チェック・ポイント・ソフトウェア・テクノロジーズ株式会社は、1993年にイスラエルで創業したサイバーセキュリティのソリューションを手がける企業。主力プロダクト「Check Point Infinity」を軸に、クラウド、モバイルなどITインフラに統合的、包括的かつ協調的なセキュリティプラットフォームを構築している。
現在アジア太平洋地域の管轄で日本に現地法人を構える同社。まさに「生成AI元年」としてIT界激動のさなかであった2023年5月、日本でのシェア拡大のためにスカウトされ、代表取締役社長に就任した佐賀文宣氏にインタビューを行った。
スタートアップ投資のカルチャーに触れ、実績を買われてたどった道のり
ーー学生時代から就職までのご経験をお聞かせください。
佐賀文宣:
進学した北海道大学ではスキー部に所属し、スキーざんまいの学生生活を送っていました。スキー好きが高じて大学院を途中1年間休学し、ニュージーランドまでスキーを教えにも行きました。
そうした経験がきっかけとなり、海外の会社で働きたいと思うようになりました。特にアメリカへの憧れが強かったため、大学院修了後は同国の大手IT企業日本法人に就職しました。
ーーそちらではどのような経験をしましたか。
佐賀文宣:
最初の就職先に15年所属していた間、いろいろな経験をして現在の礎を築きました。はじめはノートパソコンの開発部門に所属して、エンジニアとして不具合を抽出していました。
その後は営業部に異動し、エンジニアだったアドバンテージを生かして営業に従事しました。技術的なことにも詳しかったので売れ行きはかなり好調でしたね。
その後に六本木にある外資系企業に出向した際に、アメリカ人の上司と出会い、新しい道が拓けました。
ーー具体的にはどのような新しい道が?
佐賀文宣:
出向先は、数々の企業を生んだシリコンバレーがあるアメリカ西海岸の企業らしく、「スタートアップに投資する」という私にとって新しい文化に触れることができました。そのおかげでさまざまな新しいテクノロジーに興味を持つことになり、複数のIT企業に招かれる流れに発展しました。
いくつかの企業を転社したのは上司や同僚が「一緒にやろう」と声を掛けてくれたことが大きな要因です。優れた人たちと一緒に働くのはよい刺激となり、仕事のパフォーマンスを上げるためにとても重要なことだと思います。
ーー社長に就任しての抱負をお聞かせください。
佐賀文宣:
弊社の市場では欧米とインド含めたアジア・パシフィックともに好調の中で、日本だけが製品力に対しての評価が低いといういびつな状態にあります。
しかし、苦戦しているからこそチャンスがあると思っています。今まさに取り組みながら、シェアを拡大していけると確信を強めているところです。
技術屋としての開発力とスピード感が差別化ポイント
ーー貴社の強みを教えてください。
佐賀文宣:
私たちは“サイバーセキュリティの技術者チーム”で、技術力のある会社であることが最大の強みです。また、世界6,400名の社員中、2,000人以上が「チェックポイントリサーチ」という研究開発部門ということも大きな特徴の一つです。
サイバーセキュリティは戦争にも使われるもので、日々著しく進化していきます。全社をあげて開発を強化し、最先端の技術を駆使しながら変化に先回りして対抗できるのが大きなアドバンテージといえます。
ーー今後のシェア拡大における重要なことなんでしょうか。
佐賀文宣:
ポイントになってくるのは、セキュリティをサプライチェーンとしていかに対処できるかでしょう。現在ではSMB(中堅中小企業)とエンタープライズ(大企業)のセキュリティを分けて考えられなくなっています。
エンタープライズであってもお客様自身だけでなく、取引先を含めたセキュリティ対策を考え、どうやって両者をつなげて責任を担保するかまで掘り下げて提案しています。大きなところから細かいところまで縁の下で支えるのが私たちの長所であり、使命だと考えています。
ーー今後セキュリティ業界はどうなっていくと予想しますか。
佐賀文宣:
サイバーセキュリティの世界ではAIの登場によって業界構造の地殻変動、つまりパラダイムシフトが起きています。この産業革命に匹敵するともいわれる中でセキュリティはますます複雑化し、サイバー攻撃の入口や手法が増加し管理しきれなくなっているのが現状です。
データは多すぎる、人も少ない中で複雑なものをどうやってシンプルに効率的に管理できるかが求められていくでしょう。その点、弊社は危機管理に敏感なイスラエルの企業であるがゆえに、テクノロジーの進化に対してかなりのスピード感を持って対処できていると自負しています。
多様性を受け入れてきたダイバーシティカルチャー
ーー人材の採用方針についてお聞かせください。
佐賀文宣:
技術力には自信のある会社ですから、エンジニア、営業問わず第二新卒の方が活躍できる環境が整っています。
具体的な取り組みとして「グローバルアソシエイトプログラム」や「ヤングプロフェッショナルプログラム」といった、経験の浅い人材を育てるプランがあります。若年層にはチャンスの多い企業だと思います。
ーー社風について教えてください。
佐賀文宣:
弊社の本社があるイスラエルは、アメリカとは異なりどちらかというと市場が外にある国です。外の声を聞いて多文化を理解してきたユニークなカルチャーがあるため、ダイバーシティを大事にしています。また誠実で真面目な社風でもあります。
製品レベルは高いので、今後は人材のレベルを上げて日本市場で頼られる組織にしていきたいと思います。
編集後記
佐賀社長はインタビューを通して、穏やかで謙虚な人柄という印象を受けた。一方で営業強化策については「お客様と直接話す時間を増やし、困りごとを聞くことが重要」と話す姿勢は、からは論理的でなおかつアクティブな印象を受けた。どこまで日本市場を切り拓くのか、その期待を一身に背負っている。
佐賀文宣/1992年北海道大学工学部修士課程修了。1992年に日本IBMへ入社し、ThinkPadの開発部門に配属。2006年シスコシステムズ合同会社でWebexのパートナー開拓に携わる。2013年からヴイエムウェアでパートナービジネスを統括。その後、ZVC Japan (Zoom)の社長として務めてビジネスを成長させた。2023年より現職。