※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。


滋賀県米原市で、家族代々築き上げてきた寝具製造卸企業の藤田株式会社。1945年の創業から、長い歴史のなかで培われた経験、知恵、技術が寝具産業を支えている。

そんな同社を率いるのが、勤めていた銀行を辞めて、父から会社を引き継いだ代表取締役社長の藤田康秀氏だ。

「川上から川下までやれる力」を強みに持つ同社の藤田社長に、他社にはない強みや海外工場と連携する難しさ、今後の注力テーマなどを聞いた。

銀行員から右も左も分からない寝具製造卸企業の社長に

――もともと銀行に勤めていたと伺いました。どうしてお父様から社長を継がれようと思ったのでしょうか。

藤田康秀:
もともと父も私に無理やり会社を継がせる気はなく、私自身も銀行の、特に法人融資の仕事が楽しかったので、当初は継ぐ気はありませんでした。

ただ、どこか銀行の仕事に対し、もどかしさを感じ、支える側ではなく、自分で商売がしたいと思うようになってきました。徐々に会社を継ぎたいと考えるようになり、最終的に7年間銀行でお世話になり、会社を継ぎました。

――銀行からいきなり寝具製造卸の仕事をすることになり、分からないことも多かったのでは。

藤田康秀:
最初は右も左も分からなくて、会社を継いでから3年ほどはかなり勉強しましたね。自分でも勉強しましたし、中国の工場に連れて行ってもらって現場を見たりもしました。

「川上から川下までやれる力」が強み


――これから30年、40年と会社を経営されるつもりで社長に就任されたかと思います。当初から寝具製造卸の将来については、どのように考えていたのでしょうか。

藤田康秀:
日本は観光大国なので、業務用の布団は無くならないだろうと考えていました。海外でももちろん布団はつくれますが、国産はかなり需要がありますから。特にホテルや旅館向けの布団は、海外よりも小ロット短納期でつくれる国産のほうが強いです。

コロナ禍においては業務用寝具の需要が落ちましたが今は回復してきていますし、外出自粛の影響で布団を良いものに変えようという流れもあり、一般家庭用の布団がよく売れましたね。

また、原料や生地・製品の仕入れ、加工、卸しまで自社で一貫して手がけているのも弊社の強みです。「川上から川下まで全て対応する力」があるので、経費を抑えることができます。

コロナ禍で感じた海外工場と連携する難しさ

――コロナ禍というお話が少しありましたが、その時期は中国への渡航が難しかったと思います。中国の工場に行けなかったことで、何か影響はありましたか。

藤田康秀:
コロナ禍の影響でB品と呼ばれる不良品率がかなり増えました。本来なら中国に行って指導できるのですが、海外の工場にはまったく行けない時期でしたから。

当時、冷感の青色の敷きパッドを中国の工場に依頼したら、大量のピンク色の敷きパッドが届いたことがありました。それで急いで中国側に確認してみたら、中国もコロナで工場が閉鎖してしまって、ピンク色の敷きパッドしか用意できなかったとのこと。

これが国内で起こったことだったらすぐに返品できましたが、中国へ返す費用ももったいないので、こちらで処分するしかありませんでした。処分するのも大変だし、結局1か月遅れでお客様へ商品をお届けすることになり、中国の対応にはかなり憤りを感じましたね。

――日本人と中国人の価値観の差なども、連携する上で大変そうですね。

藤田康秀:
実際に私が中国の工場に行かないと、手を抜く人が出てきたり、検品の基準が緩くなったりしますから、価値観の違いはあると思います。商品の管理が大変ですね。

ECで自社ブランドを広めていきたい


――中国工場の品質・生産改善のほかに、課題を感じるところや注力したいところがあれば教えてください。

藤田康秀:
自社ブランドのECに力を入れていきたいと考えています。今はオンライン販売関係の売り上げが年間で3000万~4000万円ほどありますが、インターネットスキルのある人材が足りておらず、すべて私が1人で業務に対応している状況です。

最終的にはインターネット販売だけで2億ほどの売上がほしいのですが、私1人で対応するには3000万~4000万円が限界。そのため、現在はEC担当として社員を1人育てていますが、新たに従業員を雇ったり、外注したりする必要もあると思っています。

――最近はインターネットから購入する人も多いですからね。

藤田康秀:
過去にAmazonで全然売れていなかった布団があったのですが、ある日購入者から良い口コミがついて、そこから毎日3~4枚売れるようになったこともありました。やはりレビューの力はすごいのだなと感じましたし、口コミで「リピートしました」や「毎年買っています」なんて感想を読むとやはりうれしいものですね。

安価な布団をインターネットで売ると取引先の企業様と競合してしまうので今後販売する予定はありませんが、弊社では値段に見合った品質の高いものをECでは販売していきたいと考えています。

編集後記


父の後を引き継ぎ、社員と協力しながら事業を育てている藤田社長。取材中、「良い車を買って乗っている社員を見ると嬉しい」や「海外の技能実習生たちには、うちでたくさん稼いで国に帰ってもらいたい」など、周囲の人を大切に思う藤田社長の優しさが垣間見えた。

高い品質にこだわり、人を大切にする藤田株式会社は、これからも日本の寝具産業を支えてくれるだろう。


藤田康秀(ふじた・やすひで)/昭和60年滋賀県生まれ、立命館アジア太平洋大学卒。大垣共立銀行に入社し、7年の修業期間を経て平成28年藤田株式会社に入社。同年に同社代表取締役社長に就任。