東京の木を東京で使う、地産地消を進めるブランド「TOKYO WOOD」を推し進めているのが株式会社小嶋工務店だ。多摩地域の林業者や製材所などと一体となって活動している。
国土交通省の長期優良住宅先導事業に採択されるなど、順調に歩んできたように見えるが、小嶋智明氏が代表を引き継いだときは、苦しい経営状況だったと話す。
今回は代表の小嶋智明氏に、経営状況を改善した方法や、今後の展望について話を聞いた。
最初は社長就任を断った
ーー社長に就任するまでの流れを教えてください。
小嶋智明:
弊社は、私の父が新潟県から上京して1965年に創業しました。法人化したのは1968年です。しかし、バブルがはじけたときや、リーマンショックのときに倒産寸前になるなど、決して順調な経営ではありませんでした。
私が社長に就任したのは、リーマンショック直後の2009年です。父がリタイヤするタイミングで社長就任を打診されました。その時には外部資本も入っていたのですが、かなり借金があったので「嫌です、やりたくありません」と、最初は断りました。
ただ、複数の条件を提示した上で、最終的には社長に就任することになったのです。
社長就任後ディティールにこだわり、長期優良住宅先導事業に採択された
ーー社長就任後は、どのような部分を変えたのでしょうか。
小嶋智明:
社長就任後は家づくりのディティールにこだわり、強みにできる部分を書き出しました。そして、書き出した強みを実現するためにビス1本にまでこだわり、作り込みました。今ではすべての家づくり、部材に根拠があります。
さらに、すべての部材の違いを、社員がお客さんに詳しく説明できるようになりました。同時に1年に1つは賞をとって、小嶋工務店ブランドの評価を上げていく取り組みをしました。
その甲斐もあり、国土交通省の長期優良住宅先導事業に採択されたり、東京都で初めて長寿命住宅システムの認定を受けたりなど、成果を得られました。
これらの取り組みの過程で社員にも自信がつき、キャリアを積めたと思います。
ーー社内の人間関係はどのような状況でしたか。
小嶋智明:
私が社長に就任した当時は、営業・設計・建設の関係性があまりよくありませんでした。そこで、部門の垣根を越えたプロジェクトチームを作りました。話し合える場を作ったことで、意思疎通ができるようになりました。
ーー集客面では、何か変化はありましたか。
小嶋智明:
成約したお客様の入口は、昔は展示場への来場が70%ほどだったのが、今は30%ほどの感覚です。ネットを中心とした集客に変わってきていて、昔のようにはいきません。
しかし、ネットで情報を集めてから展示場を見る方も多いため、展示場もゼロにはできません。実際に展示場で無垢材に触れて感動してくださる方もいます。来店のきっかけとしては間違いなくネットからの流入が増えています。
弊社は、コロナやウッドショックで厳しい会社もある中、動画やInstagramなどSNSでのプロモーションに取り組んだこともあり、順調に成長しています。
そして、今も昔も一番大切なのは信用と信頼です。先ほどお話した取り組みにより、「いい建物を作る会社」と言ってもらえるようになりました。
東京の木を東京で使う。地産地消を進めるブランド「TOKYO WOOD」
ーーTOKYO WOODについて教えて下さい。
小嶋智明:
TOKYO WOODは、多摩地域の森林を使用したブランドです。東京都は、実はとても森林が多いのです。特に森林が多い多摩地域の木を都内の住宅に使うことで、地産地消を実現することができます。これは、都内の工務店だからこそできることだと思います。
お客様からも、ヒノキの香りがいいと好評です。また、同時に植林を進めることで、循環型林業も進めていきます。このような取り組みを通じて、地元に愛される会社になれれば嬉しいなと考えています。
継承するだけでなく進化させていく人を見てみたい
ーー今後の課題はどのようなことがありますか。
小嶋智明:
入社から5年以内の社員が増えたことで、経営状況が苦しかったときの思いを知らない社員が多くなっています。
そうすると経営状況が良くなってから入ってきた社員と、苦しい状況から積み上げてきた社員とで、意識の差が出てきました。
新しい社員でスキルの高い人もいますが、やはり会社に対する愛をもっと持ってもらえるように頑張っていきたい。会社を好きになってほしいと思っています。そこを合わせなければなりません。
ーー最後に若い人たちにメッセージをお願いします。
小嶋智明:
私たちが20代のときよりも、今の20代の方がはるかに頭が良いと感じています。スキルも全然違います。私が25年かけてやってきたことを、彼らはもっと早い段階でできるはずです。
これからの厳しい時代で、自分の考えをもって行動していく人材は貴重だと感じています。継承するだけでなく進化させていく人、我々が考えたアイディアの上をいく人を見てみたいです。そういう方にはぜひ入社してほしいと思っています。
編集後記
小嶋智明氏が代表を受け継いでから、細部までこだわり、第三者の評価を得ることで経営状況を大きく改善した小嶋工務店。
東京の木を東京で使うという、地元の工務店だからこそ可能な戦略で成長を続けていく。地産地消を進めるブランド「TOKYO WOOD」の今後に期待したい。
小嶋智明(こじま・ともあき)/2009年、株式会社小嶋工務店の社長に就任。ビス1本にまで「なぜその部材なのか」と根拠を持つなど、ディティールに徹底的にこだわることで品質を向上し、債務超過だった経営を改善する。また、多摩地域の林業者や製材所と協力して東京の木を東京で使う、地産地消を進めるブランド「TOKYO WOOD」を推し進めている。