本ページ内の情報は2016年11月当時のものです。

株式会社鎌倉新書 代表取締役社長
清水 祐孝

清水 祐孝(しみず ひろたか)/1963年生まれ、東京都出身。慶応義塾大学を卒業後、証券会社勤務を経て1990年父親の経営する株式会社鎌倉新書に入社。同社を仏教書から、葬儀や墓石、宗教用具等の業界へ向けた出版社へと転換。さらに「出版業」を「情報加工業」と定義付け、セミナーやコンサルティング、さらにはインターネットサービスへと事業を転換させた。現在『いい葬儀』『いいお墓』『いい仏壇』『遺産相続なび』『看取り.com』など終活関連のさまざまなポータルサイトを運営し、高齢者の課題解決へ向けたサービスを提供している。

『いい葬儀』『いいお墓』『いい仏壇』などのライフエンディング関連のポータルサイトを運営している鎌倉新書。企業名からして出版社のように思われがちだが、より良い情報提供の為ならば出版にはこだわらない、柔軟な発想を持つ企業である。
ポータルサイトを開設以来、相談件数は50万件超。なぜ、同社にこれほどの数の相談が寄せられるのか。今回は、株式会社鎌倉新書の歴史と取り組み、今後のライフエンディングの形について、同社代表の清水祐孝社長へのインタビューを通じて紹介したい。

出版社から始まった意外な歴史

御社の事業内容をお教え頂けますでしょうか?

清水 祐孝:
私達の事業の中心は、人が亡くなってから発生する様々な需要に対してインターネットで情報提供させて頂くサービス事業となっております。そのようなお客様を探している事業者からの広告代や手数料を頂く形で事業として成立させています。

入社の経緯についてお教え頂けますでしょうか?

清水 祐孝:
元々は父親が仏教書を出版していた会社でして、本当に3、4人レベルでやっていた会社でしたが、ある時、働いていた社員が急に辞めることになりまして。そこで血相を変えた父親から「手伝ってくれ」と言われたのがきっかけですね。

私も何をやっている会社なのか詳しく知らなかったので、継ぐとかそういうレベルではなかったんですよね。普通にサラリーマンとしてやっていくだろうと思っていたんです。しかし、入ってみたところ非常に経営状況が思わしくなく、売上よりも倍以上の借金がありましたね。なので入社した当初は一方で食いぶちを稼ぎながら、一方で借金の返済をひたすら繰り返していましたね。

出版からの脱却

2000年にサイトを立ち上げ、2015年にはマザーズ上場と、借金経営の状況から急成長されました。

清水 祐孝:
たまたま仏教書と隣接のところにお寺に関係するご葬儀などがあったんですよね。当時調べてみると、葬儀の市場は90万人弱だったと思うんですけども、それでも1兆円以上の個人消費の市場があったんです。それに加え、日本人はだいたい仏教徒と言う事でお仏壇とお墓を買うので、そこも足すと2兆円を超える大きなマーケットがあるじゃないかと気付いたんです。

昔からある仏教書だけを出版することよりも、そちらの方が可能性があるのではと。当時は出版社ですからお客様には本を買って頂いてましたが、その中でお客様は本が欲しいのではなく、その中身、情報が知りたいのではないかと気付きまして。印刷物に価値があるのではなく、印刷物に印刷された文字や画像などの「情報」に価値があると思ったんですよね。出版社と思っていたけど、出版にこだわる必要がないのではないかと改めて気付きました。

進化し続ける“情報加工業”

清水 祐孝:
お客様にとって価値のある情報を、お客様の求める形があればその形で届けるのが良いのではないかという考えにシフトしていきました。あくまでも「情報」を色々なところから仕入れ、加工し、お客様に届ける。これが大事なのではないかと。情報を加工する「情報加工業」という形が仕事として定着してきたのです。

あくまでも「情報を届ける会社」なので、出版だけにこだわらず、様々な手法を取り入れたいと思っています。そして、インターネットが普及してきた90年代後半頃、これをうまく利用すれば情報を上手に伝える一つのツールになるのではないか、と考え始めました。これも情報加工会社という視点があったから考え付いた事だと思っています。

今後はユーザーの「終活」に更なるお役立ちできるよう、事業領域を拡大させたいと語る清水社長。

今後、力を注ぎたい分野や強化していきたい部分はありますか?

清水 祐孝:
今は主にシニアの方々に対して、人が亡くなってから発生する需要やお墓、仏壇の購入等のサポートを行っていますが、これらはお客様の悩みの一部に過ぎません。「終活」と言う言葉があるように、亡くなるタイミングを考えるという事は、残りの時間をどのように過ごしていくかという事に繋がっていきます。

他にも役立てる領域はあると思います。社会貢献ももちろんですが、事業としてもチャンスがあると思っています。今は情報ツールが日々進化してきているので、うまく活用しつつ事業の幅が広がればと思っています。

強い組織をつくるために

清水社長ご自身、現在に至るまで、決して順風満帆ではなかったと伺っています。

清水 祐孝:
出版社から情報加工会社へ方向転換していこうとした当時、様々なセミナーに参加していました。その同期がどんどん上場していったときは悔しい思いをしましたね。その後、シニア向けのサービスをインターネットでやり始めたのは良いのですが、実際にはシニア層がほぼインターネットをしていない状態でした。ネットの売り上げがほとんどなく、出版で収益を得ていました。

そんな状況だったので、社内では出版事業とネット事業でやり方に対しての衝突が何度も起きました。そこで、新しい事業をやろうとするには犠牲なしにはいかないという事を痛感しました。出版社からネット事業に方向転換する際が一番大変でした。強い組織になる為には、何に向かって走っているのか方向性を明確にしないといけないという事が身を持ってわかりましたね。

編集後記

この取材を通して感じた事、それは終わりがない人はいないという事だ。人は事が起こってからでないと向き合えない事が非常に多いが、その事が起きる前に準備し、その時間を楽しむ事は1人ではなかなかできない。今後の事をしっかり考えさせてくれる機会を会社を通して与えてもらえるのは非常に素晴らしい事だと感じた。また、時代の変化に応じて出版社からネット事業に事業変換の決断をしたのは脱帽だった。「出版物に価値があるのではなく、情報そのものに価値がある」といった考えにも社長の柔軟な思考力と頭の回転の速さが窺える。形にこだわることなく、相手が欲しい形でその情報が手に入るというのは、非常に画期的だと感じた。