※本ページ内の情報は2026年7月時点のものです。

大阪府に本社を構え、創業50年を超えたアルミホイールメーカー、株式会社レイズ。『VOLK RACING』をはじめとする国内外で高い認知を持つブランドを有する自動車アルミホイールの企画・製造・開発・販売を行う、日本を代表するアルミホイールメーカーの一つだ。世界的に大きな市場を形成する自動車用品分野において、創業以来一貫して国内生産にこだわり、確かな技術力で多くの顧客から高い評価を獲得してきた。近年は、新型コロナウイルス感染拡大時の需要拡大を、品質向上・供給体制・ブランド価値の定着につなげたことでさらに業績を伸ばし、北米やアジア市場への展開も加速させている。モータースポーツで培った技術や感性を日常のドライビング体験に還元し、車を操る喜びを広げていく「モータースポーツカルチャー」の普及を理念に掲げる同社の代表取締役社長、斯波(しば)翔太郎氏に、社長就任までの経緯や組織改革、独自の製品哲学、そして次世代を見据えた今後の展望などについて、話をうかがった。

幼少期から抱いていた父への憧れとキャリアの原点

ーー貴社の社長に就任するまでの経緯を教えてください。

斯波翔太郎:
私は、経営者の父がいる家庭に生まれました。幼い頃から父が仕事に真摯に向き合う姿を見ており、父のような社長になりたいという憧れをごく自然に抱いていましたね。

小学6年生からの4年間をイギリスとドイツの学校で過ごし、その後は日本の高校と大学を経て、2008年に弊社へ入社しました。ただ、入社して痛感したのは、「会社を継ぐこと」と「会社を経営すること」は全くの別物だということです。父への憧れはあくまで私の出発点であり、経営者になるためには、私自身で事業、現場、社員、そして収益構造を深く理解し、自分の言葉で会社の方向性を示す必要があると気づきました。

そこから、私は私心に偏るのではなく「従業員とその家族を幸せにするため」に自己の存在意義を再定義し、後継者としてではなく、経営者としての自覚を形成していきました。その後、取締役や代表取締役副社長を経て、2023年の9月21日に代表取締役社長に就任しました。

仕事の本当の目的を社員に伝えていきたい

ーー社長就任にあたり、どのような組織課題を感じ、どう解決に取り組まれましたか。

斯波翔太郎:
私が直面したのは、弊社のビジョンを全社員に浸透させるという社内改革でした。経営層の間でビジョンは共有できていたものの、それを現場の事業戦略に落とし込むまでには至っていませんでした。事業戦略として浸透させなければ、社員は日々の仕事を行う意味や意義がわからなくなってしまいます。

その課題を解決するため、社長就任後に新たに取り組んだのが、社長と社員との対話集会である「タウンホールミーティング」の実施です。全社員と直接対話をするために少人数に区切り、1回につき4時間〜6時間のミーティングを1ヶ月間で計20回実施しました。事業戦略にとどまらず、日々の業務についても熱い議論を交わし、各部署の社員全員と直接話すことができたので、会社の一体感を高める上で非常に有意義な取り組みであったと感じています。

ーー組織をつくる上で気を付けていらっしゃることはありますか。

斯波翔太郎:
目的と手段を履き違えた組織にならないように注力しています。たとえば、KPI(重要業績評価指標)が目標として掲げられたときに、それを達成すること自体が目的になってしまうと、その先にある「戦略を成功させること」や「組織や社内体制を良くしていくこと」という最終的なゴールが見えなくなってしまいます。そうならないように、日々の業務の最終的な目的を社員に伝えること、そしてそれをしっかり理解して行動できているかを人事評価に反映させるように心がけています。

強みを組織の力に変える人材育成と働き方改革

ーー社内改革として新たに取り組んだことはありますか。

斯波翔太郎:
働き方改革として、休日の増加を目標とした残業時間の削減に取り組みました。かつて我々の残業時間は月平均で20時間でしたが、これを13時間まで削減することを目指しました。7時間の残業削減が成功すれば、ちょうど1日の稼働時間に相当します。ですから私は、タウンホールミーティングの場で「2024年の4月までに毎月の残業時間を7時間削減できれば、年間休日を10日増やす」と社員に約束したのです。結果として、月平均13時間への削減に見事成功し、約束通り年間休日を10日増やし(125日)、併せて労働生産性も向上させることができました。

社員に対してこのように自律した行動を求めたのは、自律性が人の幸福感を高める要素の1つだと考えているためです。社員の幸福度を高めることを目指し、これらの取り組みを行ってきました。

また、生産性向上のための本質的な取り組みとして、各部門における作業のアウトソーシングとAIの活用を推進しています。さらに、社内での情報共有を強化することで会議やミーティングの時間を短縮し、意思決定のスピードアップを図るなど、限られた時間で最大限の成果を出せる体制づくりを進めています。

ーー営業担当者の育成や多様な人材の確保についてはどのようにお考えですか。

斯波翔太郎:
車好きの情熱を持つ社員が多いことは弊社の大きな強みですが、情熱だけではビジネスは成立しません。そこで、AIを活用して商談内容を可視化・評価し、優秀な営業担当者の提案プロセスや質問力を共有する「商談コンテスト」を実施しています。属人的だった営業力を、再現可能なスキルとして組織に移植する取り組みです。

また人材確保の面では、性別によって賃金差が生じない制度設計を徹底しました。公平で誰もが能力を発揮し、働きやすい環境を整備することで、優秀な中途採用者や新卒人材を安定して確保できる体制を構築しています。多様な価値観を持つ人材が集まることで新たなアイデアが生まれ、組織全体が活性化すると信じています。

ーー社員の待遇面などにおいて、他に着手された施策はありますか。

斯波翔太郎:
以前から待遇改善には取り組んできましたが、社長就任後は、より自分自身の考えを制度として明確に反映できるようになりました。社長就任以降、抜本的な給与制度改革を実施し、すでに新しい制度を稼働させています。

まず、役員を除く従業員の平均年収は「上場企業の平均」をターゲットに設定し、改革以降その目標を達成し続けています。具体的には、スキル・習熟度・役割をもとに「10段階のジョブグレード」を新設し、グレードごとの実際の年収レンジを社内に透明化して開示しました。これにより、年功の良さを残しつつも実力や役割をしっかりと勘案し、若手からベテランまで誰もが納得できる透明性の高い制度になっています。

また、賞与については「実績」にフォーカスしました。KPIの達成度合いを定量的に自己採点し、上司がファクトチェックを行う仕組みです。さらに、部署を越えた全社的な実績については部署や経営陣で加点評価を行っています。納得感、責任感、そしてパフォーマンスの最大化を両立できる仕組みへと進化させることができました。

日常の運転を喜びに変える製品哲学と革新的な生産技術

ーー貴社が製品開発において最も重んじている信念についてお聞かせください。

斯波翔太郎:
弊社は、モータースポーツの過酷な環境で培ってきた高度な技術や研ぎ澄まされた感性を、日常のドライビング体験へと還元し、車を操る喜びを広く社会へ伝えていく「モータースポーツカルチャー」の普及を経営の理念として掲げています。一般的にアルミホイールは車の見た目を良くするための装飾品と捉えられがちですが、実は車の走行性能や乗り心地を大きく左右する非常に重要なパーツです。ホイールの違いは、デザインだけでなく、ステアリングを切った瞬間の応答性、加減速時の車両の安定感、長距離運転時の疲労感、さらには同乗者の酔いにくさにまで影響します。

私たちは、こうした“感覚の違い”を感覚のまま終わらせず、評価軸として言語化し、製品開発や提案に活かしています。モータースポーツ由来の技術がもたらす体感価値をしっかり伝えることが、我々の製品哲学の根幹です。

ーー原材料費の高騰など厳しい環境下で、どのように収益と品質を維持されていますか。

斯波翔太郎:
昨今のアルミなど原材料価格の高騰は製造業にとって大きな課題です。我々はこの状況に対し、最新の設備投資を積極的に行うことで生産技術の抜本的な向上を図りました。具体的にはホイールの品質を左右する鋳造や塗装工程において最新設備を導入することで不良率を劇的に低減させています。

これにより歩留まりが向上し、収益の大幅な改善と安定した納期遵守の両立を実現しました。またコスト増加分については、長年培ってきたブランド力と、確かな技術に裏打ちされた付加価値をお客様に提供できているからこそ、製品価値を丁寧に伝え、市場の理解を得ながら適正な価格改定を行っています。価値ある製品を持続的に提供し続けるための強靭な基盤づくりをさらに強化していく方針です。

世界市場でのシェア拡大と次世代へつなぐ経営体制の構築

ーー現在の事業の進捗や市場環境についてお聞かせください。

斯波翔太郎:
海外展開と新技術への投資は非常に順調に進捗しています。自動車用品の市場全体が変化を迎える中、弊社は新型コロナウイルス感染拡大時の需要拡大により、年間の受注数が2倍以上という高い水準で推移しました。通常、需要増加後には反動減が懸念されますが、我々は品質向上と供給体制の維持に努め、現在でもコロナ禍前と比較して1.5倍の高水準で安定的に推移しています。

これは一時的なブームではなく、弊社のブランド価値が世界中で着実に定着してきた結果だと受け止めています。特に注力しているのが、北米市場とアジア市場のシェア拡大です。この巨大な市場に対して我々の高品質なホイールを提供していくことは、事業成長における重要な柱であり確かな手応えを感じています。

ーー今後の展望について教えてください。

斯波翔太郎:
弊社の製品は、国内よりも海外の方が需要が大きい状況にありますが、増え続ける需要に応え、より多くのお客様に製品をお届けできるように、海外市場に向けた生産体制の強化に取り組んでいます。そして、世界中の需要に迅速に対応できる企業でありたいと考えています。その上で2030年から2035年に向けて、グループ全体の売上高を現在の2倍から3倍程度に成長させることを中長期的な目標としています。

しかし我々が重視しているのは単なる売上高の数字ではありません。規模を追うあまり収益性が低下しては意味がないため、企業としての「稼ぐ力」である利益率を最も重視して経営を行っていきます。

ーー次世代を見据えた組織づくりについてはどのようにお考えですか。

斯波翔太郎:
私が最も危機感を持っているのは、社長である私一人に依存してしまう経営体制です。企業が永続的に発展し変化の激しい市場環境を生き抜いていくためには、次代を担う人材の育成が不可欠です。そのため現在、外部のコンサルティングなども活用しながら、約2年間の計画で次世代のリーダーや経営幹部の育成プロジェクトを強力に推進しています。

具体的には、権限移譲を進めながら、KPI/KGIの設計、部門間の意思決定、そして各部門の収益責任を含めた一連のプロセスを仕組み化し、社員に「経営視点」を持たせる実践的な取り組みです。会議を通じて各部門の進捗をしっかり管理する仕組みを整え、社長の私が全てを引っ張らなくても、社員の力で事業を動かしていける体制へと権限を任せています。

組織全体で経営力を高めることで、お客様の多様な価値観に合った付加価値を永続的に提供し続けられる企業へと進化していきたいと考えています。

編集後記

未曾有の環境変化を単なる追い風で終わらせず、盤石な生産体制と独自の人材育成によってさらなる飛躍を遂げる株式会社レイズ。斯波氏の言葉からは、現状に満足せず社内体制の強化や従業員の幸福度向上、次世代リーダーの育成を通じて強固な組織を目指す覚悟が感じられた。独自の体感を言語化し、車を操る真の喜びを世界へ発信し続ける同社。知られざるホイールの奥深い魅力とともに、グローバル市場での快進撃から今後も目が離せない。

斯波翔太郎/1982年、大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2008年、株式会社レイズ入社。2013年、取締役に就任。2014年、同社取締役兼マルカサービス株式会社取締役。2020年に株式会社レイズ代表取締役副社長を経て、2023年代表取締役社長に就任。