※本ページ内の情報は2025年6月時点のものです。

ゴルフ界に欠かせないメディアとして知られるゴルフダイジェスト社。半世紀以上にわたり、ゴルフとともに歩んできた同社は、「週刊ゴルフダイジェスト」をはじめとするコンテンツ事業を軸に、ゴルフ旅行、イベント、会員権仲介、ゴルフ関連用品の販売まで、ゴルフ業界全体の発展を支える多角的な事業を展開している。

近年は海外市場への展開も視野に入れ、日本のゴルフ文化の発信にも意欲を見せている。約600万人といわれる国内ゴルファーの期待を背負い、新たなステージへと歩みを進める同社の代表取締役社長、木村玄一氏に話を聞いた。

単なる趣味誌ではなく「業界全体を支えるメディア」へ

ーー貴社の歴史と社長に就任するまでの経緯をお聞かせください。

木村玄一:
祖父が1923年に「オートバイ雑誌」を創刊したのが、弊社グループの始まりです。1954年にモーターマガジン社が設立され、1961年に別冊ゴルフダイジェストを創刊しました。弊社が設立されたのは、それから10年後の1971年でした。

私は大学卒業後、大日本印刷株式会社に入社し、書籍や雑誌のコンピュータ組版を担当しました。のちに海外で経験を積むためアメリカのボストンへ。帰国後、弊社の取締役に就任し、その後、32歳でモーターマガジン社の社長を務めることになりました。2年後の1997年に弊社の代表取締役社長に就任して以来、30年近く経営に携わっています。

ーー貴社の事業内容を教えてください。

木村玄一:
ゴルフ雑誌の「週刊ゴルフダイジェスト」をはじめとして、デジタルメディアの「Myゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」、ゴルフのイベントプロモーション、広告事業などを手がけています。また、グループ会社のモーターマガジン社では、車やバイク、カメラ、医療といった分野の業界雑誌も発行しています。

雑誌は単に情報を発信するだけでなく、業界全体の健全な発展を支える存在でなくてはなりません。ゴルフ業界に関しては、ゴルフ場のメンテナンス情報や管理機材、ゴルフ場運営全般に役立つゴルフ場セミナー誌を発行するなど、業界発展に貢献できるよう取り組んでいます。

ーーこれから事業のどのような部分に注力していく予定ですか?

木村玄一:
広告クライアントの幅を広げていきたいと考えています。これまでは、ゴルフクラブメーカーやゴルフショップなど、広告主はゴルフ業界中心で、言わば趣味誌(クラスマガジン)でした。ゴルフを楽しまれる層は、可処分所得に余裕のある方も多く、広告媒体として魅力的な読者層を持っています。

今後は、ゴルフに限らず、自動車、金融商品、不動産、旅行、食品・飲料メーカーといったクライアントに対してしっかり媒体力をアピールして、より幅広い分野の企業とも関係を深めていきたいと思います。そうすることで、厳しいと言われて久しい雑誌を、業界全体の発展を支えるメディアへと成長させていきたいですね。

日本のゴルフ文化を海外にも広げたい

ーー出版以外の事業についてもお聞かせください。

木村玄一:
ゴルフに特化した国内外の旅行主催をはじめ、ゴルフ会員権の売買・仲介を行っています。他にもゴルフカレンダー(マスターズ、ワールドゴルフコース)やゴルファーズダイアリーの製作販売、プロと共同でゴルフ練習器具などの開発、販売なども手がけています。これらも含めすべての事業は、ゴルフ業界全体の活性化に貢献することを究極の目的としています。

ーー海外ゴルファーへのアプローチも視野に入れているそうですね。

木村玄一:
日本のゴルフ文化は欧米の優れた要素を取り入れながら、日本独自の形に発展してきました。私たちはこれまで、海外のゴルフ場やクラブ、サービスを日本に紹介する役割を担ってきましたが、今後は日本のゴルフ文化を海外へ発信していくことが重要だと考えています。

現在、国内のゴルファー人口は600万人と言われてますが、海外に目を向ければ、何千万人という巨大な市場が広がっています。日本のインバウンド需要が高まる中、国内ゴルフ業界は言葉の壁など、外国人ゴルファーを受け入れる準備が整っているとはいえません。そこを弊社がしっかりサポートできるようにして、もっと日本のゴルフを知ってもらいたいですね。

学ぶ姿勢を忘れない人材との出会いに期待

ーー社長として大切にしていることを教えてください。

木村玄一:
私は常に学ぶ姿勢を大切にしています。「自分は何でも知っている」ではなく、むしろ「何も知らない」と認識することで、新たな知識や考え方を柔軟に吸収できるよう心がけています。社長であっても、自分の判断が常に正しいとは限りません。周囲の意見をよく聞き、その上で最善の決断を下すことが重要です。一生をかけて成長し続けることを意識し、学びを怠らない姿勢を大事にしています。

ーー人材採用の方針をお聞かせください。

木村玄一:
私は採用面談で、必ず応募者に「何か私への質問はありますか?」と尋ねています。私自身、会社が求職者を選ぶだけではなく、求職者もまた会社を選ぶ立場にあると考えているからです。重要なのは、雇用関係というよりも「人と人との関係」です。

完璧なスキルを持つことよりも、知らないことを素直に認め、挑戦し続ける姿勢を持つ方と一緒に働きたいですね。新卒採用にこだわらず、編集や営業など、弊社の事業とマッチするスキルを持った方とお会いしたいと考えています。

ーー最後に今後の展望を教えてください。

木村玄一:
今後は「事業モデルの再構築」と「事業の継続性を高めること」に取り組んでいきたいと考えています。弊社の主な事業は出版ですが、それが未来永劫続くとは限りません。新たな核となるビジネスモデルを構築し、海外展開やクライアントリソースの拡大を視野に入れ、持続可能な成長を実現していきたいと考えています。

また、事業の継続性を高めるためには、5年後、10年後に向けて、会社の事業を託せる人材を見つけ、私なりのやり方を伝えていくことが重要だと思っています。しかし、ただ売上や利益を追求するだけでなく、ゴルフ業界全体を良くするという視点を持っていることが大前提です。加えて、社長がすべてを決めるのではなく、社員一人ひとりが自分の意見を持ち、手を挙げて提案してくれるような組織づくりも進めていきたいですね。

編集後記

創業家三代目として、伝統を受け継ぎながら新しい価値を創造する。その難しい舵取りに挑む木村社長の言葉には、確かな重みがあった。特に印象的だったのは、「何も知らない」という謙虚な姿勢だ。それは単なる謙遜ではなく、進化し続けるための覚悟のように感じられた。

木村玄一/1962年、東京都生まれ。慶應大学法学部卒業。1986年、大日本印刷株式会社に入社、CTS事業部に配属。1988年に退職し、米ボストンへ。1989年、株式会社ゴルフダイジェスト社へ入社し、取締役に就任。1993年、株式会社モーターマガジン社常務取締役、1995年社長。1997年、ゴルフダイジェスト社社長。1998年、東名観光開発(東名CC)社長。2000年、GDO取締役。2023年、東名CC理事長。