※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

繊維製品からプリンター部材まで、幅広い製品を扱う原貿易株式会社。創業70年を迎えた同社は現在、ベビー用品を中心とした「繊維・生活関連事業」と、環境貢献型の「機能部材・資材関連事業」の2本柱で成長を続けている。その舵取りを担う、同社取締役社長の江守雅人氏に話をうかがった。

両親への恩返しで家業を継ぐ決意をした

ーー学生時代についてお聞かせください。

江守雅人:
私はもともと理系の大学に進学する予定でしたが、商社で働くことを見据えて渡米を決意しました。当時、円高の追い風もあり、米国の州立大学で学費を抑えることができました。しかし、最初は英語力が足りず苦労しましたね。

理系では卒業まで5年はかかることがわかり、MBAに向けたケーススタディやグループプロジェクトなどで経営学の魅力に触れながら勉強に励み、3年で卒業することができました。

ーー貴社に入社した経緯を教えてください。

江守雅人:
家業である弊社を継ごうとは考えておらず、大学卒業後はアパレル業界でキャリアをスタートさせました。当時は、多店舗展開する企業向けのアパレル製品の企画・卸売りの仕事に携わっていました。しかし、あるとき弊社の経営状況が良くないことを聞き、留学を支援してくれた両親へ恩返しをするために入社を決意したのです。

2001年に入社しましたが、そのタイミングで一部の社員が退職してしまい、大変な状況からのスタートとなりました。それからもさまざまな困難がありましたが、誠実であるという信条のもと仕事に取り組んだ結果、多くの方々に助けられて今日までたどり着くことができました。

歴史ある「繊維事業」と「環境貢献型事業」の両輪で成長を続ける

ーー貴社の事業内容についてお聞かせください。

江守雅人:
弊社には事業の柱が2つあり、1つ目が「繊維・生活関連事業」です。これは弊社の原点といえる事業で、創業時は主にシルク製品やスカーフなどを扱っていましたが、現在ではベビー用品が主力です。使いやすさと品質にこだわった商品開発で、売上の約4割を占めています。

2つ目の「機能部材・資材関連事業」は、プリンター関連の部材を主力としています。かつては繊維でできたタイプライターのインクリボンを扱っていましたが、プリンター技術の変遷にともない、弊社のビジネスモデルも変化を遂げてきました。現在は、純正トナーカートリッジに使われているプラスチック容器を再利用し、リユーストナーカートリッジとして再生させるための部材供給を行っており、廃プラスチック削減を通した環境貢献型の事業として弊社のもう1つの柱となっています。

ーー組織づくりにおいて、どのようなことを大切にしていますか?

江守雅人:
弊社では「お互いさま、おかげさま、ありがとう」という言葉を大切に、子育てや介護などのライフイベントに柔軟に対応できる環境を整えています。私自身も3人の子どもを育てているため、子育ての大変さを実感しています。そこで、子どもが急に熱を出して休まなければならないときも、フォローできる風土をつくってきました。

この社内環境は採用活動にも影響しており、弊社では女性社員が65%を占めています。性別を問わず採用を行っていますが、この結果は弊社が女性にとっても働きやすい環境が評価されているからだと感じています。お互いに助け合い、のびのびと働ける環境が、弊社の成長を支えてくれているのです。

「三方よし」を超えた「4good」で未来を切り拓く

ーー今後の展望を教えてください。

江守雅人:
弊社パーパス「人と環境に優しい」が根幹となる「4good」という考え方を軸に、新たな価値創造に取り組んでいきます。これは、売り手・買い手・世間の3者が幸せになることを目指す「三方よし」の精神を発展させた弊社ならではの考え方です。環境や地域社会といった「+1(プラスワン)」の視点を加え、関わるすべての人々、そして未来にとって良い事業を生み出していきたいと考えています。

こうした取り組みを広く知っていただくための情報発信にも、より力を入れていきたいですね。専門の部署はありませんが、私が講演などでお話しする社員の努力や会社の価値観は、社外の方々にも高く評価していただいています。こうした地道な発信を通じて、「4good」への共感を広げ、新たなご縁を紡ぎながら、より良い未来を切り拓いていきます。

編集後記

江守社長の言葉から最も強く伝わってきたのは、社員への深い感謝の念だった。「お互いさま、おかげさま、ありがとう」の精神で社員が互いにフォローし合う企業文化は、江守社長自身の子育て経験に根差している。入社から今日に至るまでの道のりを「多くの方々に助けられて」と表現する謙虚さに、創業70年を迎えた老舗企業の成長の秘訣を垣間見た思いがした。

江守雅人/神奈川県横浜市生まれ。ワシントン州立大学経営学部卒業。大学卒業後、日商岩井繊維株式会社(現:帝人フロンティア株式会社)に入社。2001年、原貿易株式会社に入社。2009年、同社取締役社長に就任。リユーストナーカートリッジの普及活動を通じ、企業経営における脱炭素・SDGs活動の講演を行う。