
文久元年(1861年)に創業し、今年で165年目を迎える山甚物産株式会社。福井県越前市を発祥とし、蚊帳の製造から始まった同社は、現在、独自の高反発素材「PRIMAREX(プリマレックス)」を武器に介護・福祉分野のQOL向上に挑んでいる。高齢化の進行により福祉用具の需要が拡大する中、伝統的な卸売から消費者に直接商品を販売するビジネスモデルへの転換を加速させている。今後は、コロナ禍を経て高まった「リカバリー」への関心に応え、睡眠の質による社会貢献を追求していく構えだ。
「挑戦は義務、失敗は権利」という強い信念を掲げ、老舗企業の変革を牽引する代表取締役社長の山本健一郎氏に、入社の経緯や事業展開の核心、そして介護の現場に光を当てる将来の展望について話を聞いた。
社長就任後の大仕事は部門間のチームワーク構築
ーーまずは、社長に就任するまでの経緯をお聞かせください。
山本健一郎:
前社長は私の親ではなく伯父であったため、もともと事業を継ぐ予定はありませんでした。大学を出て就職した半導体の会社で充実して働く日々でしたが、あるとき伯父が病を患ってしまいました。伯父には後継者がいませんでしたので、妹である私の母から「兄を助けてほしい」と、頼まれたのです。
最初は固辞していたのですが、「経営者として働くことで会社員より多くの経験が積めるだろう」と思い直し、また家業を助けたい気持ちも膨らみ、2018年に入社。そして3年後の2021年に社長へ就任するに至りました。
ーー社長になって最初に取り組んだことは何でしょうか。
山本健一郎:
弊社はグループ内外で合併を重ねてきた歴史があるため、私が入社した頃は明らかに部署ごとに垣根がありました。部門間のコミュニケーションがなく、まとまりのない組織という印象でした。「共有できる経営資源があるのに、競い合っているだけでは意味がない」。そう思い、まずは月1回の経営会議を開くことにしたのです。そこでは、相乗効果がありそうな案件について協議する機会を設けました。
たとえば、基本的なことですが、リレーションのある不動産関連の企業の中でホテル等の運営開発しているところに寝具やリネンを紹介したりなど、ヒト・モノ・情報を共有し、相乗効果を利用しない手はないのです。また、私と各部署の本部長が出席する食事会を開いて交流の場を増やしました。これらによって現在では上層部のあつれきは解消されています。他本部間の社員のコミュニケーションも増え、同じ方角を向いた1つの経営体として活動を進めているところです。
ーー組織を一つにする過程で大切にされたことはありますか。
山本健一郎:
「挑戦は義務、失敗は権利」という言葉を掲げています。やってみて失敗した方が、何もしないより成長は早いです。頭が良いといろいろと色々考えて動けなくなるかもしれませんが、まずはやってみることが大切です。一生懸命やって失敗したことは許容します。損失を出して終わりなら失敗ですが、それを糧に次に活かせば失敗ではありません。挽回すればいいのです。実際に、今までやっていなかったことに挑戦し、形にしている社員たちは非常に生き生きとした表情を見せてくれます。ゴールが見えてくると、仕事を通じて大きな成長実感を得ているようです。そうした「まずやってみる」を体現するリーダーを増やしていくことが、これからの弊社の成長に不可欠だと考えています。
オリジナルの「高反発マットレス」を介護施設向けに拡販
ーー現在注力しているセクションについて教えてください。
山本健一郎:
現在伸び悩んでいる部門こそ、全社一丸となって伸ばしていきたい領域です。その一つはBtoCがメインのセクションであるリビング部門です。今まさに高齢化社会の真っただ中ですので、介護や福祉向け用品という新たな領域への挑戦に注力しています。長年幅広いジャンルの寝具を扱ってきた弊社ならではのノウハウを駆使し、介護業界のニーズにマッチした商品の開発を進める構えです。
また、同時にECによる一般ユーザー向けの販売にも注力する方針です。量販店等の大型店舗が寝具を取り扱いをはじめ、街の専門店も伸び悩んでいますが、世の中の「睡眠」への関心も日々高まっております。専門店ならではの訴求に加え、今後は一般消費者向けに直接訴求できるニーズ対応型の商品を開発販売するためにネットの活用こそ必須と考え、EC事業を成長させる構えです。

ーー貴社商品の「PRIMAREX(プリマレックス)」の特長をお聞かせいただけますか。
山本健一郎:
「PRIMAREX (プリマレックス)」は、特殊ポリエチレンの層を複数、網状に絡めることでつくられた独自開発の高反発マットレスです。寝具には「通気性」「清潔さ」「反発力」という睡眠の質に直結する3つの課題がありますが、それらを高い次元で解決できる商品として仕上げています。最大の特徴は、素材の90%以上が空気の層で構成されている点にあります。この構造により、従来のウレタン素材では難しかった圧倒的な蒸れにくさを実現しました。シャワーで丸洗いも可能なため、汗やおねしょなどの汚れを気にすることなく、常に清潔な状態を保つことができます。この「清潔さ」と「通気性」という利点は、特に乳幼児や子どもの寝具として非常に有効で、空気の層が多いため、万が一のうつ伏せ寝の際にも窒息リスクを軽減することに役立ちます。
また、働き盛りの世代に向けては、短い時間で効率よく質の高い睡眠をとり、体力を回復させる「リカバリー」の観点から商品を提案しています。私たちが長年培ってきたノウハウを活かし、若者から働き盛りの方まで、すべての人々が追求すべき高品質な睡眠を提供していきます。
さらに、高齢者や介護が必要な方々にとっても、この高反発な素材は大きな助けとなります。適度な反発力が起き上がる際の動きをアシストし、同時に介助者の身体的な負担軽減にもつながるためです。現在はその柔軟な適応力が評価され、症状の変化が激しい緩和ケアの現場からも、幅広い状態に対応できる素材として大きな期待を寄せられるようになりました。私たちはあらゆるライフステージの方々に寄り添うことを目指しています。赤ちゃんの健やかな成長から最期を看取るそのときまで、質の高い睡眠を提供し続けること。そして、人生の豊かさを支え続けていくことが、私たちの目指す姿です。
デジタル活用と直接販売で進めるファンづくり
ーーマーケティングや広報の面で新しく取り組んでいることはありますか。
山本健一郎:
お客様に直接商品を販売するビジネスモデルによる新たなファンづくりです。これまでは企業間取引がメインで、裏方として過ごしてきましたが、今後は直接お客様に届けて良さを感じてもらうことが必要だと考えています。その一環として、クラウドファンディングの積極的な活用も開始しました。
クラウドファンディングは、実績を上げるためというよりも認知を広げて弊社のブランドで直接お客様とつながり、反応を見るための「勉強の場」という位置づけです。現在は2企画ほどですが、来期に関しては4企画、5企画と増やしていきたいと考えています。広告に潤沢にお金をかけられる体力があれば知名度はすぐに上がりますが、私たちは地道に、しかし着実にお客様との接点を増やしていく戦略です。
ーーSNSの活用やターゲット層の拡大についても教えてください。
山本健一郎:
インスタグラムなどを通じてお客様と直接つながり、商品の魅力や睡眠の大切さを発信しています。以前は高齢の方が中心でしたが、これからは働き盛りの世代にも「しっかり寝て休んで体力を回復し、健康寿命を延ばす」という提案をしていきたいと考えています。
たとえば、働く世代が自分用として購入するだけでなく、親御さんへのクリスマスプレゼントとして選んでいただくような広がりも期待できるでしょう。実際に、30代や40代の方々から「親に安眠をプレゼントしたい」という声もいただくようになりました。自分たちの本当に良いものを、SNSやECを通じて適切な手法で届けていくことが、今後取り組むべき挑戦です。
効率化とチームプレーで支える次世代の働き方

ーー採用や社内環境の整備については、どのような方針をお持ちでしょうか。
山本健一郎:
採用に関しては、中小企業として非常に大きな課題を感じています。単に給料を上げるだけでなく、面白い手当や休日制度など、仕事以外の魅力も出していく必要があると考えています。現代は、やりがいはもちろん「どんな人と働けるのか」を重要視する若い世代が増えているので、社長である私の人柄や弊社の方向性をしっかり伝えていきたいですね。
弊社の若いメンバーはチームで動く傾向が強く、一人の実績者が「我が道を行く」よりも、チーム全体で効率よく数字を上げる文化が育ちつつあります。今のリーダーたちは後輩の面倒をよく見ており、そうしたチームプレーができる方を求めている状況です。現在、従業員は70名ほどで年齢層は高めですが、最近は10代の新人も入ってきています。長く続けられる安心感と、新しい挑戦ができるワクワク感の両立を目指しています。
ーー管理部門の体制強化やDXの進捗についてはいかがでしょうか。
山本健一郎:
本部のレベルを下げずに古いやり方を変えていこうと、手作業の電子化やDXを進めています。具体的には、FAXやExcelでの煩雑な処理を自動化し、人がやるべき創造的な業務にもっと集中できる環境をつくりたいと考えています。現場が忙しい中で変革を進めるのは容易ではありませんが、毎年少しずつアップデートを重ねているところです。
また、今後は若いメンバーが働きやすいように、建物の古いオフィスを綺麗にし、コミュニケーションが活発な職場に変えていく予定です。ワークライフバランスもしっかり整え、オンオフを分けられる環境をつくっていきます。
介護・医療現場のイメージを睡眠から変えるビジョン
ーー3~5年後の未来、会社をどのような状態にしていきたいですか。
山本健一郎:
介護業界において、誰もが知っている福祉用品メーカーになりたいですね。「山甚物産の商品が良いよ」と自然に言っていただける存在を目指しています。介護の現場には、いまだに「暗い」「過酷」といったネガティブな印象が根強く残っているのが現状ですが、私たちの手でその印象を変えていきたい。まずは自分たちにできることから確実に行動を起こしていく決意です。
実は先日、その決意をさらに強くする出来事がありました。弊社社員が手術で入院した際、病院のベッドでの睡眠がいかにストレスフルかを体感したのです。ウェアラブルデバイスのデータで見ると、病院ではリラックスできず、夜中に何度も目が覚めていました。ところが、退院して弊社のマットで寝た翌朝、データは劇的に改善していました。まさに寝床を変えるだけで、人生の質が変わることを身をもって証明したのです。
質の良い眠りを取りたいという思いは、介護を受けている方も健常者の方も同じです。私たちは、この「質の高い眠り」をすべての現場に届けていきたい。売上利益はもちろん大事ですが、介護業界全体に良い影響を与えたいのです。弊社の商品は業界の中でも決して高くありませんし、導入しない理由はないと考えています。製品の周知を徹底し、介護の現場をより健やかで明るい場所へと塗り替えていく。また、質の高い眠りを通じて、利用者とそのご家族、さらにはスタッフの方々のQOLまでも向上させること。それこそが、私たちが総力を挙げて実現すべき未来の姿に他なりません。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
山本健一郎:
「2030年までに売上高100億円」という目標を掲げています。そのためには、M&Aも含め、競合他社や違う業態とも互いのビジネスを組み合わせる必要があるでしょう。伝統を大切にしながらも、時代に合わせて変化し続け、お客様の日常をより豊かにする挑戦を続けていきます。
編集後記
山本氏は、20代や30代の方に「失敗を恐れずに、アクションしてみないと何が起こるか分からないのだから、人を巻き込んででもやるべき。そして若いときから行動する癖をつけた方がいい」とアドバイスしている。若いうちから社長を引き受ける度胸を持ち合わせた人物だけに、アグレッシブなコメントに勇気づけられる。今回の取材で特に印象的だったのは、同氏自らが入院生活を通じて自社製品の価値を再認識したというエピソードだ。介護の現場はQOLが後回しにされがちだが、睡眠の質を追求することが、利用者の喜びを取り戻すことに直結すると確信した。
「2030年までに売上高100億円」という目標については、「M&Aしかり、競合他社でも違う業態でも、互いのビジネスを組み合わせる必要はあるでしょう」とのこと。「介護業界のイメージを睡眠から変える」という壮大な目標に向けた挑戦は、まだ始まったばかりである。同氏ならばきっと、目標よりも早く達成するのではないだろうか。同社の挑戦に今後も注目していきたい。

山本健一郎/1984年東京都生まれ。青山学院大学卒業後、2007年にトーメンエレクトロニクス株式会社(現・株式会社ネクスティ エレクトロニクス)入社。中国や台湾系新興メーカーの発掘、営業に携わる。2018年に伯父である前社長の依頼を受け、山甚物産株式会社に入社。2021年に同社代表取締役社長に就任。
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■弊社商品「PRIMAREX (プリマレックス)」の詳細はこちらよりご覧ください。