※本ページ内の情報は2026年3月時点のものです。

株式会社九櫻(くざくら)は、柔道衣を生地から製品まで一貫生産する世界で唯一のメーカーだ。柔道衣に採用される刺子織りは、日本古来の伝統的な織り方で、強靭でありながらしなやかで温かみのある風合いを実現できる。九櫻はこの刺子生地の特長を活かし、柔道衣以外にも、新ブランド「XAGLASS(ザグラス)」の展開や、グローバルなスポンサーシップにも力を入れている。代表取締役会長の三浦正彦氏に今後の展望を聞いた。

社名変更で九櫻ブランドを確立

ーー1997年に6代目の代表取締役社長に就任(2026年1月現在 代表取締役会長就任)され、これまで苦労されたことはありますか。

三浦正彦:
私が社長になって取り組んだ大きな改革の一つは、「早川繊維工業株式会社」という社名を「株式会社九櫻」に変更したことでした。当時の臨時株主総会では、外部の株主の一部から「早川という名を消さないでくれ」といった反対の声が挙がり、社名変更はなかなか実現できずにいました。

しかし、市場(柔道界)では既に「九櫻」ブランドの名は浸透していましたし、逆に「早川繊維」と言えば、生地を売っている会社だと勘違いされてしまうこともありました。2018年に創業100周年を迎えたとき、ここしかチャンスはないと思い、社名を変更しました。

ーー九櫻の柔道衣は世界的ブランドになっていますよね。

三浦正彦:
生地から製品まで一貫して生産しているのは、世界でも弊社のみです。本当にオンリーワンなのです。一貫生産の良いところは、柔道家から直接いろいろな意見を頂戴し、それをすぐに製品に反映できるところです。

九櫻の道衣で使用される刺子生地というのは、肌触りが違います。外側(表生地)は硬く仕上げていますが、内側(裏生地)は肌に合うように柔らかく作り上げています。そこがうちのこだわりです。

世界へ羽ばたく九櫻ブランド パリ五輪、そしてロス五輪へ

ーー国内市場における、現在の事業課題は何ですか。

三浦正彦:
今、日本は少子化が進み、人口がどんどん減っています。それに比例して、柔道人口も減ってきている。弊社は柔道に特化して事業を行っている企業なので、ダイレクトに影響を受けます。創業100周年を迎えましたが、次の100年をどう生き抜いていけばいいのかを考える必要があります。

そこで見出したのが、海外に打って出るということです。日本以外でも、ブラジル、フランス、ロシアなど柔道が盛んで柔道人口が多い国があります。まずは、ブラジルに行き、ブラジルの柔道連盟の役員や、バイヤーと交渉を重ねました。

ーーブラジルでの交渉は、どのような成果につながりましたか。

三浦正彦:
2024年のパリオリンピックでブラジル柔道連盟に弊社の柔道衣が正式に採択されたのが、大きな成果です。ブラジルチームは見事、銅メダルを獲得し、弊社の柔道衣も世界から脚光を浴びるようになりました。大会に出場した全選手のうち、約3分の1が弊社の柔道衣を着用していました。これがきっかけでブラジル柔道連盟からも感謝状をいただき、地元の大阪でも注目されるようになりました。

また、ハンガリー柔道連盟とスポンサー契約を結び、同国で開催された世界選手権では試合会場の大型広告に「九櫻」の名が映し出されるなど、グローバルな展開を進めており、結果として、「アディダス」「ミズノ」と並び、「九櫻」は世界3大ブランドの一つとして、一躍その名を知られるようになりました。

ーー次のオリンピックに向けた動きはいかがですか。

三浦正彦:
ロサンゼルス、さらにその次のブリスベンも見据えています。オリンピックで選手が着用することは、下の世代の憧れにつながります。柔道衣という中核事業において、世界最高峰の舞台を目指すこと。これは私たちの変わらぬ目標であり、これまでの五輪での経験をバネに、今後も積極的に働きかけます。そして、世界でのブランド認知を高めていきたいです。

柔術衣とコンプレッションウェア 新たな領域への挑戦

ーー柔道衣以外の新しい事業について何かお考えですか。

三浦正彦:
次の時代を考え、柔術に注目しています。柔道家が寝技の研究で柔術に取り組むケースも増えています。現状、柔術衣は大半がパキスタンで生産されているのですが、自社でも開発を進めており、2026年中には立ち上げ、2027年にはカタログに掲載する予定です。柔術衣は刺子ではなく「パール織り」が主流ですが、弊社らしい「刺子生地」を使った柔術衣も提案していきたいと考えています。

ーー刺子生地を使った新事業について教えてください。

三浦正彦:
まず、柔道衣で100年培った刺子生地の技術を活かし、「九櫻刺子(くさくらさしこ)」というプロジェクトを進めています。これは繊維事業部の女性社員が中心となって進めているプロジェクトで、刺子生地の風合いを活かした衣服やバッグ、サウナハット、スリッパなど、柔道衣とは異なる多様な商品を開発しています。

一方で、まったく新しい挑戦として、新ブランド「XAGLASS(ザグラス)」を立ち上げました。これは商社からの提案を受けてスタートした事業であり、刺子生地とは異なるアプローチの高機能ウェアです。「もっと効率的に、短時間で最大の成果を得たい」というニーズに応えるトレーニングウェアが「XEBAR SUIT(ゼバースーツ)」です。

こちらは「EXERCISE」「BODY」「APPLYING」「RESISTANCE」の頭文字をブランド名の由来としており、特許技術の「インフィニティーライン」などで体に適度な負荷をかけ、トレーニング効果の向上を目指す製品となっています。

ーー今後、どのようにブランドを育てていきますか。

三浦正彦:
まず、「九櫻刺子」の認知を広げるために「Kickstarter(キックスターター)」や「Makuake(マクアケ)」などのクラウドファンディングでパーカーなどを出しました。当初「九櫻刺子」を支持してくれたのは、昔、「九櫻」の柔道衣を着ていた方々です。しかし、これからは「九櫻刺子」自体でブランディングしていきたいと考えています。九櫻の柔道衣を知らない方にも、品質で「九櫻刺子」を選ばれるブランドとして育てていく方針です。

そのために、「九櫻刺子」の販路も広げていきます。現状はネットやクラウドファンディングがメインですが、今後はBtoB(企業間取引)にも力を入れます。特に旅館や観光ホテル、お土産物屋などもターゲットにし、インバウンドのお客様にも刺子生地の良さを知っていただけるよう努力が必要です。

顧客が直接触れられる直営店

ーー今後の店舗展開についてのお考えはありますか。

三浦正彦:
オンラインショップも重要ですが、お客様が商品を直接手に取り、試着して買っていただける直営店の展開も、進めています。現在は東京・水道橋に「KUSAKURA ワールドショップ」がありますが、今後は大阪市内にも新たな直営店を構える構想です。

特に「XAGLASS」のような新ブランドの世界観や、刺子生地ならではの風合い、しっかりとした着心地は、実際に触れてみないとわからない部分も多いです。オンラインでの利便性だけでなく、リアルな場で品質を体感していただき、お客様と直接つながる接点も大切にしていきたい。それがブランドを育てる上で、最終的に重要になってくると考えています。

編集後記

歴史と伝統が育んだたしかな技術力が、高機能ウェア「XAGLASS」や伝統生地を活かした「九櫻刺子」という新たなブランドとなって羽ばたこうとしている。世界へ、そして日常へと広がる九櫻の挑戦に、今後も注目していきたい。

三浦正彦/1946年大阪府生まれ、近畿大学卒。1969年豊国製油に入社。1974年早川繊維に入社。1991年に同社取締役、1997年に代表取締役社長に就任。2018年に迎えた創業100年を機に社名を株式会社九櫻に改名するとともに、現在新たな分野にもチャレンジしている。