※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

ここ数年、堅調に推移している作業用衣料・ユニフォーム市場。特に医療・介護用ウエアの市場は高齢化などを背景に安定的に推移している。好調な企業業績を背景に、ブランドの刷新や高機能素材の採用などに努める企業が増えている。

そのような企業の中でも、独自のポリシーと革新的なテクノロジーを活かした商品開発で信頼を築き、常に注目を集めるのがKAZENホールディングス株式会社だ。

同社は1952年の日産被服株式会社として創業以来、業務用ユニフォームの企画、生産、販売を一貫して続ける業界のリーディングカンパニー。近年は美術館や飲食店の運営など新しい事業にも取り組む。ブランド名KAZENは、可染(かぜん)に由来し、白銀に輝く美しさを表現したもの。白衣をつくることから始まった同社ならではの個性が光っている。

代表取締役社長である矢澤真徳氏に、モノづくりのポリシーと新たな取り組みに込められた思いを聞いた。

プロを輝かせるユニフォームづくり

ーー医療や介護をはじめ、幅広い業界にユニフォームを販売されていますが、どのようなポリシーでユニフォームをつくられているのでしょうか。

矢澤真徳:
たとえばスポーツ競技で日本代表の選手がユニフォームを着ますよね。そのとき彼らがどれほど誇らしい気持ちでいることか。これまでずっと頑張ってきた努力の成果、そして日本を背負っているという誇り、そういうことを全て象徴するのがユニフォームです。

私たちがつくるユニフォームもさまざまな職業のプロに向けたもので、その人が人生をかけて行う仕事の際に着用されます。

だから私たちが目指しているのは単なる仕事着をつくることではなく、誇りを持って仕事をするプロを輝かせる服をつくることなんです。

独自のノウハウに裏付けられた革新的4Dカッティング

ーー貴社の強みであるテクノロジーについて、1つ具体的に教えていただけますか。

矢澤真徳:
弊社独自の技術として4Dカッティングというものがあります。日本語で言うと動体裁断。

たとえば普通の袋なんかを作るときは2D、要するに平面にピタッと置ける形です。そして立体的な人間の体に合うようにカッティング、縫製したら3Dですね。

3Dだと確かに着たときは皺が寄りませんが、動いた瞬間に皺が寄りますね。その3Dに「動きを加える」という意味で4Dと表現しています。

さらに、研究により実はすべての部位の皮膚が同程度に伸びるわけではなく、ある一定の場所が大きく伸びるということが分かりました。ということは、皮膚が伸びる部分だけ服も伸びる仕組みにすれば、皮膚に沿って洋服が動くわけだから、皺も寄らないし、動きやすくもなる。

これが基本の考え方で、あとはストレッチ素材を使ったり、カッティング技術を活用したり、何らかの形で伸びを実現するわけです。ここに弊社独自のノウハウがあり、特許も取得しています(4DIMENSION MOTION CUTTING SYSTEM®)。

人を育てる場を提供して日本の未来へ投資

ーー大変活気のある職場だと感じましたが、何か秘訣があるのでしょうか。

矢澤真徳:
弊社では女性が多く活躍しています。受注の入力などを行う営業アシスタントもほぼ女性で、皆さん優秀です。

もちろん会社側も女性が働きやすい環境整備に努めています。産休・育休制度が整っているので、皆さん休んで、そして必ずまた戻ってきて働いてくれます。お互いにとってよい環境なんです。

それから生産部門、つまり縫製工場で働く社員の平均年齢がとても若い。一般的には国内の縫製工の平均年齢は高まっており、70代の人も大勢働いているというのが縫製工場の実態だと思います。

そのような状況下では、縫製の技術を若い人に引き継がなければならないという課題が発生します。そこで弊社では、コストはかかるけれども人を育てるという意味で積極的に人材を採用しているんです。その結果、海外の工場を指導できるような力を持った20代の若い人が既にたくさん育っていますよ。

心が癒やされ想像力羽ばたく美術館が誕生

ーー近年、美術館をオープンされた背景にはどのような意図があったのでしょうか?

矢澤真徳:
もちろんユニフォームをつくることが弊社のメインですが、それに伴って病院や社会にもっと貢献できることはないかということを考えています。その1つがアート。アートには人を幸せにする、という大きな役割があります。

病院のスタッフや患者さんに幸せな気持ちになってもらいたい。さらには、一般の人々にも、アートを鑑賞する楽しさを伝えていきたいという思いから、今年(2023年)11月に美術館と小さな音楽ホールをオープンいたしました。

音楽ホールは小林愛実さんのピアノコンサートで柿落としを行い、予約制ですが美術館は一般にも公開しています。

私はこの美術館を、何かを学ぶ場ではなく、見る人が想像力を羽ばたかせる場にしたいと思っています。自分にわかるだろうか、と美術館に行くことに対して緊張する方も多いと思いますが、むしろ自分なりの感想を大切にしてほしいと思います。

そのために、この美術館ではあえて作者の制作意図というものは説明していません。情報や知識に縛られることなく、自由に想像することの楽しさを味わう、というのがこの美術館のコンセプトです。


想像する楽しさと、想像した世界で遊ぶ楽しさに出会ってほしいと思っています。想像力こそ、AIには真似ができない人間独自の素晴らしい力なのですから。

編集後記

若手人材の確保や縫製技術の継承、そのほかサステナビリティなど、業界が抱える課題に着々と取り組み前進を続ける矢澤社長。

「シナジーのあることばかりを追求するのではなく、それよりも世の中に必要だと思う価値を提供できる企業でありたい」と語る声は、柔和でありながら力強い。

柔軟な発想で新たな価値を創造する矢澤社長とKAZENホールディングス株式会社の今後にますます注目したい。

矢澤真徳(やざわ・まさのり)/東京都生まれ。1993年東京大学法学部卒。株式会社日本総合研究所を経て2008年に株式会社アプロンワールド(現KAZEN WLD株式会社)入社。2010年10月に同社代表取締役社長、2018年1月KAZENホールディングス株式会社代表取締役社長に就任。2023年11月KAZEN CECCO BONANOTTE MUSEUM館長に就任。
KAZEN CECCO BONANOTTE MUSEUM公式HP