今や飲食店やアプリ、サービスなど、あらゆるものがクチコミやレビューにより数値化され、何かを選ぶときの指標の1つとなっている。一方で、「サクラ」や課金システムで評価の数値を上げるサービスや会社も出ており、何を取捨選択するか、情報精査を求められることも多くなった。
オープンワーク株式会社が運営する情報プラットフォーム「OpenWork」は、実際に働いた経験のある「社員・元社員」による国内最大級の社員クチコミ数と評価スコアを公開。企業の労働環境をよりオープンにし、ジョブマーケットの透明性を高めることをミッションに掲げる。
正に現代の理にかなったシステムで近年急激に成長している。
「自ら社会を変える」という強い信念を持つ代表取締役社長の大澤陽樹氏に話をうかがった。
社会を変えるため、全ての内定を断った
ーー転職を経て社長に就任されたとうかがっていますが、社長就任までの経緯を教えてください。
大澤陽樹:
大学時代にイギリスに交換留学する中で、社会学と工学、環境学について学ぶ必要性を感じ、日本でも都市計画学を専門としている教授に指導を仰ぐため、大学卒業後は東京大学大学院に進学したのです。
大学院での研究はとても楽しいものではありましたが、結局、人が動かないと街が変わらない、戦略は描けても実行されなければ絵に描いた餅になってしまうことを度々経験して、「社会を変える手触り感を得たい」という思いがありました。
そんな思いで就職活動をしていた中、「どんなに優れた戦略を描いても実行されなければ意味がない」という自分が考えていたことを同じように唱えていた、経営コンサルティング会社のリンクアンドモチベーションに出会い、当時もらっていた内定をすべて断って同社に応募し、内定をいただきました。
その後、社会人10年目になり、自分で起業するかキャリアを悩んでいるタイミングでリンクアンドモチベーションがオープンワーク(当時のVorkers)に出資することが決まり、同時に出資条件の1つであったオープンワークへの出向が決まりました。
出向先のオープンワークで新規事業の立ち上げに携わるなかで、「働く人の声をオープンにして企業と労働者の関係を対等な社会にする」というミッションに共感するようになりました。また、当時のオープンワークは、20人程度の社員で何百万人ものユーザーが使うプロダクトを作っていました。こういったビジネスモデルに、社会を変えるとてつもない可能性を感じ、リンクアンドモチベーション社を退職してオープンワークに入社しました。
2019年末ごろに一度、創業者から社長就任の打診をいただきましたが、僕自身がその創業者のビジョンやプロダクトセンスに惹かれ、この方の下で働きたいと思って入社したこともあり、この時はお断りしました。
その後、再度打診いただいた際に、創業者が会長として残るという条件を提示いただき、大任を引き受けることにしました。
数百億、数千億の可能性を秘めた事業
ーー貴社の強みを教えてください。
大澤陽樹:
「オープンワークは大きく二つの事業を展開しています。クチコミサイトの運営と、企業向けの採用支援サービスであるリクルーティング事業です。2016年に始まったリクルーティング事業は、求人企業やエージェント企業の採用活動の活性化もあり、契約社数が2640社(2023年9月末時点)と増え、第三四半期の売上で、13.8億円の数字を出しています。
日本の雇用市場はキャリア採用市場がおよそ4千億円、新卒採用市場が1千500億円、と約6千億円ほどと言われています。
国内だけでもまだまだ開拓余地、伸びていく余地があり、数百億や数千億も目指せる事業だと思っています。
クチコミをもとに企業の「働きがい」を数値化し、これらが株価や業績に相関していることはすでに論文でも証明されていますが、企業が発表するESGレポートなどに比べ、OpenWorkには「働く人の生の声」が蓄積されています。10年以上にわたって作り上げてきた審査方法に沿ってクチコミを掲載しており、情報の信頼性や透明性を強みとしています。
OpenWorkのユーザーからの満足度が非常に高いことも強みではありますが、一方で転職サービスとしての認知度はまだまだ高くありません。認知拡大に向け、広告出稿への投資なども行っています。
直接手を加えないスコア改善方法と今後の事業展開とは
ーースコアが低い会社へのアプローチはどのようにされているのでしょうか。
大澤陽樹:
弊社が直接、企業のスコア改善に関わることはありませんが、スコアを改善するためのヒントをレポートで提供する事業を始めています。
レポートサービスにおいて最も重要なのは「変化」です。
今スコアが高い企業でも、サービス残業や休みが取れない状態が改善されず、ブラック企業と言われる状態になる可能性がある。たとえば、クチコミに厳しいことが書かれ、労働環境が悪化している前兆や傾向がうかがえる企業もあります。
こうした変化の兆しやスコアを改善するためのヒントを提供し、各企業でアクションプランを立てる際の参考にしていただいています。
ーー今後の事業展開を教えてください。
大澤陽樹:
具体的な情報はお伝えできないのですが、引き続き、弊社のミッションである「ひとりひとりが輝く、ジョブマーケットを創る。」を実現すべく、様々な新プロジェクトを検討しています。
来年から始める予定のプロジェクトもあるので、楽しみにしていただけたら嬉しく思います。
ビジネスモデルと財務戦略と組織戦略は親密につながっていて正解がありません。
正解がなく、目に見えにくいものですから、組織の形をつくりあげることそのものが企業成長につながり、オープンにしていくことが社会を良くしていくことにつながると思っています。
編集後記
自ら社会を変えたいという純粋な気持ちでまい進する大澤社長。
良い人材が良い会社に集まる、当たり前の社会へ向けて新しいプロジェクトが次々と進行中である。
「楽しみにしてほしい」とインタビューで話す大澤社長の顔は笑顔で、仕事に対するまっすぐで熱い思いを感じた。
近いうちに発表されるであろう新プロジェクトで何をオープンにしていくのか、ニュースに期待したい。
大澤陽樹(おおさわ・はるき)/1985年、福島県いわき市で生まれた後、兵庫県西宮市と千葉県松戸市で育つ。2009年に東京大学大学院修了後、リンクアンドモチベーションに入社。中小ベンチャー企業向けの組織人事コンサルティング事業のマネジャーを経て、新規事業の立ち上げや経営管理、人事を担当する。2018年、オープンワーク(旧Vorkers)に参画。取締役副社長を経て2020年4月より現職。