは、製造工程をそのままに見せるという斬新なスタイルが話題となりました。

山本 昌仁:
最初は大反対されました。しかし粉が舞うと言われれば粉が落ちないようにファンを付けたり、粉の混ぜ方を見直したりと一つ一つ手を打てばいい。私たちは配合も包み隠さず全て明らかにしています。真似をするならすればいい。それだけで長年積み上げてきた私たちの精神やストーリーが再現できるわけではありません。ただ、何かを学んで頂けて、日本の菓子の技術が全体的に上がっていくならば、それでいいと思っています。

すると、従業員のモチベーションが非常に高まりました。と言うのも、安心安全であることを明らかにしようとして始めたガラス張りの工場ですから、足元まで見えるのです。見られているから、少しの汚れでもすぐに拭く。制服もきちんとする。そもそもこぼして汚すというのは、下手な作り方をしているということ。プロとしての意識を持って製造に当たれば、全てのしぐさに無駄がなくなり、美しくなります。やり始めて半年後には洋菓子部門にプロフェッショナルとしての自覚が芽生え、それは和菓子部門にも波及していきました。

-新しいものにチャレンジするという姿勢を、従業員の方々にはどのように伝えていらっしゃいますか?

山本 昌仁:
私はできる限り表裏を持たず、率直に話をするようにしています。そして社員には、自分を知れと言っています。新入社員に3分間スピーチをさせても、自分をしっかりと語れる人はとても少ないのです。自分のいいところも悪いところも把握して、自分の意見を持たなければ、人に言われたことだけをする人間になってしまいます。いわゆる指示待ち人間です。接客の際にも、自分が本当にお勧めできるものを自分の言葉で話さなければ、お客様には伝わりません。

例えば、役員研修でも、「未熟ですが頑張ります」という挨拶はいりません。会社はあなたにその職を任せたのだから、社員の長だという自信をみなぎらせてほしい。いかにして今日を昨日より良くするかというプラス思考を持って臨んでほしいのです。すると、1年目の職人と10年目の職人では明らかに違いが出てきます。自分を知り、それぞれの立場で何事にも真剣に取り組む人に、人はついてくるでしょう。

また農家の方々に常に感謝をすることを常に伝えています。現在、元副工場長が全国各地を回り、収穫時はそこで寝泊まりして一緒に手伝いながら、農家の方からの本当の声を集めています。これはたねやの大きな宝。安く買い叩くのではなく、良い材料を作ってくださる方にはしっかりと報いる姿勢を貫けば、「あなたのところには変なものを送れないな」といった信頼関係が築けます。そしてそれが、お客様に価値を見出して頂ける商品づくりに繋がっていくのです。

滋賀県ナンバーワン菓子メーカーの責任と誇り

たねやグループのフラグシップ店『ラ コリーナ近江八幡』。滋賀県の観光名所として多くの方が足を運んでいる。

-将来思い描く姿をお教えください。

山本 昌仁:
製造工程をオープンにしていることにも関係しますが、私たちの持っているものをどんどん発信し、世の中のお菓子のレベルを上げていきたいです。ただ、海外からのオファーはかなり頂いていますが、国内への商品供給が間に合っていない今、私の世代での実現は厳しいと感じています。

洗練された『ラ コリーナ近江八幡』の内装。

それでも海外にはいろいろなノウハウや、良い材料がたくさんあるので、コラボレーションなどの形で取り入れています。クラブハリエでバームクーヘンを始めたのは45年前ですが、ドイツから伝わったそれは日持ちのする硬いものでした。それをふわっと軽くしたのが私たちのバームクーヘンです。そのように、例えばパリのマカロンをやるとしたら、近江八幡の『クラブハリエ』のマカロンとなるような商品を、今後も作りたいです。

そして高齢化の進む昨今、近江八幡が終の住処として選ばれるための町づくり会社の社長もしています。食はいつまでも人生の大切なテーマです。病気になっても食べられる低糖質のお菓子などを、医師の方とも連携して開発しています。これは2016年の夏頃から形になってきました。

私たちはお菓子の道を貫きます。たねやグループのフラグシップ店『ラ コリーナ近江八幡』の来訪者は2016年に200万人を超え、滋賀県の観光名所となりました。全国から来て頂いていることに自信と誇りを持って、堂々と滋賀県の『たねやグループ』として発信していきたいです。

並んでも買えなかったというようなお叱りの言葉には、システムを改良することで解決を考えています。2017年には流通システムが完成する見込みですが、これは和菓子業界でも初の試みでしょう。我々は、守るべきものは徹底的に守りながら、変えるものは変えるという分別をしっかり持って、お菓子屋としてできる最大限のことをやっていきたいです。

編集後記

「お菓子には、夢を何倍にも大きくする力がある」。菓子の可能性を誰よりも信じる山本社長は力強く話した。そこには、近江八幡を代表し、菓子業界をけん引する企業としての自信と決意が感じられる。「地道に、お菓子屋としてできることを一歩ずつ」という山本社長の蒔く様々な種は、広大な敷地を持つ『ラ コリーナ』を中心に確実に育ち、実を結んでいくはずだ。

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