2012年10月に創業した株式会社スイッチメディアは、 テレビなどのメディアリサーチを通して国内最大級のテレビ視聴データを取り扱う企業マーケティングの強い味方だ。
2021年4月、代表取締役社長に就任した高山俊治氏は、セオリーが存在しない業界に飛び込んだ勇気ある人物。これまでの歩みと企業の今後について話をうかがった。
コンサルタントから全盛インターネット企業への転職
ーーまずは、社長のご経歴についてお話いただければと思います。
高山俊治:
新卒で外資系のコンサルティング会社へ入社して、事業戦略コンサルタントとして働き始めました。9年ほど勤めたのちグリー株式会社に転職し、Webプラットフォームの責任者や、分析チームの立ち上げ責任者、新規事業の立ち上げ責任者を務めました。その後マーケティング部門の責任者となり、テレビCMの出稿にも携わったことで、今につながる経験をしました。
広告媒体の中でも、テレビ広告は非常にブラックボックスの部分が大きいことを知りました。ゲームはビッグデータの解析ができますが、テレビは視聴仮説をもとに分析するため実際のログデータではありません。確実に効率を上げるのが難しい領域だったので、むしろビジネスチャンスがあると思い、弊社でその課題へのアプローチを始めました。
ビジネス上の意思決定に対する広告の影響を探る
ーー広告の影響について、いつ頃から課題を感じていらっしゃったのでしょうか。
高山俊治:
コンサルタント時代から改善の余地を感じていました。大企業のお客様のほとんどがテレビCMに年間数十億円をかける中で、効果の不透明さをなんとか解決したかったのです。
100年ほど前から、ジョン・ワナメーカーというアメリカの百貨店王が言った「広告費の半分が金の無駄使い」という説があります。どちらの半分が無駄なのかわからないままでしたが、ここ15〜20年ぐらいで解決されてきたものがWeb広告です。
テレビ・Web・屋外に広告をざっくり分けると、Webはユーザーの閲覧サイトなどからターゲティングが可能です。「意味がある広告」と「意味がない広告」をデータで識別しやすくなっています。
テレビ広告とWeb広告:規模の限界
ーーあえてテレビ広告の分析に注目した理由があればお聞かせください。
高山俊治:
Web広告は基本的に特定のターゲットにしか表示されないため、テレビCMのように予算をかけてもリーチが広がらないのです。
私の経験ですが、月2,000万円のWeb広告を継続的に出稿していたゲームの月間売上は4,000~5,000万円でした。それ以上広告を出しても単価があがってしまいROIが合わなくなるため、Web広告での売上成長に限界を感じていました。
その後、テレビで2億円規模のCMを打ち、売上が4,000万から4億円に上がりました。Web広告よりはるかにリーチ数の多い「テレビ広告は無駄じゃない」ということを解明し、自信を持ってクライアントに広告費を使っていただきたいと考えています。
ーーテレビ・Web広告によるリーチの最大化も想定されているのでしょうか。
高山俊治:
「テレビで見たことがあるからWeb広告もクリックしやすい」という人は多いため、テレビ×デジタル広告の相乗効果を意識し、最大効率になるよう配分を考えていきたいと思います。
「YouTube」「TVer」「FOD」といったネットメディアだけを見ている人にデジタル広告を当てにいくパターンにおいても、やはりWeb上のデータだけでは全体の最適化ができません。トータルバランスを見て広告戦略の意思決定ができることこそ理想です。
テレビ広告の効果分析~視聴率との関係~
ーーテレビの場合、どういった手法で「CMを見た・見ていない」と区別するのでしょうか。
高山俊治:
弊社では、全国で約2万4千名のテレビ視聴者に調査モニターとして協力していただき、年代などの属性を事前に収集しています。
商品を購入したかどうかのデータも属性データとして連携していますから、売上効果の可視化も可能です。もちろん広告を見ていない購入者もいますから、専門のデータ会社と連携してモデリングしています。
ーー今までテレビCMの広告効果が解析されなかった理由はあるのでしょうか。
高山俊治:
モニター調査の基盤を構築するだけでも数億円の初期投資が必要になります。広告出稿主が自ら調査することは現実的ではないですし
放送局向けにデータは提供されてきましたが「15歳刻みの男・女」というようにマーケティングに使えるような細かいデータではありません。
CM枠を購入する際に広告主は過去の視聴率データを見ながらプランを立てますが、実際の視聴率には相違が生まれます。Web業界では「ROAS」という獲得ユーザーのお金の流れを示す指標があり、実績が良かったのか悪かったのかが分かりやすくなっています。テレビ広告においてもPDCAを回すための共通の指標、運用プロセスを提供できるようにするのが弊社の目標です。
企業としての未来、これからのテレビが持つ可能性
ーー企業として、今後の注力テーマについてお聞かせください。
高山俊治:
我々のお客様は、テレビCMを出稿されている企業様、またはこれからCMを出稿される企業様が中心となります。ただし必ずしもテレビCMを増やす場合だけでなく、効率化してテレビの費用を減らして別のメディアの広告費を増やしたい、というケースでのご支援も増えています。
広告会社さんやテレビ放送局さんとも連携しつつ、Web広告のデータなど、 テレビ以外のデータを保有されているパートナー企業さんと協力して、テレビのデータと連携させることで事業成果を伸ばすことに貢献していきたいです。
ーー近年はテレビを見る人が減少しているとされていますが、どのようにお考えでしょうか。
高山俊治:
実はテレビCMの市場規模としては過去10年間でほとんど変わっていません。
アメリカではむしろテレビの評価が上がっていると聞いています。データ分析と共に、テレビCMのリーチ効率の良さがより明らかになっていくことでしょう。
ーー貴社では、今後どのような人材の活躍を期待されていますか。
高山俊治:
広告という領域はユーザー側のイメージを持ちづらいプロダクトではありますが、経営全体に関わる課題がある業界です。
お客様以上に改善策をひたすら考える「クライアントファースト」は、私がコンサルタントだった時の心持ちにも近いものがあります。お客様が抱える問題を解決することに喜びを見出せる方が適任ですね。
編集後記
世間一般的には、未来が明るくないといわれているテレビ業界。テレビCMが持つ可能性をまだ知らない経営層や、ビジネスチャンスに興味を抱いた若き人材は少なくないだろう。コンサルティング出身の高山社長だからこそ、「クライアントファースト」という言葉に嘘のない熱意を感じられたインタビューとなった。
高山俊治(たかやま・しゅんじ)/大阪大学大学院修了後、外資系コンサルティング会社に入社。戦略コンサルタントとして9年間従事し、事業戦略、新規事業立上げ等をプロジェクトマネージャーとして推進。2012年グリー株式会社に入社し、プラットフォーム部長、アナリシス部長、マーケティング部長等を歴任。その後、事業部長として社内新規事業の立上げを経験。2020年株式会社スイッチメディアに入社。2021年4月より現職に就任。