ノノヤマ洋服株式会社は、愛知県で学生服や体操服の製造・販売を行う会社。創業から60年、地域の人々から変わらず愛されている。そんな同社で、生徒と保護者、そして教育現場の声を聞き、人々のニーズを満たす提案を続けているのが、代表取締役の野々山雅博氏だ。
時代とともに制服の形も変遷を遂げてきた昨今。同社は一体どのような思いで事業を展開しているのか、野々山社長に詳しい話を聞いた。
子どもたちの成長と喜びを見られるのがこの仕事の魅力
ーー社長就任後の印象的なエピソードを教えてください。
野々山雅博:
新卒から3年半ほど東洋紡せんい株式会社で、製造や営業、企画などを経験し、1995年にノノヤマ洋服へ入社。2010年に社長に就任しました。
制服の採寸は、合格発表から入学式まで期間が短いため、集中してしまいます。よって店頭でお客様を3時間待たせてしまう日があります。お客様から「他店ではなくノノヤマで制服を購入したいから待つよ」と言われたときは本当に嬉しかったです。
コロナ禍以降、学生服メーカーの素材・副資材の調達、工員の減少や働き方改革、ブレザー化によるモデルチェンジなどで工場の労働力が逼迫しています。制服の納期遅れがたびたびニュースになっていますが、弊社は創業から60年間、1度も納期に遅れたことがありません。
それは、社員パートがなんとしても間に合わせるという気概を持って取り組み、「想定外」を予測して準備しているからです。入学式前に子どもたちが笑顔で制服を着ている姿を見ると、この仕事をしていて良かったと思います。
少子化で生徒数がここ30年で半減しているにもかかわらず弊社の売り上げが倍になっているのは、弊社がお客様に価値を創造し、提案し続けているからだと考えています。
制服を通して大人になってからも重要な社会性を学んでもらう
ーー貴社の強みはどういった点にありますか。
野々山雅博:
弊社のように制服も体操服も手がけている学生服屋は、全国でも非常に少ないです。制服をただつくるのではなく、お客様に合った提案もできる点が、弊社が学校や地域の皆様から信頼されている理由だと思います。
利便性・お祝いに相応しい空間に投資し、お客様やスタッフの満足度を上げる工夫をしています。スタッフも自ら勉強会を開催し、新しい知識を吸収することに貪欲です。
私は、お客様が何を望んでいるのかを見極め、発信していくことが大切だと考えています。最近はお客様の注文内容をクラウドで管理できるようにしました。ペーパーレス化することで環境配慮とコスト削減。また、瞬時に集計できることにより、より迅速に不足分の生産や短納期のお渡しが可能となる仕組みを構築できました。
ーー新商品を開発する際、どういったことを意識していますか。
野々山雅博:
座ってただ考えるのではなく、いろいろなところへ営業することを意識しています。ヒントやひらめきは現場で生まれます。学校や店頭、縫製工場・検査場で改善することが見えてきます。
生徒と保護者だけが求める製品をつくっても先生には認められませんし、先生だけに求められる製品をつくっても生徒や保護者は買ってくれません。3者に認められるものを把握し、価値の創造につなげられるように努めています。
ーー時代とともに制服の形が変わっていますが、貴社の制服に対する考えを聞かせてください。
野々山雅博:
ブレザーの制服が増える中、最近はセーラー服を着たい子どもがとても増えています。これは学生たちが「学生時代の今しか着られないもの」を求めていることの表れだと言えますし、弊社はこういった学生たちの考えも大切にしています。
「人は見た目で判断してはいけない」と言われていますが、「第一印象は6秒で決まる」とされる法則もあるほど、見た目の影響は大きいのです。だらしない格好をしていると、初めて会う人からは信用されません。相手に対する思いやりは、服装・笑顔・髪型・匂いに表れます。
ただ、大人になってから信用される格好をしようとしても、急に自分を変えるのは難しいもの。弊社では制服を通して、子どもたちに伝えていけたらと思っています。
「PHP」や「お仕事ノート」の配布を通して地域に貢献
ーー制服の販売以外の取り組みについても聞かせてください。
野々山雅博:
異業種交流会でPHP社の方を紹介してもらったのをきっかけに、人生の応援誌として知られている月刊誌「PHP」を地域の学校に贈呈しています。相手を思いやり、心豊かにしてもらうきっかけになればと思っています。
また、60周年を迎えたこともあり、講演会を先日開催しました。登壇者は元塾講師の木下晴弘さんという、超難関校に生徒たちを導くカリスマ講師としても知られていた方です。「この会場にお越しの皆様が より豊かな未来を迎えるためにおすすめしたい5つの捉え方」というテーマで講演をしてもらいました。涙を流すお子様・保護者様、先生もいるほど、大変評判でした。
そのほかの活動としては、愛知県内で働く人たちの仕事を紹介する「お仕事ノート」を小中学校に配っています。愛知県内には、いろんな仕事があり、志を持ち、喜んでもらえるように努力している中小企業が沢山ある事を知ってほしいという思いから、発刊に賛同して協賛しています。キャリア教育のお手伝いになれば幸いと思っています。
ーー最後に人材に対する考え方や思いをお願いします。
野々山雅博:
「ノノヤマで働きたい」と思ってくれる方に来てもらえると嬉しいです。店頭に立つスタッフやアルバイトの方々が弊社の「顔」になるので、そういった最前線で働く人々を見て働きたいと思ってもらえたら良いなと。そして私は、最前線で働くスタッフたちが楽しく、生き生きと働けるように創意工夫しお手伝いをしていきます。
編集後記
子どもたちにとって制服は、今しか着られないかけがえのないもの。今回の取材では、子どもたちの人生の節目に関わる野々山社長だからこその熱い思いが聞けた。制服を通して子どもたちに笑顔を届けるノノヤマ洋服の今後を応援したい。
野々山雅博/1969年、愛知県生まれ。中部大学卒業。合同商事株式会社(現:東洋紡せんい株式会社)に入社。3年半の修業期間を経て1995年、ノノヤマ洋服株式会社入社。2010年に代表取締役社長に就任。地域貢献、社会貢献、子どもの真の成長・絆づくりの手伝いの一環でPHP誌を地域の学校へ120校贈呈している。