株式会社コロンバン ~倒産寸前から奇跡の復活。老舗洋菓子メーカー 波乱万丈の再生物語~

株式会社コロンバン
代表取締役社長 小澤 俊文

小澤 俊文(おざわ としふみ)/1953年神奈川県生まれ。法政大学法学部卒業。1976年三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。支店長や公務法人部長などを経て、2004年参与に就任。 翌2005年に株式会社コロンバンに入社。監査役、常務を経て2006年に代表取締役社長就任。『原宿ロール』や『原宿焼きショコラ』、大学の校章入りクッキーなどの数々のヒット商品を生み出している。

本ページ内の情報は2016年12月時点のものです。

ふわふわの生地と軽やかなクリームが絶妙な『原宿ロール』、お土産の定番『原宿焼きショコラ』などが有名な株式会社コロンバンは、宮内庁御用達としても知られる老舗洋菓子メーカーだ。
創業は1924年。日本で正統なフランス菓子の製法による本格的洋菓子を紹介した先駆者である。現在の社長は、長年銀行員としてキャリアを積んできた小澤 俊文氏だ。課題が山積みだった同社の再建を担うべく招へいされたという小澤社長に、その裏側を伺った。

未来に活きた銀行員時代の経験

前職についてお聞かせいただけますか?

小澤 俊文:
私は元々銀行員でした。東京の大学で経済の勉強をしていましたが、当時オイルショックがあり、新卒採用が激減しました。鉄道マンに憧れていたのですが、採用枠がなく、当時採用枠があったのは銀行などの金融機関だけでした。それでも数は少なかったのですが、私は運よく内定をもらうことができ、三和銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入りました。

希望の職種ではありませんでしたが、意外と楽しかったですね。試験もたくさんあり、また実績も必要なため一生懸命努力しました。数字にあらわれるのが好きなタイプなので、向いていたのかもしれません。苦に感じることもありませんでした。

実は、銀行というのは業務内容の幅が広く、それぞれの業種のお客さんに対応するために、業界の勉強や、財務分析、法律などあらゆる勉強が必要でした。勉強は役に立つし、面白いなと感じていました。

ちょうど私が支店長になったとき、金融再編がありました。これも大きな転機で、金融庁に直接融資の状況を説明するなど、大変なこともありましたが、今考えると楽しかったですね。また再建に関する仕事も多かったため、お客様の所に伺い、一緒に帳簿を見ながら様々なプランを考えていました。

銀行員時代の部下のマネジメントでは、どのようなことを重視されていましたか?

小澤 俊文:
まず、大前提として人が育つためには、本人の意欲が大切です。根本的な意欲はあるが、それに自分でも気付いてない人と、怠惰な人を見抜くことも必要ですね。さらには、意欲の方向性も大事です。

銀行では、融資などを行っていると、自分の立場が偉いと勘違いしてしまう人も結構います。私は、金融の人間は表舞台に出てはいけないと考えており、私利私欲のための自己実現ではなく、黒子になりサポートする方向での自己実現であるべきだと思います。本来、金融機関は産業振興のためにあるので、金融機関だけが利益をあげても誰も幸せにはならないのではないでしょうか。

私は、なぜ銀行員になったのか、今どんな勉強しているかなどを新卒社員に聞き、銀行員とは何たるかを教えることに重きを置いていました。テクニカルな部分は自分でいくらでも勉強できますしね。

お金も人もない状態から再建へ

コロンバンにはどのような経緯で入社されたのですか?

小澤 俊文:
当初は、再建の目的で銀行からの出向で来ていました。そのきっかけでコロンバンに入社しました。初めて来た時は、本当にびっくりしました。会社の体をなしていなかったからです。宮内庁御用達など、文化的な遺産こそありましたが、創業者が亡くなってからは、金融関係の人間が経営を行っていました。その長期政権のうちに、売り上げが大幅に減っていたのです。

売上・店舗数など業容の縮小が起こると一時的に固定費なども下がります。それを繰り返すと表面的な利益は出ます(減収増益経営)。販売拠点が減少して行くので、商品数も減少してしまいますが、売る商品がないので、まず売り場がなくなり、人員も減り、技術者や、技術そのものもなくなってしまいます。もちろん新卒の採用も必要ありません。そうすると、一番大切な人材と組織・仕組み、物がなくなってしまうのです。まさにその状態でした。

当初、再建は非常に難しいと思いました。人もいないし、設備も老朽化していましたから。また、意欲のある人もいれば、そうでない人もいました。成長している組織では、ついていけない人が辞めていきますが、縮小傾向の組織では、優秀な人材から辞めていきます。ですが、当時の当社は、土俵の徳俵に、かろうじてつま先立ちで残っていたという感じでした。

「失敗が許されない綱渡りの状態だった」とコロンバン再建を振り返る小澤社長。

まず初めに、どのようなことに着手されたのでしょうか?

小澤 俊文:
売り場がない、新商品開発の仕組みがない、人材がいない、組織になっていない、会議になっていない、資料がない、PDCAのサイクルがないなど、できていないところを書きあげていったら、なんと300項目にも上りました。

お金も人もないので、どの順番で立て直していくかが非常に重要でした。当時の体勢でできることを考え、中長期の計画を作成しました。失敗が許されない綱渡り状態でした。技術などの無形資産は目に見えないため、その部分をPRし、信用を構築していくことに気を配りました。

弱みを強みに変える発想

計画の第一弾は、どのような内容だったのでしょうか?

小澤 俊文:
最優先課題は、売上を上げることです。そのために新しい商品を作りました。当初、売り場にお客さんが全くいませんでした。ショーケースには、ショートケーキやモンブランなど4種類しかなかったのです。前経営者の方針で、廃棄を避けるために、売れないものは作っていなかったためです。これは、場当たり的な効率化であっていろいろな商品の中から選びたいというお客さまの意向とはかけ離れたものでした。

長年、少ない種類のものしか作っていなかったため、いきなり新商品を作れと言われても、作ることすらできませんでしたね。まずは作るための発想からスタートしました。1つの商品で、いくつもの成果がでるようなものを考えたくて、そこで作ったのが『原宿ロール』でした。

当時はワッフルが看板商品で、100円程で売っていました。ワッフルはお客様からご支持を頂けた良い商品ですが、単価が安くコストが高い商品だったため、いくら売っても利益にはなりませんでした。そこで、高単価で付加価値をつけたものが『原宿ロール』です。

洋菓子は、「生」と「半生」と「焼き」の3種類があります。「生」は見た目も派手で、人を呼びますが、消費期限が当日なので、歩留まりが悪いです。本当に利益を生むのは、歩留まりの良い焼き菓子なのです。

他には、どのような商品を考案されましたか?

小澤 俊文:
大学の校章が入ったクッキー入りの缶、いわゆる「大学缶」を作りました。その売り上げは今5~6億円になります。これは、商品自体が営業してくれるため、コストをかけずに売上に貢献し、知名度も上げるという、非労働集約型ビジネスの商品です。初めは東京大学からスタートしました。入学式の記念などで、親御さん方がこぞって購入してくださいました。

お菓子屋さんは、毎日何が売れるか決まっていないフローの商売ですが、この大学缶はストック商売です。これはビジネスモデルの転換でした。弱みを強みに変換する、そのために使える道具は何かと考え、積み木を組み合わせるように考えました。

その業界にどっぷり入っていると、客観的に見えないことが多くなるため、私は部外者的な見方で客観視することを大切にしています。会議でも常に違う視点からみることを心がけています。

新しい時代に合ったコロンバンの輝きを

コロンバンの看板商品『原宿焼きショコラ』。今後は販路を更に広げていく。

今後の展望についてお聞かせください。

小澤 俊文:
当初作成した第二次中期計画で工場を作り、第三次中期計画で、今倉庫を建設しています。それにより製造を安定させ、さらに営業の人も育ってきているので、これからは、まさにアスリートのように、一挙に打って出ようと考えています。打って出るというのは、新商品を作って、新マーケットを獲得するということです。現在は『原宿焼きショコラ』を駅ナカなどで展開していますが、お店の方から、ぜひうちで売らせて下さいと言う商品をつくることが目標です。

コロンバンのイメージキャラクター『原宿みっころ』は広報宣伝隊長としてPRに飛び回る。


企業法人マーケットや駅ナカ、空ナカ、道ナカ、コンビニや量販店などでの展開を考えています。あとはサロン形式ですね。いったん縮小したのですが、また拡大したいと考えています。儲からないことでも、必要なことはやっていきたいですね。初めの、4種類のケーキだけでは売れないし、売れ残るケーキも必要ということです(ムダの効用)。

新しい時代に合った、新しいコロンバンの輝きをみせられるようにしたいですね。

人材の採用にあたっては、どのようなことを重視されていますか?

小澤 俊文:
新卒者は定期的に採用しています。中途でも良い人がいれば採用していますが、会社の文化が大切なので、その文化を共有するために、新卒の研修には最も力を入れています。全員の共通認識として、会社の考え方、理念などをまずは根付かせて、そこから製造、営業、広報などそれぞれの部門に巣立っていくイメージですね。

ビジネスで大事なのは“思い”

これからの御社には、どのような人材が必要だとお考えですか?

小澤 俊文:
自分の頭で考えることができる人です。ビジネスで大事なのは“思い”です。それを自ら発信できる人が良いですね。例え理不尽なことを言われたとしても、何が理不尽なのかを考えて行動できる人は強いと思います。中途採用も行っていますが、私は昔の会社での役職は気にしません。銀行員時代の長年の経験から、面談すればその人となりが分かるので。

基本的に潜在能力をもっている人は、必死に行動することで成果を出す事ができますが、すぐに言い訳をする人は良くないですね。まず言い訳をする前に行動することです。前向きな失敗は大いに結構です。問題から逃げずに、挑戦していくことが大切ですので。頭の良さではないでしょうね。自分でなんとかしたいという思いのある人が必要です。

また、ひとくちに製造部門といっても、資材調達や機械のメンテナンスをする人、製造計画を立てる人、品質管理などさまざまな職種があります。それぞれの専門分野に長けた人にはぜひ来て頂きたいですね。

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

小澤 俊文:
私は銀行員時代に、3回辞表を書いたことがあります。いくら一生懸命やっても、お客様の利益にならないような事に理不尽さを感じたからです。私の場合は、幸いにも良い上司に恵まれましたので、最後まで続けることができました。

家族のことも考えると、辞表を書くときは本当に悩みましたね。ですから、転職を考える方たちの気持ちはよく分かります。その方たちに言っておきたいのは、逃げで辞めてはいけないということです。

もっと大きなことを成し遂げたい、という目標があってこその転職であるべきだと思います。そして大きな目標を持った方なら、弊社はウェルカムです。

編集後記

会社の体をなしていなかったという状態から、コロンバンを再建へと導いてきた小澤社長。まだ道半ばということで、今後も躍進を遂げるコロンバンのその新たな輝きを楽しみにしたい。

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