※本ページ内の情報は2024年4月時点のものです。

日本の中でも、特に都市開発が進んでいる東京。その東京を中心に、大規模開発を通して街に変革を起こしているのが、ホテル事業、会員制クラブ事業、ウェルネス事業、レジデンスフロント事業を展開している森ビルホスピタリティコーポレーションだ。

「ここにしかないホスピタリティ」を提供する、同社の代表取締役社長、森浩生氏に、今までの挑戦とこれからの展望を聞いた。

大学卒業後は日本の経済に貢献するため銀行マンの道へ

ーー貴社に入社されるまでの経歴を教えてください。

森浩生:
大学卒業後、日本経済の発展に貢献したいと日本興業銀行(当時)に就職しました。そこでは先輩たちにも恵まれ、良い環境で仕事に取り組めましたね。

1987年頃、日本興業銀行が証券業にも進出することになり、証券会社へ出向し、2年間知識を深めました。証券会社での業務はとても刺激的で、マーケットに直に接することができ、面白かったです。

ーーその後、森ビルへ入社したという流れでしょうか。

森浩生:
興銀の産業調査部で2年半勤めた後、森ビルへ入社しました。前社長の森稔氏から「ゆくゆくは森ビルに来てほしい」という話があり、ちょうど森ビルが中国での新事業を始める頃だったので、そのプロジェクトを任される形で入社に至りました。

上海万博を通してプロジェクトの成功を実感する

ーー中国の新事業を任されたときのことを聞かせてください。

森浩生:
新事業を任されてから、上海に何度も足を運びましたね。手がけていたビルの上部が当初の計画では円形だったのですが、それが日の丸を連想させてしまい、工事が進まなくなるというトラブルがありました。当時は、中国で反日感情が高まっていた時期でしたから。

結局、上海市の都市企画局の局長から「デザインを変えてくれないか」とお願いをされて、いろいろと交渉を進める中で、丸いデザインを四角いデザインに変更して、ようやく工事を進められるようになりました。

2008年に竣工した「上海環球金融中心」は、2010年の上海万博の開幕宣言の際に、ヘリコプターによりビルの映像をテレビに映す中で「これこそ我らが誇る上海環球金融中心」と紹介されました。

この「我らが誇る」という言葉を聞いたときに、自分たちのプロジェクトは本当に中国の社会に受け入れられたのだな、あれだけ長い間、議論を深め続けて良かったなと思いました。

安全で豊かな生活を提供するホスピタリティ企業としての取り組み

ーー安全への取り組みが強く求められる昨今、貴社として取り組んでいることはありますか。

森浩生:
設計の段階で安全ガイドラインをつくるのはもちろん、ビルが完成した後もスタッフを頻繁に現場へ派遣し、不具合や危険個所をチェックするようにしています。危ない箇所がないかを常に確認し、社内での安全会議で情報を共有するよう徹底しています。

ーー貴社ではホスピタリティ関連の業務を手がけていますが、そちらについても詳しく教えてください。

森浩生:
私は2013年から森ビルホスピタリティコーポレーションの社長を務めており、ちょうどコロナ禍においては、日本ホテル協会の会長を務めました。

弊社は人々の暮らしや日々の営みを豊かにする街づくりの一環で、ホテル事業、会員制クラブ事業、ウェルネス事業、そして住宅フロント事業を展開しています。

ホテル事業では、グランド ハイアット 東京やアンダーズ 東京等、都内に4カ所、そして中国のパーク ハイアット 上海を運営の他に、会員制クラブ事業、ウェルネス事業では港区内に6カ所のヒルズスパ、そしてMORILIVINGの住宅フロント事業など総合ホスピタリティ事業を担っています。2024年3月13日にはアマンの姉妹ブランドである「ジャヌ東京」が麻布台ヒルズに世界で初出店したばかりです。

大切なことは他社と差別化して良いスパイラルを生み出すこと

ーー貴社のビジネスを行ううえで、どういった点に難しさを感じましたか。

森浩生:
たとえば昔の現場仕事は、上司が新人を厳しく叱咤することで若手を育てる文化がありました。しかしそれは、今の時代にはもちろん受け入れられません。

時代が変化する中で、従来の上司のやり方を否定しないようにしつつ、今までの文化をどうやって変化させ、育成していくかを考えるのはとても大変です。

つい先日、経産省の「健康経営優良法人」の認定を弊社は初めて取得しました。ホテル業、飲食業においては、人手不足による長時間労働などが大きな課題ではありますが、健康経営の取り組みをさらに強化していきたいと考えています。

ーー最後に、森社長のビジネスに対する考え方を教えてください。

森浩生:
私は、適正な価格を設定して、他社との差別化を徹底することが大切だと考えています。「森ビルホスピタリティのサービスを受けに来た」と言われるようなものをつくることが、価格を上げるチャンスになりますし、価格が上がれば社員の給与を増やすこともできます。

最終的に社員の収入が上がるような良いスパイラルを生み出すためには、やはり他社とは違う素晴らしいサービスを提供することを、これからも意識する必要があると思っています。

編集後記

森社長は同社で働く魅力について「私は、観光業が今後日本を牽引すると思っています。そして弊社には、その中心で働ける喜びが間違いなくあります」と語った。

日本の観光・ホスピタリティ産業を引っ張り、東京を中心に都市の風景を変えてきた同社。今後は東京都内に限らずリゾートエリアなどへの進出も検討していきたいとのことで、新たな挑戦が楽しみだ。

森浩生(もり・ひろお)/株式会社日本興業銀行(現みずほ銀行)を経て、1995年森ビル株式会社入社。2013年取締役副社長執行役員就任(現任)。2005年より上海環球金融中心投資代表取締役(現任)、上海環球金融中心有限公司董事長(現任)、2012年より森大厦(上海)有限公司董事長(現任)、2013年より株式会社森ビルホスピタリティコーポレーション代表取締役社長(現任)を務めている。2021年より2年間、一般社団法人日本ホテル協会第27代会長を歴任。