※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

株式会社九櫻(くざくら)は、柔道衣を生地から製品まで一貫生産する世界で唯一のメーカーだ。

柔道衣に採用される刺子織りは、日本古来の伝統的な織り方で、強靭でありながらしなやかで温かみのある風合いを実現できる。九櫻はこの刺子生地の特長を活かし、柔道衣以外にも事業を展開することに力を入れている。

代表取締役社長の三浦正彦氏に今後の展望を聞いた。

社名変更で九櫻ブランドを確立

――1997年に6代目の代表取締役社長に就任され、これまで苦労されたことはありますか。

三浦正彦:
私が社長になって取り組んだ大きな改革の一つは、「早川繊維工業株式会社」という社名を「株式会社九櫻」に変更したことでした。当時の臨時株主総会では、外部の株主の一部から「早川という名を消さないでくれ」といった反対の声が挙がり、社名変更はなかなか実現できずにいました。

しかし、市場(柔道界)では既にもう九櫻ブランドの名は浸透していましたし、逆に早川繊維と言えば、生地を売っている会社だと勘違いされてしまうこともありました。

2018年に創業100周年を迎えたとき、ここしかチャンスはないと思い、社名を変更しました。

――九櫻の柔道衣は世界的ブランドになっていますよね。

三浦正彦:
生地から製品まで一貫して生産しているのは、世界でも弊社のみです。本当にオンリーワンなんです。一貫生産の良いところは、柔道家から直接いろいろな意見を頂戴し、それをすぐに製品に反映できるところです。

九櫻の道着で使用される刺子生地というのは、肌触りが違います。外側(表生地)は硬く仕上げていますが、内側(裏生地)は肌に合うように柔らかく作り上げています。そこがうちのこだわりです。

日本の人口減少と海外への展開

三浦正彦:
今、日本は少子化が進み、人口がどんどん減っています。それに比例して、柔道人口も減ってきている。弊社は柔道に特化して事業を行っている企業なので、ダイレクトに影響を受けます。創業100周年を迎えましたが、次の100年をどう生き抜いていけばいいのかを考える必要があります。

そこで見出したのが、海外に打って出るということです。日本以外でも、ブラジル、フランス、ロシアなど柔道が盛んで柔道人口が多い国があります。その中で先ずは、ブラジルに行きました。ブラジルの柔道連盟の役員に会い、ブラジルのバイヤーと交渉を重ねました。

その甲斐あって、東京オリンピック・パラリンピックが終わったあと、ブラジルの柔道連盟から連絡が届き、弊社が柔道衣を提供し、ユニフォームからバッグ、シューズまですべて、弊社が取引するブラジルの業者に依頼するという内容で決まりました。更には昨年、公式にブラジル柔道連盟のオフィシャルスポンサーになりました。

実は日本では東京五輪の際に、オフィシャルスポンサーをめぐって大手スポーツメーカーと競合し、落選してしまいました。弊社は柔道衣しか提供できないが、大手スポーツメーカーは全て提供できるという理由でした。

毎年グランドスラム東京が12月初旬に開催されますが、日本の選手は練習時、九櫻の道着を着ていますが、試合ではオフィシャルスポンサーの道着に着替えなくてはいけません。それを見るのがとても悔しいですね。

――柔道衣以外の新しい事業について何かお考えですか。

三浦正彦:
次の時代を考えたとき、私が着目したのが柔術です。柔道家でも柔術をしている人が相当数います。柔術は寝技が主流なのですが、寝技を研究するために、柔道家も柔術に熱心に取り組んでいます。

現状、柔術着は大半がパキスタンで生産されているのですが、自社で研究して限定販売から始めようとしています。

また、筋トレをする人がよく着ているコンプレッションウェアにも着目しており、現在これを開発、来年あたりから販売を予定しています。

九櫻刺子を新たなブランドに

三浦正彦:
さらに、新しい事業として力を入れているのが「九櫻刺子(くざくらさしこ)」というプロジェクトです。

100年かけて築き上げた刺子生地の技術力を活かし、これまでにない着心地の衣服やバッグ、ハット、スリッパなどを開発しています。

「Kickstarter(キックスターター)」というアメリカ発のクラウドファンディングサイトがあるのですが、そこでパーカーやTシャツを出しました。また、国内のクラウドファンディングサイトの「Makuake」や「CAMPFIRE」なども活用しています。

九櫻刺子のクラウドファンディングを実施したときに最初に支持してくれた人は、昔九櫻の柔道衣を着て柔道を一生懸命やっていた人です。九櫻刺子というのも九櫻ブランドからの流れですから、そういう思いを持っているお客様が多くいます。

ただ、これからは九櫻刺子自体でブランディングしていきたいと思っています。九櫻の柔道衣を知らない人も品質で九櫻刺子を選んでくれる、そんなブランドとして育てていきたいと思います。

編集後記

歴史と伝統が育んだたしかな技術力が、九櫻刺子という新たなブランドとなって羽ばたこうとしている。「良いものを長く使う」というコンセプトは、現代のSDGs(持続可能な開発目標)志向ともマッチするものになるだろう。

九櫻の新しいビジネスの展開に目が離せない。

三浦正彦(みうら・まさひこ)/1946年大阪府生まれ。近畿大学卒。1969年豊国製油に入社し、
1974年早川繊維に入社。1991年に同社取締役、1997年に代表取締役社長に就任。2018年、
創業100年を機に社名を株式会社九櫻に改名。