
ファストファッションの台頭により、国内市場が減少の一途をたどっている繊維業界。そんな中、繊維事業を中心に運転免許事業や食品事業など多角化経営を行っているのが、遠山産業株式会社だ。幅広く事業を展開する同社が目指す姿や、繊維業界に対する思いなどについて、代表取締役社長の遠山卓郎氏にうかがった。
繊維会社の老舗が餃子の販売事業を始めたきっかけ
ーー遠山社長のご経歴をお聞かせください。
遠山卓郎:
大学卒業後は米国にあるITの専門学校に通っていました。そこで得たスキルを活かすため、IT企業に就職。そこでの仕事は、放送局向けにビデオシステムをサポートすることでした。しかし、社会人として業務に携わる中で、もう一度じっくりと勉強する時間を持ちたいと思うようになりました。
弊社は1877年から米問屋として始まり、その後、繊維業を営んでいた老舗家業です。いずれは社長だった父の跡を継ぐつもりでいたので、一度家業に入ればその仕事に専念しなければならないと考えていました。その前に、もう少し海外で学びたいと思い、前職を退職するタイミングで再び留学したのです。
そして現地でMBAを取得し、経営の知識を身に付けた後、家業に入りました。
ーー入社後は、どのような改革を行ってきましたか。
遠山卓郎:
私が入社後にまず着手したのが、社内のデジタル化です。弊社は繊維の商社として、綿糸や毛織物、化学合繊などを取り扱ってきましたが、その他にも、自動車学校やゴルフ練習場の運営など、多角的な事業を展開しています。
多くの事業を主に紙の書類で作業していたため、業務管理システムを導入し、クラウド化を進めました。その結果、業務効率が向上し、残業時間の大幅な削減につながりました。自動車学校の教習システムもデジタル化した結果、バックオフィス作業を大幅に削減することができました。
また、私の代から新たに始めたのが、コインランドリーの跡地を利用した、餃子の販売事業です。隣接しているスーパー銭湯(現在閉館)とゴルフ練習場のお客さまの相乗効果を見越せないかと考え、当時では珍しい餃子お持ち帰り専門店を開店させました。
ゴルフで汗を流したお父さんが、スーパー銭湯で汗を流し、家族のおみやげに餃子を買って帰れると喜ばれるだろうと思ったのです。餃子の餡には、愛知県愛西市で採れた旬のれんこんを使うことで、地域の活性化にも貢献できればと思い、この事業を始めました。
地域の方に一生を通して元気で過ごせる場を提供したい

ーー貴社の強みについてお聞かせください。
遠山卓郎:
長年築いてきた仕入先や取引先とのネットワークが大きな強みですね。特に繊維事業では、このネットワークが重要な役割を果たしています。たとえば新商品を開発するときなど、「これはあの繊維メーカーさんにお願いしてみよう」などと、すぐに協力企業が思い当たります。
自分たちの頭の中にしかなかったものを具体的なカタチにできるのは、こうした取引先の方々のおかげなのです。
ーーその他に新しい取り組みとして何がありますか。
遠山卓郎:
弊社の所在地である愛知県の西部は、高齢者が多い地域です。昨今では運転免許の返納を機に、引きこもりがちになる方々が増え、社会問題になっています。そこで弊社は、車の運転を通じて健康寿命を延ばすプロジェクトを立ち上げました。
県内で初となる高齢者専用の運転コースを設置し、定期的な運転チェックを行っています。こうして高齢になってからも車の運転を続けることで、脳の活性化をサポートし、外出の機会をつくるための取り組みを続けています。
さらに、現在考えているのが、自動車学校とゴルフ練習場の敷地内に老人ホームを建設する計画です。18歳で免許を取りにきて、大人になったらゴルフを楽しみ、80歳になったら終の棲家として過ごしていただく、という構想を抱いています。
このように地元の方々と一生を通してお付き合いし、地域に根付いた企業であり続けたいと考えています。
社会に貢献しながら、多様な働き方ができる制度も充実
ーー経営者として心がけていることを教えていただけますか。
遠山卓郎:
前職のときからずっと、「売り手よし・買い手よし・世間よし」の三方よしの考え方を大切にしています。自社の業績も維持しながら、顧客と社会にも利益をもたらせる企業でありたいからです。
その一環として、サステナブルの観点からも、使い古した羽毛布団を再利用するリサイクル布団の製造にも取り組んでいます。具体的には原料となる羽毛を取り出し、洗浄して乾燥させてから新しい羽毛布団をつくっています。
今後も今ある資源を利活用し、少しでも自然保護に貢献したいですね。
ーー組織を運営する上で意識している点をお聞かせください。
遠山卓郎:
現場で働く社員たちの声に耳を傾け、良いと思ったアイデアは積極的に採用しています。たとえば、当社の人気製品である「七宝みそ餃子」は、餃子店の店長が考案したものです。日々業務に携わっている従業員だからこそ生まれる新しいアイデアを活かせるように、新商品開発の際に参考にしています。
ーー貴社で働く魅力についてはどのような点が挙げられますか。
遠山卓郎:
弊社は多角的に事業を展開しているため、さまざまな業務を経験できることが大きな魅力です。特定の分野に留まらず、さまざまな業界で経験を積めるため、視野を広げられるでしょう。
また、働き方の選択肢が広いことも特徴ですね。たとえば希望者には正社員として雇用するのではなく、業務委託契約を結んでいます。給与に関しても、それぞれの従業員と相談しながら、たとえば基本給に利益分を上乗せして支給するなど、柔軟に対応しています。
このように個人のニーズに合った働き方ができることも、弊社で働くメリットです。
ーー最後に今後の展望についてお聞かせください。
遠山卓郎:
自分たちが表に出るよりも、取引先に生産面で貢献したいと考えています。特に愛知県は織物の一大産地で、有名ブランドに原料を供給している企業は少なくありません。弊社もその一員として、繊維業界を支えていきたいですね。
現在、今後に向けて新工場の運営計画を進めています。生産体制を整備して、職人の高齢化で活気を失いつつある繊維業界を盛り立てるのが目標です。創業から繊維事業を営んできた企業として、業界の発展に少しでも貢献できるよう努力していきたいですね。
編集後記
高齢者の引きこもり増加や、繊維業の衰退など、地方と業界の課題解決に向けて、いろんな方面からチャレンジして奔走してきた遠山社長。一見、バラバラに見える繊維業、ゴルフ場の運営、餃子店の経営などが、地域活性というひとつのビジョンのもとで1つに結びついているのがユニークだ。これからも地元に根ざした老舗企業ならではの視点で、地域活性化と環境保護に取り組みながら、人々のライフステージを支える存在になるだろう。

遠山卓郎/1981年、愛知県生まれ。青山学院大学を卒業後、2000年にコンピューターの専門学校に入学。伊藤忠ケーブルシステム株式会社に入社し、ビデオシステムの構築に従事。米国へ留学してMBAを取得した後、2010年に家業である遠山産業株式会社に入社。2014年に代表取締役社長に就任。