岩塚製菓株式会社

革新的アイデアでヒット商品を連発!
米菓業界のパイオニア企業、その強さの秘密とは


岩塚製菓株式会社 代表取締役社長 槇 春夫

※本ページ内の情報は2017年2月時点のものです。

新潟県長岡市に本社を構える岩塚製菓株式会社は、『岩塚の黒豆せんべい』『味しらべ』『田舎のおかきシリーズ』など、数々のヒット商品を扱う米菓メーカーである。業界初の商品を多く生み出してきた同社の製造技術や品質管理システムは、中国・上海に拠点を置く総合食品メーカー旺旺集団(ワンワングループ)との技術提携によって、海外にも波及している。国産米100%使用という原材料への強いこだわりと、類まれな加工技術で業界に新たな旋風を巻き起こしてきた同社代表取締役社長、槇春夫氏に、ヒット商品開発の裏側や生産性向上に繋がる取り組みについて話を伺った。

槇 春夫(まき はるお)/富山大学経済学部卒。大手スーパーに勤務した後、1976年岩塚製菓株式会社に入社。83年、同社取締役営業本部長に就任。以降、数々の要職を歴任し、98年に代表取締役社長に就任。現在、子会社である株式会社新潟味のれん本舗取締役、株式会社越後抄取締役、株式会社瑞花取締役、里山元気ファーム株式会社取締役及び、株式会社田辺菓子舗代表取締役の他、旺旺・ジャパン株式会社取締役、株式会社紀文社外監査役を兼任している。

低迷期を脱した大きな転換点

岩塚製菓の飯塚工場(新潟県長岡市)

―社長のご経歴についてお聞かせ頂けますか?

槇 春夫:
流通に興味があった私は、富山大学の経済学部に入学し、売薬のシステムを専門としている教授に師事し、様々な形態の流通システムについて学びました。卒業後は大手スーパーに就職し、大学で学んだ知識を活かし、輸入品を流通加工し店舗に出荷する管理業務に従事しました。非常にやりがいのある仕事でしたね。その後大手スーパーを退職し、昭和51年、岩塚製菓に入社しました。昭和58年に取締役営業本部長に就任した後、製造や管理の責任者を務め、平成10年に社長に就任し、現在に至ります。


―入社されたときの御社の経営状況は、どのような状態だったのでしょうか?

槇 春夫:
私が入社した当時、弊社の売上高は40億円くらいでしたが、昭和53年に『味しらべ』が発売され爆発的にヒットし、売上高が一気に80億円くらいにまで跳ね上がりました。しかしその後、一時売上が伸び悩む時期がありました。それを打破するために、昭和62年に「NPS研究会」という、トヨタ生産方式の源流を他業種に普及させるために設立された研究会に入り、それと同時に、販売から製造、物流に至る弊社独自の仕組み「IPS方式(岩塚プロダクションシステム)」を構築し、生産性を見直しました。そこが大きな転換点となり、再び売上高が伸びるようになっていったのです。

業界初への挑戦が生んだヒット商品

―御社は業界初の商品を多く開発されていらっしゃいますが、具体例をお聞かせ頂けますか?

槇 春夫:
弊社は米菓業界の中でパイオニア的存在だと言えます。「他社の真似はしたくない」という気風が社内にはあり、試行錯誤しながらも様々な手法を考案してきました。昭和41年に発売した『岩塚のお子様せんべい』もその1つです。せんべいと言えば固いものというイメージが一般的であったにも関わらず、赤ちゃんも食べられるやわらかいせんべいを作る技術を開発したのです。もちろん、業界初のことでした。その後、競合他社が次々に追随して子ども用のせんべいを発売しましたが、それまでやわらかいせんべいを作る技術は他社にはなく、まさに弊社が先陣を切った形でした。

また、弊社の子会社である株式会社新潟味のれん本舗で販売している『マカダミアナッツおかき』には、餅を柔らかい状態で切る「水切り製法」が使われています。従前よりこの製法は手作業でしかできないと言われていましたが、弊社では自動化することに成功しました。この「水切りライン」は、競合他社も真似することができていません。また、弊社の主力商品である『味しらべ』も、当初はそのまま大袋に入れて販売していましたが、1つ1つ個包装にすることで爆発的なヒット商品になりました。今では当たり前になっている個包装も、当時は手間も経費もかかるということで、ほとんど考えられなかった手法でした。加えて、味付けも粉末醤油をミックスさせて、今までにない味を出すなど、既成概念を覆す試みが功を奏し、大ヒットに結びついたのです。

ロングセラーは品質に宿る

―御社の商品は原料を厳選されていらっしゃるということですが、どのようなこだわりを持って製造されているのでしょうか?

槇 春夫:
弊社の創業者の言葉で「農産物の加工品は原料より良いものはできない」という言葉があります。ですから、弊社では厳選した原料を使用しています。例えば、コスト面では国産米よりも輸入米の方が低価格ですが、米の香りは国産米でないと出せません。ですので、多少高くても弊社の米菓は国産米を100%使用しております。また、『大袖振豆もち』で使われている大豆は、北海道の帯広にある音更町でしか取れない手間暇かけて作られた貴重な大豆です。輸入大豆の約3倍の値段がしますが、それでも製品に必要な柔らかさと甘味を出すためには欠かせない材料です。

原料の良さを活かすためには、加工技術も重要です。その1つの例として、『新潟ぬれおかき』の製造工程に見られる工夫が挙げられます。数年前にかなり勢いがあったぬれおかきの市場ですが、現在ではほぼ弊社しか残っていません。ぬれおかきの味付けをする際には、甘辛い醤油を染み込ませていく工程があるのですが、当社独自の方法を模索しました。結果的に、ぬれおかきの分野で弊社の商品が生き残ることができたのです。

こうしたこだわりは、必ずお客様に伝わるものです。長く売れる商品は、その商品が「良いもの」だからに他なりません。それを作るためには、原料・加工技術ともに米菓本来のおいしさを追求する姿勢が必要なのだと思います。

在庫を持たない生産方式への転換

岩塚製菓での新人研修の様子。

―NSP研究会に所属され、御社独自のIPSというシステムを構築した背景や、その効果についてお聞かせください。

槇 春夫:
先述したように、『味しらべ』が発売されてヒットを飛ばした後、売上が2倍になり80億円程になりましたが、その後一時期、売上高が伸び悩んだ時期がありました。その状況を打破するために、弊社はNPS研究会に入会したのです。そして、ほぼ同時にIPS方式を構築し、生産方式を大きく転換しました。IPS方式とは、お客様に「できたての米菓」をお届けするため弊社が独自に進めてきた、販売から製造・物流までの仕組みです。

売上高が伸び悩んだ一因は、見込み生産にありました。売上高80億円の時に、約7億~10億円の棚卸資産を持っていたのです。そこで、販売・製造・物流の各部門との連携により需要の動向を細かく把握し、ラインの構造も見直すことによって、受注生産に近い形態に変えました。在庫をほぼ持たず、更には鮮度が高い商品をお客様にお届けすることができるようになったのです。そうした改善が功を奏し、売上の伸び率は回復し、平成元年に売上高100億円に到達しました。必要な量だけを作り、鮮度のよい状態で商品を提供できるというのは、現在でも競合他社と差別化する上で一番の強みになると考えています。

IPS方式で重要になるのは、“情報”と“人”です。このシステムを正しく動かすには、速やかな情報伝達と、社員1人ひとりが情報の重要性を理解することが肝要になります。そのため、電算部門を中心とし、販売・製造・物流を結ぶネットワークを構築しました。それによって、作業の効率化や平準化、スピードアップが可能となり、職場環境の快適化にも繋がっています。

また、NPS研究会では他業種のラインなどを参考にする機会もあり非常に刺激を受けます。弊社では、ラインの不良を何パーセント減らそうかといった改善点について、月に1回の改善研究会を実施しています。改善点を自ら考えることで、仕事に対してより積極的に取り組むようになり、自分たちのラインで「良いものを造ろう」という意識も高まります。若手の社員たちは全員、この研究会で勉強し、成長していきます。

地域に根差した社会貢献活動

―社会貢献などについて、どのような活動をされているかお話し頂けますか?

槇 春夫:
もともと、出稼ぎに行かなくて済むようにと岩塚村(現:長岡市)の地で創業したのが弊社の始まりです。その精神は今でも受け継がれておりまして、現在でも、地元の高校の卒業生が多く活躍しています。

2004年の中越地震で弊社が被災した際には、お客様の声に大変励まされました。だからこそ、東日本大震災が起きた際、震災を経験した弊社として何ができるのかを考え「明日へつなごうプロジェクト」を立ち上げました。義援金を寄付させて頂いた他、社員自らの発案で、ボランティアとして、せんべいを積んで南相馬市の小学校に持っていったこともありました。当時、南相馬市からのご依頼もあって、なかなか外で遊べない子どもたちのために、「おせんべいができるまで」の出張講座を小学校で開くこともしました。熊本地震の復興支援では、熊本産の新米を5割使用した『田舎のおかきシリーズ』を発売するなど、様々な方法で支援に繋がる活動をさせて頂いております。

そのほか、品川女子学院さんとのコラボレーションで商品開発をし、若い世代へ米菓の魅力を伝えたたり、食育の一環として田植えや稲刈りを子どもたちが体験できるイベントを開催したりしております。

求める人物像

―御社が求める人材についてのご意見をお聞かせください。

槇 春夫:
求める人物像としては、志を持ったコミュニケーション能力の高い人ですね。1人のリーダーが職場を引っ張っていくというスタイルから、今後はチームで連携してプロジェクトを完遂していくという形に変わっていきます。特に、我々食品を扱う企業は、異物混入などの商品事故と隣り合わせです。だからこそ、互いに注意しながら仕事をしていくためにも、「チームで作る」という意識を持つことが大切です。

他にも、弊社は中国・上海に拠点を置く旺旺グループと技術提携を結んでいます。今後、海外企業と仕事をする上で、国際的視野に富んだ人材も必要となってくると考えています。

編集後記

独自の製法や原料にこだわりを持ち、地域貢献にも積極的な実直さを持つ岩塚製菓株式会社。原料本来の味や香りにこだわった同社の米菓のおいしさを、世界に向けて発信していくことは、国内米菓市場の更なる発展に繋がる可能性もあると感じた。

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