
ライフスタイルの変化や価格高騰による消費者の節約志向により、食品業界は利益獲得に苦戦している。そんな中、海外製食品の自社輸入や、「バジルシードドリンク」など、独創性のある自社製品の開発を行っているのが、株式会社アシストバルールである。余剰在庫販売業からの事業転換で、世界中から買い付けた食品を商品開発し、プライベートブランドとして卸売までを一貫して手がける食品総合商社となった同社。従業員20名で売上高50億円という驚異的な生産性で急成長を遂げ、当初の計画を上回るペースでさらなる飛躍を目指す同社の代表取締役、松原靖雄氏にこれまでの歩みや未来への展望を聞いた。
初めて夢中になれるものを見つけ、会社を起業
ーーまずは、松原社長のこれまでのご経歴についてお聞かせください。
松原靖雄:
大学を卒業して大手商社に入社し、食品部門で営業をしていました。当時の上司からは「相手と駆け引きしようと思うな。とにかく明るく素直でいること、すぐ行動に移すことが一番だ」と教わりました。私は口が達者なやり手の営業マンというわけではありませんでしたが、とにかくお客様の話を聞くことを意識していました。
すると20人ぐらいいた同期の中で、トップの営業成績を収められたのです。大学では留年するほど勉学に励まず、努力をしない人間だったのですが、営業の仕事はとにかく楽しくて、初めて夢中になれるものを見つけられたことが嬉しかったですね。
ーーそこから起業をされたきっかけは何だったのでしょうか。
松原靖雄:
私自身、もともと会社を起業したいと思っていたわけではありません。得意先の方から「君は商売の才能がある。そんなに営業が好きなら独立したらどうだ」と勧めていただいたのです。その言葉に背中を押され、27歳のときに弊社の前身となる「総合食品卸マツバラ」を創業しました。
正直、身近に商売をしている人もいなかったですし、経営や経理の知識もないのに大丈夫かと不安はありました。けれど、冷静に考え、「会社の収支をきちんと把握し、赤字さえ出さなければ事業は成り立つはずだ」と思い直しました。今振り返ってみると素人考えではありますが、物事をシンプルに捉えられたのはよかったと思います。
創業当初は、前職での経験をもとに余剰在庫の販売から始めました。処分品をディスカウント価格で買い取り、利益分を少し上乗せして販売していたのです。前職で得た情報網を駆使してなるべく安く仕入れられる業者を探し、少しでも多く利益をあげられるよう工夫していました。
ーー創業時に苦労されたことなどはありましたか。
松原靖雄:
当時は人を信用することしか知らなかったので、来るもの拒まずというスタンスで取引をしていました。大きなトラブルもなくやって来られたのは、人に恵まれていたからでしょうね。
また、その後のリーマン・ショックなど経済環境の変化が起きたときも、あまり苦労とは感じませんでした。世の中の動きを予測するのは難しいですし、弊社で扱っている食品は日常的に消費されるものなので、変化が起きるのは当たり前だと思っています。収入が減ったら支出を減らせばいいだけのことですし、個人的には売上高が下がったとしても「また明日から頑張ればいいや」と前向きに考えています。
輸入商品の販売と自社製品の開発へ事業転換した理由

ーー初期の事業モデルから今に至るまで、どのような変遷を辿られたのでしょうか。
松原靖雄:
事業を続ける中で、余剰在庫の販売は、商品が余らなかったら売るものが無いという「不安定さ」が怖いと思っていました。そこで、13年ほど前から徐々に海外商品の自社輸入にシフトしていき、自社製品の開発にも取り組み始めました。自社製品をつくり始めたきっかけは、子どもとスーパーに行ったときに、在庫品として販売していた他社の商品を「お父さんが売っている商品だよ」と堂々と言えないもどかしさを感じたことです。それから、自社の名前が書かれた商品が店頭に並べられたときは、誇らしい気分になりましたね。
現在は、生鮮食品以外の瓶詰、缶詰、ジュースやオリーブオイルなどを海外から輸入し、海外メーカーの代理店として、大手量販店などに販売していく形が基本です。それに加えて、取引先のニーズをヒアリングし、共同で考えながら自社製品を製造する取り組みも行っています。新しい商品を見つける際には、営業担当者からもらうヒントを参考にすることもあります。以前は、感性で商品を選定することもありましたが、今では探し方も多様化しています。商品を仕入れるために、年間15回ほどは海外の展示会に足を運んでおり、常に世界中を走り回っている状態です。
ーー事業転換をされてからはどのような変化があったのでしょうか。
松原靖雄:
余剰在庫販売をしていたときもビジネスとしては成立していたものの、どうしても仕入れ先の状況に振り回され、将来のビジョンが見えない状態でした。しかし、自分たちで商品を取り扱うようになってからは、仕入れる量を調整したりラインナップを変更したりと、自由に販売戦略を立てられるようになりました。事業転換前は社員が30名で売上高が13億円だったのですが、直近では従業員20名規模で売上高50億円にまで成長を遂げています。
既存の取引先との関係を深める方程式
ーーここまで売上高が伸びた主な要因は何だと思われますか。
松原靖雄:
食品関連は保守的な業界なので、大阪市内にビルを持っていて、30年以上に渡ってさまざまな企業と取引があるという理由で信用を得られたことが大きいと思いますね。ここ数年で全国展開している大手スーパーにも認知されるようになり、販売する商品を選びに海外出張に行くときも同行してくれています。自社工場を持っている企業と関係を構築できれば、自分たちで工場を持つ必要もないので、こうした太いパイプを持っておくのは重要です。現地の工場に直接足を運んでまでチェックしているところは決して多くはないはずです。
ーー貴社が大きな成果を出し続けている秘訣はどこにあるとお考えですか。
松原靖雄:
少数精鋭の体制で運営していることが大きな理由です。現在、弊社は営業が8名、貿易部が5名、管理部門が7名という体制を取っています。1回のお取引で動くロット数が小規模な場合も大規模な場合も、社内でかかる手配の手間やリソースは変わりません。それならば、全国展開されている売上高何千億円規模の大手企業との関係構築に注力し、深いパートナーシップを築くことが最も理にかなっているのです。そのため新規開拓についても、お互いに最大の相乗効果を生み出せるよう、体制や事業規模などを慎重に確認しています。
人をむやみに増やして事業を拡大するのではなく、現在のやり方を大切にし、既存のお取引先とのパイプをより太くしていく構造的な取り組みに注力しています。たとえば、売上高数千億円規模の量販店様であれば、現在の1億円の取引を2億円に拡大したとしても、その取引額は全体の数字から見れば、決して大きな割合ではないかもしれません。しかし、弊社にとっては非常に大きなインパクトがあります。奇をてらった必殺技に頼るのではなく、こうした地道な深耕こそが、着実な増収を図るための方程式なのです。
ーー既存の取引先との関係を深めるため、具体的にどのような強みを発揮されているのでしょうか。
松原靖雄:
単なる価格の提示にとどまらず、商品の売れ行き動向や他社での成功事例を含め、プラスアルファの情報を提供して信頼を築いています。事前に様々なアイデアを一緒に考えておき、「じゃあこれに取り組みましょう」といったように、お互いの状況を踏まえた商売が増えてきています。当時から思い描いていた方向性が、お客様との関係が特別深くなったことで具現化されつつあります。こうした取り組みができているのは特定の5社ほどですが、現在は多くの量販店様とお取引の口座を持っているので、同じことを丁寧に展開していけば、さらに事業を拡大していけるはずです。
また、お客様の要望に対する機動力も弊社の大きな武器です。以前、東京の大手量販店からご要望をいただいた際、1週間後にはマレーシアの工場へ向かい、現地で即座に商談を行いました。この圧倒的なスピード感とすぐに行動へ移す力は、真摯で実直な弊社のカルチャーそのものです。
社員の自律を促す組織づくりと高い生産性

ーー成果を出し続けるために、組織づくりで意識していることは何ですか。
松原靖雄:
社員が自ら考え、それぞれの役割を果たす「任せる経営」を徹底していることです。私は売上高や利益などの大きな目標と大枠のビジョンだけを伝え、具体的なやり方には一切口出ししません。事細かに指示を出すよりも、あえてイメージなど曖昧なことしか伝えないようにしています。受け手である社員たちは自分の頭で考える能力が非常に高いため、それぞれが自身の役割を深く理解し、自発的に戦ってくれているのです。
そもそも、私は決してスーパーマンではありません。英語は話せませんし、実際の営業スキルに関しても、弊社の専務や業務担当者の方がはるかに高い能力を持っています。だからこそ、自分より上手なプロフェッショナルに完全に任せ、「失敗してもいいから挑戦してほしい」と伝えているのです。
彼らに現場を任せきれるのは、ブレない考え方を社内で共有しているからです。社員は個人の価値観ではなく、事実に基づく原理原則を重視して行動してくれています。無駄に議論を戦わせるよりも事実のみを述べることを大切にしており、その原理原則を日々の業務で現実化し、再現化できる社員たちの力は本当に素晴らしいと感じています。皆がのびのびと能力を発揮できる環境こそが、弊社の強みですね。
ーー営業部門において、生産性を高めるための工夫は何かあるのでしょうか。
松原靖雄:
営業の結果を明確にするために「一日決算」を導入し、その日の利益を正確に把握しています。そのため、社員の数字に対する意識は非常に高く、常に生産性を意識して動いてくれています。
数字に対する意識が高いといっても、社内が殺伐としているわけではありません。社内にマニュアルのようなものは一切なく、法律とマナーさえ守れば、具体的な手法はすべて各自に任せています。
また、効率よく利益を稼ぐことに集中し、残業も推奨していないため、18時には全員が退社するメリハリのある働き方を実現しています。こうした環境下では、若手社員も早い段階から数字を扱う感覚を磨いており、ときには経験豊富な中途採用者を凌ぐほどの目覚ましい成長を見せてくれています。
学び直しのため大学へ再入学
ーー大学に再入学されたとのことですが、どのような経緯があったのですか。
松原靖雄:
それまで我流で商売をしてきたので「経営について体系的に学びたいな」と思い、40歳のときに京都大学のMBAスクールに入りました。そこで学んだ後、2016年から数年前までは、芦屋大学の経営教育学部で特任教授として教鞭をとる機会もいただきました。中小企業論などの講義を担当し、これまでの経験をもとに、中小企業の社員は専門領域に特化するのではなく「何でもできるスーパーマンでないといけない」と、学生たちに教えてきました。
ーーこれまでの経験で培われた営業のコツなどがあればお教えいただけますか。
松原靖雄:
格闘技の必殺技のように「殺し文句」を繰り出して商品を売り込もうとするのではなく、お客様の代わりに店舗に並べる商品を選ぶくらいの気持ちでいた方がいいのではないでしょうか。これまでの営業マンは話上手で一方的にしゃべるイメージだったと思いますが、今は相手の話を聞ける積極的な受け身の姿勢が重要です。営業マンは専門知識を持ったスペシャリストではなく、幅広い知識を持っていて柔軟な対応ができるゼネラリストであるべきだと思いますね。
次世代へ引き継ぐ脱カリスマ経営と今後の展望
ーー貴社の今後の目標についてお聞かせください。
松原靖雄:
当初は「5年後に売上高100億円」という目標を掲げていましたが、現在の順調な推移を考慮すると、うまくいけば3年後には達成可能であると見込んでいます。人を増やして拡大を狙うのではなく、現在の少数精鋭体制のまま、販売ボリュームがある高品質なオーガニック食品などを豊富に取りそろえ、食品商社としてさらに規模を拡大していきたいと考えています。
また、100億円企業へのステップアップに向けた通過点として、国の「100億宣言」(※)への登録も視野に入れ、組織としてもう一回り大きな事業展開を目指しています。単なる規模の拡大ではなく、会社として一段上のステージに立つことを対外的に明言し、さらなる成長を加速させていく方針です。
(※)「100億宣言」:中小企業が売上高100億円という目標を自ら設定し、実現に向けた取り組み内容を公表するもの。
ーー最後に、会社として今後どのように成長していきたいですか。
松原靖雄:
一人ひとりが自由な発想を持ち、自分の意志で動ける自律した組織にしていきたいですね。私たちの仲間になってくれる人には、上からの指示を待つのではなく、自分の頭で考えられる自立した人になってほしいと期待しています。語学が堪能で少し社会人経験がある若手など、バイタリティーあふれる人材を迎え、人と会社の相性を大切にしながら、私個人の力に頼らない持続的な企業成長を目指しています。
そのためには、私が陣頭指揮を執るワンマン体制ではなく、貿易の担当や販売の専務をはじめ、各部署のプロフェッショナルが連携するチームプレーが不可欠です。私は社長個人の力に依存するカリスマ的な経営は好みません。私自身は70歳ごろまで働くかもしれませんが、3年から5年先を見据えて円滑な事業承継を行い、組織を若返らせることこそが弊社の信用向上や未来の成長につながると考えています。すでに社内にはすぐに行動できる優秀な後継者が育っておりますので、今後は20代や30代の世代が中心となって組織を力強く牽引していく、盤石な企業であり続けたいですね。
編集後記
「学生時代は何に対してもやる気がなかった」と語る松原氏。しかし、社会人になってから営業の楽しさに目覚め、相手が何を望んでいるかを汲み取り、即行動に移すことで多くの人々の信用を得てきた。「任せる経営」で社員の自律を促し、圧倒的なスピード感で事業を牽引する。次代を担う優秀な後継者も育ち、盤石な体制を築きつつある同社の「売上高100億円達成」に向けたさらなる飛躍が楽しみだ。

松原靖雄/1989年に関西大学商学部を卒業後、大手商社で食品部門の営業を務める。1992年、27歳のときに独立し、総合食品卸マツバラを創業。個人商店でありながら、2年目にして売上高7億円を達成する。1994年に事業拡大を見据えて株式会社アシストバルール設立。現在は「アシバルブランド」を展開し、自社輸入品を主として販売している。2025年9月期、社員数20名で売上高50億円を達成。京都大学経営管理大学院修了(MBAホルダー)。元芦屋大学経営教育学部特任教授(2016~2021年)。