※本ページ内の情報は2025年7月時点のものです。

1922年の創業以来、一世紀以上にわたり日本の靴下産業を支えてきたコーマ株式会社。染色から仕上げまでを一貫して国内で行う生産体制を強みとし、OEM事業を中心に展開している。業界の常識を覆す立体構造の「3Dソックス」で特許を取得するなど、伝統を守りながら革新的な挑戦を続ける同社。父から事業を受け継ぎ、数々の苦難を乗り越えてきた代表取締役社長の吉村盛善氏に、その歩みとものづくりへの哲学、そして未来への展望をうかがった。

100年続く事業を支えた苦境からの挑戦

ーーまず、貴社についてお聞かせください。

吉村盛善:
曽祖父が大阪で河内木綿を扱う産元問屋を始めたのが弊社の原点です。その後、祖父が1922年に靴下の製造を開始しました。当時は紡績工場で働く女工さん向けに制服として支給されていました。靴下はいわば先端産業で、事業は成功を収めたそうです。しかし昭和30年代にナイロンが登場すると、その波に乗り遅れて会社は非常に厳しい状況に陥ります。

伸縮性に富むナイロン素材が登場時は出遅れましたが、弊社では他社より10年ほど早くスパンデックス(※1)を導入しました。スパンデックスの採用と、ワンポイント刺繍ブームが重なり、なんとか持ち直すことができました。当時は月産100万足を超えるほど生産に追われる日々でした。

(※1)スパンデックス:ポリウレタンを原料とする伸縮性に優れた合成繊維。ゴムのように伸び縮みする特性を持ち、スポーツウェアや下着など、様々な衣料品に使われる

顧客のニーズをくみ取ることから始まる価値創造

ーー貴社が商品づくりで大切にされていることは何ですか。

吉村盛善:
子供服ブランド「ファミリア」とのお取り引きで、刺繍に関する考え方を学び、衝撃を受けました。素人考えでは、細い糸で針の数を多くすれば綺麗に仕上がると思っていました。しかし、「それでは機械刺繍そのもの。手で刺して抜くような、手芸調の風合いが良い」と教わったのです。この経験から、製品の奥深さや本質的な価値を見抜く力を重視しています。

また、私が会社に入る前の話ですが、印象的なエピソードがあります。それは、弊社が開発したスキーソックスにまつわるエピソードです。当時は夜行バスでスキー場へ向かうのが主流で、スキーブーツは革製でした。革は濡れると柔らかくなる性質があるため、滑っているうちにブーツが濡れて緩んでしまいます。そうすると、ブーツに付いているバックルが足に当たって痛いという問題がありました。そこで弊社は、バックルが当たる部分にパイルを配置したソックスを開発しました。この顧客課題に深く寄り添う発想は、弊社のものづくりの根幹になっています。

常識を覆した革命的ソックス「3Dソックス」誕生の裏側

ーー貴社を代表する製品「3Dソックス」開発のきっかけを教えてください。

吉村盛善:
社長に就任した頃は、平成不況の真っ只中でした。当時は「品質が多少落ちても安い方が良い」という費用対効果が重視される時代。しかし、それでは私たちの強みは活かせません。そこで、米国特許以来170年間変わらなかった靴下の「筒状につま先、かかとに台形の突起を付けた」形状そのものを見直すことにしました。そして、人の足に沿った立体的な靴下を作ることで、新たな付加価値を創造しようと考えたのです。

社内の技術者と一緒に、機械制御を改造し、つま先部分を立体的に編む技術を開発しました。さらに、土踏まずなど部分ごとに伸縮性を変える特殊な編み方を考案し、特許も取得しました。画期的な靴下でしたが、「左右があると面倒」「価格が高い」と当初はOEM得意先に取り上げてもらえませんでした。

そこで、OEMが中心だった弊社が、初めて自社ブランド「FOOTMAX(フットマックス)」を立ち上げて販売することになりました。

国内一貫生産を武器に未来の市場へ挑む

ーー貴社の強みについてどうお考えですか。

吉村盛善:
染色から編み立て、仕上げまで、通常は分業される工程をすべて自社で責任を持って担っています。これにより、細部までこだわった開発が可能ですし、何より「言い訳のできない環境」が生まれます。この体制が、高い機能性を求めるスポーツメーカーからの信頼につながっていると考えています。

ーー今後の事業の展望についてお聞かせください。

吉村盛善:
OEM事業のお取り引き先と新たな市場を開拓しつつ、より先鋭的な分野では自社ブランドでの開発も強化していきたいです。また、最近新たな特許として、着圧ソックスを開発しました。これは靴下をねじって編むことで履いた後に自分の足に合わせて締め付け具合を調整できる製品です。高齢で身体が硬くなった方でも楽に履けます。今後はこうした独自の技術を活かしたいです。そしてスポーツ分野だけでなく、日常のライフスタイル分野にも挑戦していきたいと考えています。

編集後記

一世紀以上の歴史を持つ老舗でありながら、その歩みを止めることなく革新を続けるコーマ株式会社。幾多の苦難を乗り越え、ものづくりの本質を見失わなかった吉村社長の情熱が、業界の常識を覆す特許技術を生み出した。国内一貫生産という強固な土台の上で、次世代のニーズに応える製品を世に送り出す。同社の未来への挑戦は、まだ始まったばかりだ。

吉村盛善/1953年大阪府生まれ、関西学院大学卒。グンゼ産業株式会社(現GSIクレオス)に入社。1980年コーマ株式会社に入社。1992年同社代表取締役社長に就任。染色から編立加工仕上までの国内一貫工程を活かして高機能高付加価値靴下の開発に注力している。地域の活性化にも貢献したいと考えている。