私たちが普段利用する美容室やサロンは、生活していく上で欠かせないサービスだ。需要が高い分、予約や顧客管理などに時間がかかり、業務が圧迫されている店舗は多い。
そのような問題を解決するのが、理美容店舗向けの予約管理システムを提供している株式会社サインドだ。
今回は、代表取締役社長の奥脇隆司氏から、起業のきっかけや事業の強み、今後の事業展開などについて話をうかがった。
祖父への憧れがきっかけで起業を決意
ーー起業することを決めたきっかけは何だったのでしょうか?
奥脇隆司:
幼少期に地元の山梨で自営業を営む祖父を見て、漠然と憧れを抱いていましたが、当時はサッカーに夢中でした。中学では山梨県大会でチームが2位を獲得するなど情熱を傾けていました。
高校は、サッカー強豪校の帝京第三高校に入学。しかし、そこで天才たちと一緒にプレーする中で、努力では超えられない壁を感じて、人生で初めて挫折を経験したのです。
それでも高校までは続けたのですが、すべてやりつくしたと感じ、大学ではサッカーの道は選ばないことに決めました。
そして、大学生になって将来のことを考えていた時に、祖父が亡くなってしまったのです。
このことが初心に立ちかえるきっかけになり、幼少期に抱いた祖父への憧れの気持ちを思い出し、起業したいと思うようになりました。
豊富な知識を積めた比較.com株式会社での経験
ーー比較.com株式会社へ入社を決めた理由を教えてください。
奥脇隆司:
比較.com株式会社(現・手間いらず株式会社)は、さまざまなサービスを比較する会社で、多くの業界を知ることができる環境に魅力を感じました。今後必要性が高まると思われたインターネット系の会社である点にも惹かれ、起業に必要な経験・知識を得られると思い、入社を決意したのです。
ーー比較.com株式会社ではどのように働いていらっしゃいましたか?
奥脇隆司:
「思い立ったら即決断・即行動」という気持ちで仕事をしていました。
そのおかげで、短期間でいくつかの結果を出すことができました。ただ、今振り返ると、当時は若かったからできたことだと思っています。
会社の全体像や仕事の流れ、業界のルールなどがわかってしまったら、恐らくかえってできなかっただろうと感じています。
予約管理システムで必要性の高い理美容店舗をサポートしたい
ーー貴社が今の事業内容を選んだきっかけを教えてください。
奥脇隆司:
比較.com株式会社は、総合比較サイトの事業とは別に複数の宿泊予約サイトの予約や在庫の情報などを一元管理するサイトコントローラーというサービスを月額制で提供しています。そこで仕事をする中で、お客様が増えれば収益が積みあがっていくというビジネスモデルを理解することができました。
また、インターネット予約が日常生活の中に密接に関係していると感じ、その必要性を把握すると同時に、そういったサービスをお客様に届けたいと思うようになりました。
予約サービスはさまざまな業界で必要なものですが、その中でも理美容業界を選んだことには理由があります。生活の中でよく予約するサービスは何だろうと考えた時に思いついたのは飲食業界と理美容業界でした。私自身は飲食店の予約はあまりしませんでしたが、美容室やヘアーサロンの予約は必ずしていました。
そんな予約の必要性の高い理美容業界に予約を管理するビジネスを組み合わせれば、需要が高まるに違いないと感じたのです。
ーー貴社のプロダクトである「BeautyMerit(ビューティーメリット)」について教えてください。
奥脇隆司:
お店専用のアプリの作成と、複数の集客サイトからの予約情報を一元管理できるシステムです。
従来分断されていた予約管理業務を一気通貫で行うことができるので、美容師の施術や顧客折衝以外の負担を減らすことができます。
美容室は新規顧客の集客はもちろん、その方々に長期的にリピートしていただくことも必要なので、お店専用アプリにも会員登録してもらい、顧客の囲い込みを図るという側面も持ち合わせています。
当時、弊社と同じようなシステムを提供している会社はなかったので、差別化が図れたと思っています。
ーーシステム開発時の印象に残っているエピソードを教えてください。
奥脇隆司:
予約管理システムを思いついたものの、当時社内に開発できる人が私を含めていなかったので、知人に協力してもらい、システムをつくってもらったことが印象に残っています。
デザインは私が勉強して手がけました。
起業当初は選択肢が少なかったので、自らやるしかないことは率先して取り組んだのです。
手探りの作業でしたが、もともとやりたいと思っていたことなので楽しかったですね。
試行錯誤と地道な努力でプロダクトを成長させた
ーー起業時に苦労したことを教えてください。
奥脇隆司:
私自身に強いバックボーンがあったわけではないので、「本当にシステムを導入して上手くいくのか」とお客様に不安に思われやすかったことです。
当時、システム開発のPMを担当していたのですが、並行してホットペッパービューティーなどいろいろなサイトに出ている美容師の方へ、ひたすらテレアポの営業をかけました。
また、私が通っている美容室に業務や予約の流れなどを聞き、それをシステムの機能に落とし込んでいくということも継続して取り組んでいきました。
業界的に、デザインにこだわりが強いお店が多く、お客様のニーズに対応していくことで、結果的に弊社システムの品質の底上げにもつながりました。
契約獲得のため信頼を得られるよう地道な努力を続けてきたので、最初に導入していただいたお客様にはとても感謝しております。
ーーBeautyMeritが広まったきっかけを教えてください。
奥脇隆司:
業界経験を持ち、現在、弊社の営業部長と執行役員を兼務する池田を迎え入れたことです。
池田は「理美容業界で有名な店舗を獲得することが重要なので、今のやり方ではなく、もっとブランドサロンとの契約を取りに行こう」と有名店をピンポイントで獲得してくれたのです。
有名店との契約が増えていく中で、あるお店がブログで弊社のサービスを導入したことや、その成果について発信してくださいました。そのブログは、お客様だけでなく美容師も注目するほどだったので、業界の予約問題の解決となる弊社のシステムに注目が集まり、一気に問い合わせがくるようになりました。このことが大きな分岐点だったと感じています。
ーー貴社の売上が伸びてきたのはどのくらいのタイミングだったのでしょうか?
奥脇隆司:
2013、2014年頃には黒字化していたと思います。
そして、2017年には会社を移転しました。
それまではレンタルオフィスだったため、正式にビルを構えるというのは初めてのこと。少しずつ会社らしくなってきたという手応えを感じていました。
美容業界の課題にもっと踏み込める会社にしたい
ーー今後の事業展開について教えてください。
奥脇隆司:
理美容業界全体の課題に、もっとアプローチしていけるようになりたいと思っています。
理美容室やネイルサロンなどは全国で55万店舗あり、市場規模は3.7兆円です。
しかし、美容師の低所得問題や、お客様の当日キャンセルなど、業界の課題はまだ多く残っています。
理美容業界はマンパワーで対応している作業の割合も多く、もっと業務の効率化を進めることができる業界だと感じています。
お店側の声を聞いて改善することはもちろん、業界全体の課題を解決するためのアプローチ方法も考えているところです。
巻き込み力や主体性を持ち、同じ目標を持つ方と働きたい
ーー貴社の求める人物像を教えてください。
奥脇隆司:
「周りの人たちを巻き込んで仕事ができる人」「主体性を持って仕事に取り組める人」と一緒に働きたいです。
共通の目標を持ち、状況に応じて柔軟に物事に取り組んでいく姿勢というのは、組織で仕事を進める上でとても大切な要素だと思っています。
採用面接の際には、待ちの姿勢ではなく自分で考えて行動できる方かどうかを見ています。
ーー今後積極的に採用されるポジションは何でしょうか?
奥脇隆司:
美容師は、ITリテラシーが高いように感じられるかもしれませんが、予約情報をデータ化できていなかったり、持っているデータをうまく活用できていなかったりと、実際はまだまだDXが必要ですので、弊社のシステムを提案し、運用までしっかりサポートできる営業メンバーを増やしたいと思います。
SaaSのサービスというと、契約がゴールと思われがちですが、導入後のサポートやアドバイスこそが重要なのです。
美容業界全体に影響を与えらえる面白い会社
ーー最後に読者の方へメッセージをお願いします。
奥脇隆司:
弊社はお客様の声を聞いてサービスに落とし込み、理美容業界をアップデートしていきたいという思いを持ってビジネスに取り組んできました。
おかげさまで現在は会社も大きくなり、業界全体にインパクトを与えられるチャンスがあります。
この点はとても魅力的ですし、今が面白い時期だと思いますので、理美容業界に関心がある方や事業開発にチャレンジしたい方は、是非弊社で活躍していただきたいと思っています。
編集後記
理美容業界の予約管理問題にいち早く取り組み、4年で売上を3倍以上に伸ばした株式会社サインド。
美容師にかかる膨大な業務の負担を少しでも軽減するべくDXを進めていきたいと意気込む奥脇社長は、業界全体のさらなる発展も視野に入れている。
店舗とお客様に寄り添い、挑戦を続ける株式会社サインドから今後も目が離せない。
奥脇隆司(おくわき・りゅうじ)/1988年山梨県生まれ、帝京大学経済学部卒。2011年比較.com株式会社(現・手間いらず株式会社)へ入社。インターネット予約の市場拡大にいち早く着目し、同年、株式会社サインドを同社副社長と設立し代表取締役社長に就任。理美容業界の予約管理プラットフォームのパイオニアとして、理美容店舗向け予約管理システム「Beauty Merit」の提供を開始。