100年を超える歴史を持つ今治タオル。その歴史を紡ぎ、2019年に創業100年を迎えたのが、1919年創業の今治タオルの老舗メーカーであり、国内のタオル生産売上高トップを誇る「株式会社藤高」だ。
同社は糸染めから仕上げまで、すべての工程を自社で一貫して行い、OEMでの製造・販売や新技術の開発、東京都・銀座に直営店「藤高タオル銀座」を2018年にオープンするなど、上品質かつ使い心地のよいタオルを全国に普及させるべく、事業を拡大させている。
代表取締役社長の藤髙亮氏は2019年に先代から受け継ぎ、代表に就任した若き経営者だ。業界にイノベーションを起こすべく、様々な挑戦を続ける藤髙社長に、SDGsへの取り組みや今後の経営戦略、現在大事にしている「人づくり」について迫った。
転換期に新卒で入社
―入社までの経緯についてお聞かせ願えますでしょうか?
藤髙亮:
私が入社したのは2006年で、ちょうど、今治タオルがブランディングプロジェクトを始めた年でした。
今治タオル自体は活気づいていたのですが、実は弊社はイギリスのファッションブランド、バーバリーの撤退という大きな危機を迎えていました。当時はバーバリーのタオル製品だけでも売上げ全体の4~6割を占めており、ライセンスがなくなったことで苦境に立たされたのです。
しかし、弊社には大きな強みがありました。糸染めから製造、販売まで一貫して自社でおこなっているという点です。
また、小ロットで短期に納品できること、ハンカチからタオルケットまでさまざまな大きさの製品をつくれるということも弊社ならではの強みです。
このような利点を活かし、売り上げの回復に向けて歩みを進めていき、苦境を乗り越えることができました。
100年企業としてのSDGsへの取り組み
―環境への取り組みとして何か実践していらっしゃることはございますか?
藤髙亮:
3年ほど前からSDGsに関心を持ち、セミナーなどに出席するなどして勉強しています。2019年の創業100周年の際には、藤高独自のSDGsの目標も立てました。
環境への配慮としては、染色工場のエネルギーを切り替えることでCO2の削減を目指しています。また、排水処理を高度化することや耐久性に優れた製品を開発することでもSDGsに貢献し、環境保全に力を入れています。
経営の柱を増やし、リスクに耐える企業づくりを目指す
―他社との差別化を図る上で重要なことは何でしょうか?
藤髙亮:
今治タオルのブランディングだけでなく、藤高というブランドでお客さまにタオルを選んでもらうことだと思います。
今治タオルは今治のタオル組合のブランドなので、実は製品には差があります。「今治タオルはいいよね」と手に取ってくださったお客様が、「その中でも藤高がいいよね」と選んでくれるよう、自社ブランドの確立に向けて日々努めています。
―今後の課題と、その課題を解決するために取り組まれていることについてお教えください。
藤髙亮:
バーバリーが撤退したときに弊社の売上は大きく下がりました。それは会社自体がバーバリーのライセンス商品に対する依存率が高かったからです。
現在においても、今治タオルへの依存率が高いことが気がかりです。
今治タオルはブランドとしての価値が高いため、生産することである程度の利益を得ることができていますが、1つの事業への依存率が高いと心もとなく、バーバリーの撤退のように何かが起こったときに経営は大きく揺らぎます。
もちろん今治タオルをつくることは続けていきますが、今治タオルだけに頼っていくのは危険だと感じています。
弊社の強みであるOEMや藤高ブランドの確立、通販などにも力を入れて、会社の軸を3つ以上にしていきたいと考えています。
ECの活用で「藤高タオルファン」を増やす
熟練した技術を持つ職人の手によってひとつひとつ丁寧につくられている。
―先程、力をいれたいと仰られていた通販事業(EC)についてはどのような展望を描かれておりますか?
藤髙亮:
今の時点では、会社全体の1%の売上を通販から得ていますが、これを5%まで引き上げたいと考えています。
通販は直接お客様とつながることができるため、利益率が高く、自社ブランドの宣伝にもつながります。タオルを実際に使っていただいて、興味を持ってもらい、藤高のファンになっていただければ嬉しいです。
実際に、気持ちの良いタオルを使うことで幸せを感じる方は6割程いらっしゃいます。おろしたての気持ちのよいタオルを使う幸せを多くの方に感じていただきたいですね。
―タオルはやはりおろしたてが一番、使い心地が良いのですか?
藤髙亮:
はい。タオルは徐々にパイルが痩せていくので、一番良い状態はおろしたてです。
最高の状態で使うなら、20~30回洗濯するまで、3カ月くらいまでがおすすめです。心地よさが残っているのも2年が限度とされています。
実際のところ、タオルは生活必需品なのに、タオルの寿命についてはあまり知られていませんよね。
今後は、このようなタオル業者なら当然知っている知識も広く広めて、タオル本来の気持ちよさや、気持ちよく使ってもらうためのコツについても知ってもらいたいと思っています。
「人づくり」で魅力ある企業に
―人材マネジメントの観点で、今後注力をしていきたいことはございますか?
藤髙亮:
一番力を入れたいのは「人づくり」です。繊維産業のことを3K(危険・汚い・きつい)と思われている方も多いと思います。
人づくりには、労働環境の改善はもちろん、働きたいと思っていただける職場をつくらなくてはいけません。働きに来てもらうためには、働きたくなる職場を作らなくてはいけません。
20代の方と話をしていると、仕事にしろ何にしろ「格好いい」ということがキーワードになっているんですよね。
就職活動の際、最近は、まずは企業の情報をインターネットで集めます。そのとき、おしゃれなオフィスやきれいな社員食堂などが見つかれば、やはり企業に対しての印象も良くなると思います。
「格好いい職場環境」をつくることで、人が集まるようになるのではと考えています。
―実際に現在、働きやすい環境づくりに着手されていらっしゃるそうですね。どんなことをされているのでしょうか?
藤髙亮:
タオル工場はいわゆるガテン系なのですが、筋トレスペースを設けて社員たちが使えるようにしました。また、談笑できるスペースも設け、居心地の良い職場を整えています。
それに加え、社員たちのやる気を引き出す環境づくりにも取り組んでいます。
元々弊社は会社の利益に対してもオープンに社員に伝えているのですが、決算時にボーナスを出して利益の3分の1は社員に還元し、気持ち的な環境面でも働きやすい職場になるように心がけています。
見た目の印象だけでなく、働く環境を整えることで社員たちに気持ちよく働いていただきたいですね。
今治を県外からも来てもらえるような魅力ある「産地」にしていかなくてはいけないと思っています。そのためには、福利厚生を充実させ、今治に来たい、藤高で働きたいと思ってもらえる会社をつくる必要があります。
もちろん本業も大切ですが、きれいなオフィスや賞与といった本業とは違うところに魅力を感じる人もいらっしゃいます。そのことを理解し、会社づくりをおこなうことが、人づくりにつながるのだと思いますね。
編集後記
いつの間にか私たちの生活に定着していた今治タオル。
現在のブランド力に安住してしまうのではなく、自社ブランドやECに力を入れてアグレッシブに飛躍しようとしている社長の姿が印象的だった。
新型コロナウイルスの感染拡大によって自宅で過ごす機会が増えている昨今、快適な生活に欠かせないタオルづくりにこだわる藤高に、今後も注目していきたい。
藤髙亮(ふじたか・あきら)/ 大学卒業後、株式会社藤高に入社。タオルの企画開発を担当し、ロングセラー商品『ZUTTO(ずっと)』などを開発する。2018年、東京都・銀座に直営店「藤高タオル銀座」のオープンに携わり、2019年に父・藤髙豊文氏の後を継ぎ、代表取締役社長に就任。