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ネット予約を超える新しい顧客管理システムとは

クービック株式会社 代表取締役社長 倉岡 寛

※本ページ内の情報は2017年1月時点のものです。

『Coubic(クービック)』は、誰でも簡単に、しかも無料で導入できるクラウド型ネット予約システムだ。予約台帳機能を持つだけでなく、自動ダイレクトメール配信やオンライン決済などにも対応する。2014年4月に開始した同サービスは、1年後には登録事業者が1万社を突破。現在では35,000社以上が利用登録し、世界的な電気自動車メーカーであるテスラモーターズ社も、試乗会の予約システムとして採用した。

運営するクービック株式会社では、サロン・マッサージの直前予約サービス『Popcorn(ポップコーン)』の展開も始め、ビジネスオーナーにとっては経営に必要なサービスを一括して管理することが可能となった。今回は代表取締役社長の倉岡寛氏に、『Coubic』と同社の今後の展開について伺った。

倉岡 寛(くらおか ひろし)/2007年3月、東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻を卒業。日本で新卒採用を始めたばかりのグーグル株式会社にプロダクトマネージャーとして入社する。2011年、グリー株式会社に転職し、米国事業の立ち上げに参加。普及し始めたスマートフォンで、生活に根差したアプリが使われていることを知る。日本においてもオンラインによるマッチングの仕組みを構築したいと考え、2013年10月、クービック株式会社を創設。

『クービック』誕生秘話

-倉岡社長はグーグル、グリーを経て起業されました。『クービック』が生み出されたきっかけは、どのようなものでしたか?

倉岡 寛:
もともと起業の意志が強かったわけではありません。グーグルに入社して、シリコンバレーで活躍する人たちに接するうちに、起業に対するハードルが下がっていきました。彼らは起業を特別なものとして考えていなかった。私も自分のキャリアの1つとして、視野に入れるようになりました。

ビジネスモデルが浮かんできたのは、グリーに転職してアメリカでの事業展開に携わったのち、日本に戻ってきたときでしょうか。米国では配車サービスUBER(ウーバー)など、生活に密着したアプリがすでに使われていました。日本では、引っ越すにせよ、レストランに予約するにせよ、いちいち電話して予約をし、調整しなければいけなかった。

1人のコンシューマーとして、これはとても不便に感じました。そしてその手間は来店する側だけでなく、電話を受けていちいち日程を調整するオーナー側にも当然負担になるはずです。もっと本業に専念できる環境を作れないだろうかと模索し始めました。

世界を変えるためのプラットフォームを創る

倉岡 寛:
転機はテスラモーターズ社から、試乗会の予約調整が大変だとご相談を頂いたことです。お客様の時間を抑えてもらって、その方の情報をフォローアップするような顧客管理が必要となるわけですが、これは試乗会に限った話ではありません。顧客管理に悩んでいるオーナーは多いのではないかと考え、作り出したプロダクトを、汎用的な予約システムとして打ち出したのです。

『Coubic』は、特定の業種をターゲットにしていません。実際、美容室やヨガ、いちご狩りを催す農園、セミナーを開催する企業、就職の説明会など、いろいろな需要があります。プロダクトを出して以降、屋久島の方が屋久杉だけでない島の名所を体験できるようなアクティビティの予約に使ってくださるなど、こちらが思いもつかないような活用をして頂いている場合もあります。

私たちが目指すのは、さまざまなサービスの事業者が、本業に集中できる世界です。お客様の呼び込みや予約の管理、顧客管理はとても時間がかかります。サロンの施術中に予約の電話が入ったために出ることができず、結果としてお客様を逃がしてしまったということもあるでしょう。そのような事態を解消し、バックオフィス系の事は全て請け負えるプラットフォームを目指しています。

-受注したシステムを顧客ごとにカスタマイズしていく形ではなく、汎用的なプラットフォームとして構築されたのは、どのようなお考えからですか?

倉岡 寛:
カスタマイズしてほしいというご要望は、とても多いです。しかし、基本的には全部お断りしています。企業ごとにカスタマイズをし始めると、そこでしか使えないシステムができてしまうからです。今はいろいろな方に使われるという、ボリュームを重視しています。

もちろん、ご要望を伺う中で、これは汎用的にニーズがあると思われる部分はシステムに反映させていきました。そしてオーナーらとお話する中で、もっと効率よくお客さんを集めたいという大きなニーズを知り、直前予約サービス『Popcorn』を立ち上げました。
大企業なら大金をもって自社専用のシステムを発注することができますが、私たちはあくまでも自分たちの作ったものがたくさんの人たちに使われて、課題解決に繋がることを目指しています。業界や世界を変えるためのプラットフォームを創る、そこはブレることなくやっていきたいです。


-有料版もありますが、無料版でもかなりの機能を利用できます。収益化は難しいのではないでしょうか。

倉岡 寛:
確かに時間はかかります。しかし、幅広く使って頂き、ユーザーからのフィードバックをシステムの改善に繋げてきました。今は一部に有料の機能を出させて頂き、ビジネスとして成り立たせているフェーズですが、無料版をなくすことは基本的に考えていません。世の中にインパクトを与えることをするためのファーストステップとして、投資家の方たちにもご理解を頂いています。

テクノロジーの力で、バックオフィスの全てを担う

大手企業から個人事業主まで幅広い分野のニーズに対応できることが強みだと語る倉岡社長。

-美容室や旅行など一部の業界では、大手企業の運営する予約サイトがすでに普及しています。それらと比較した御社の強みをどのようにお考えですか?

倉岡 寛:
ユーザーは予約システム自体に愛着を持って店を選んでいるわけではなく、自分の得になることがあるかどうかを見ています。『Coubic』も他の予約システムも、たくさんある集客手段の1つ。オーナー側から見ても、集客チャネルとして十分に共存しうる領域です。

そして我々は集客がメインではなく、予約や顧客管理、決済までバックオフィス系業務を全て請け負うというスタンスです。また、サービスを1つの業種に特化していません。例えば個人でやっているヨガの先生や、修理屋さん、単発でセミナーを開きたい個人の方…そんなさまざまな分野に対して、多人数の営業部隊を抱えて売りさばく大企業が、営業をやり切ることは難しいはずです。クラウドをベースにテクノロジーの力をメインに使い、オーナーのお話を親身になって聞いて課題解決に取り組めるのは、自分たちの強みだと思っています。

-今後はどのような展開をお考えですか?

倉岡 寛:
直近では、まず『Coubic』と『Popcorn』を伸ばし切ることが重要なポイントです。自分たちの力だけは無理なところは資金調達やパートナーシップも視野に入れて、一気に踏み込みたいですね。

もう1つは、関連サービスを生み出すことです。例えば予約のネット化は確実に進んでいますが、電話というツールもまだまだ健在です。接客中に予約の電話を逃がしてしまうこともあると思いますが、そこを我々がオペレータを使って代行する。『Coubic』の予約台帳に入れるまで請け負えば、オーナーは自分のカレンダーを確認するだけでよくなります。最終的には、AIを利用して自動化できるかもしれません。

コールセンターは法人向けがメインですが、電話のために1人余分に雇うことが難しいようなスモールビジネスをされている方にも需要があることは、オーナーたちとお話をしていてわかります。また、備品の購入や人材の採用に関してもオーナーの負担は大きいようです。こういった課題をテクノロジーによって解消して、お金やリソースがないところでも簡単に使えるようなサービスが提供できれば面白くなるでしょう。

-今後の展開に向けて、御社の課題をどのようにお考えですか?

倉岡 寛:
今足りないものは、人です。人材は非常に必要としています。新卒でも中途でも、新しいことを一緒にやっていけるような方を求めます。数字を管理できるような、経営企画に強い方もいいですね。人材の強化が、サービスをより普及させることに繋がるでしょう。

転職した時の私は、待遇の良さを感じながらも、新しいことがしたいという気持ちが高まってグーグルを飛び出しました。会社を立ち上げてまだ3年ですが、我々の目指しているところはとても大きいと思っています。紆余曲折しながら成長を感じたり、新しい世界を見たり、自分たちで会社を大きくしていく喜びを、必ず感じられる環境です。私自身、新しい未来を創っていく1人になりたいと思いますね。

編集後記

自分自身も直前予約サービス『Popcorn』を利用して、予約調整のわずらわしさから解放されたと話す倉岡社長。今後についてAIの活用など人が介在しないサービスを考え出す一方、外部と話す機会を増やして経営者としての資質を高めていこうとするバランス感覚を持たれていた。オーナーが本業に専念できる環境は、消費者としての自分たちにもよい影響をもたらすと信じ、クラウドを通した革新的な価値の提供を目指している。