
中浜工芸株式会社は、創業60年の歴史を持ち、屋外広告や工業製品向けの特殊印刷を主力事業として展開している。同社は、シルクスクリーン印刷という伝統的なアナログ技術と、最新のデジタル印刷技術の両方を駆使し、他社には真似のできない高品質かつ多様なニーズに応える製品を提供。その技術は、街中の看板や自動販売機のラッピング、電車の車体広告から、工場の機械部品に至るまで、私たちの身近なあらゆる場面で活用されている。
今回、同社の代表取締役社長に就任した中浜史展氏に、事業の強みや特色、そして未来に向けた人材育成や組織づくりへの思いをうかがった。
日常の風景を支える印刷技術
ーー貴社の事業内容と特徴について教えてください。
中浜史展:
弊社では、特殊印刷技術を駆使し、車両ラッピングからサイン・看板、反射材製品、ノンスリップ製品、内装・装飾、路面標示、ガラスフィルムまで、多様なソリューションを提供しています。自動販売機に絵柄が印刷されているものや、電車の車体に掲載されている広告なども、私たちの印刷技術で対応しているものです。また、路上喫煙禁止の表示など、地面に貼られているものもあります。お客様にはよく「水と空気以外は全部貼ります」とお伝えしているように、本当に幅広い分野で弊社の技術が使われています。
ーー創業からの歴史やお客様との関係性について教えてください。
中浜史展:
昨年度で創業60周年を迎えました。創業時はシルクスクリーン印刷という特殊な印刷加工技術が他には少なく、多くのお問い合わせをいただき、ゲームメーカーさんと協力しながらお客様との関係を築いてきた歴史もあります。また、企業のCI(コーポレートアイデンティティ)変更に伴い、全国の営業車や営業所の看板、ロゴなどを一斉に変更する大規模な案件も手がけてきました。長年のお付き合いの中から、継続してご依頼いただくお客様も多いです。
アナログとデジタル双方の強みを活かして

ーー印刷技術における貴社の強みは何でしょうか。
中浜史展:
弊社の大きな特徴は、アナログ印刷とデジタル印刷の両方に対応できる点です。アナログの代表例はシルクスクリーン印刷で、これは昔ながらの技法です。版をつくり、インクを手作業や機械で乗せていくもので、特に屋外で使用する際の耐候性に優れています。一方、デジタル印刷はインクジェットプリンターを使い、データから直接、自動的に印刷する方式です。
弊社にはシルクスクリーン印刷の設備と長年培ってきたノウハウがありますが、専用の設備や版をつくるための費用と技術が必要で、手軽に始められるものではありません。それに加えて、デジタル印刷技術も導入しているため、お客様のさまざまなご要望に対して、品質とコストの両面から最適な提案が可能です。たとえば、耐久性が求められるものや特殊な素材への印刷はシルクスクリーンで、小ロット多品種やスピードが求められるものはデジタルで、といった対応ができます。
大規模案件への対応力と全国ネットワーク

ーーその他にも貴社サービスの特徴はありますか。
中浜史展:
たとえば、空港で飛行機に施されるマーキングや、バスの車体全体を覆うラッピング広告など、大型制作物への印刷や施工も多く手がけています。街の看板屋さんではなかなか対応できない規模の案件も、弊社ならお受けできます。20年前に比べると競合も増えてきましたが、このような大規模案件に対応できるところも弊社の強みだと思います。
また、長年の経験と実績の中で築き上げてきた全国的な施工ネットワークがあります。具体的には、企業が社名を変更する際に、全国各地にある営業所の看板や車両の社名表記を一度に変更するといったプロジェクトでは、このネットワークを活かして対応しています。品質にこだわりながら、全国どこでも均一なサービスを提供できるのが特徴です。
社員の成長と働きがいを追求する組織へ

ーー社長に就任されてから、どのような改革を進めていますか。
中浜史展:
現在、継続して取り組んでいるのは、全社的な効率化の推進です。DXを積極的に進め、会計ソフトや顧客管理システム、業務支援ツールなどを導入しています。これにより業務を効率化し、生み出された利益を社員に還元していきたいと考えています。また、従来の手法を見直し、「本当にこれが最善なのか、もっと良い方法はないか」と常に考える姿勢を大切にしています。
ーー人材育成や評価制度についてはどのようにお考えですか。
中浜史展:
以前は年功序列的な部分もありましたが、これからは能力のある人が正しく評価され、報われる会社にしていきたいと考えています。会社が社員に何を期待しているかを明確に伝え、社員一人ひとりが最高のパフォーマンスを発揮できるよう、人事評価制度の見直しを進めています。仕事を通じて成果を出し、正当に評価されることでモチベーションが上がります。それが会社の利益につながり、結果として社員の給与や昇進に還元される。この好循環で仕事も私生活も充実させてほしいと考えています。
ーー社員が働きやすい環境づくりも重視されていますね。
中浜史展:
社員が安心して仕事に集中できる環境をつくることが大切だと考えており、DXも社員の負担を軽減するという目的があります。また、「ワークライフエンリッチメント」という考え方を大切にしています。これは、仕事と私生活(プライベート)、学びが互いに良い影響を与え合い、相乗効果を生み出すことで、より充実した人生を送れるようにするというものです。そのようなワークライフバランスを実現できる会社を目指しています。
ーー採用についてはどのような人材を求めていますか。
中浜史展:
基本方針として、社員行動理念に共感し、最高のパフォーマンスを発揮できる人材の確保と育成を目指しています。現在は特に即戦力となる経験者採用に力を入れていますが、将来的には新卒採用も視野に入れています。営業部門も生産部門も、弊社の仕事に興味を持ち、共に成長していける方に来ていただきたいです。
「中身の良い会社」へ。未来への挑戦
ーー今後の事業展開、ビジョンについて教えてください。
中浜史展:
商品に関しては、弊社にしかできない、付加価値の高い商品を開発していきたいです。自社に生産工場がある強みを活かし、シルク印刷とデジタル印刷の技術を融合させた新しい製品を生み出すことで、お客様の新たなニーズに応え、提案の幅を広げていけると考えています。
経営理念として、「今まで培った技術、信用を最大限に活かし、新たな技術の習得、新たな挑戦を行うことにより社会的地位を確立し、社会貢献をしていく企業になる」を掲げています。これらの実現に向けて、さまざまな挑戦を続けていきたいです。社員一人ひとりが仕事にも私生活にも充実感を得られるような、そして弊社でしかできない独自の価値を世の中に広めていけるような「中身のいい会社」を目指しています。
ーー大きい会社ではなく「中身のいい会社」を目指すとのことですが、具体的に教えていただけますか。
中浜史展:
規模の拡大だけを追い求めるのではなく、社員が誇りを持ち、お客様から信頼され、社会に貢献できる、そうした実質的な価値を持つ会社でありたいということです。社員が働きがいを感じ、成長できる環境を整え、独自の技術やサービスを磨き続けることで、他にはない「中身の良い会社」を実現できると信じています。
編集後記
特殊印刷という専門性の高い分野で、60年という長きにわたり業界をリードしてきた中浜工芸株式会社。中浜氏へのインタビューを通じて、同社が大切にしているのは、伝統技術の継承と革新的な技術への挑戦、そして何よりも社員一人ひとりの成長と幸福であることが伝わってきた。アナログとデジタルの融合、大規模案件への対応力といった強みを活かしつつ、DXによる効率化や人事制度改革によって「中身の良い会社」づくりを目指す同社の取り組みは、変化の激しい現代において多くの企業にとって示唆に富むものであろう。今後のさらなる飛躍に期待したい。

中浜史展/1976年東京生まれ。亜細亜大学経営学部卒業後、1999年に株式会社ミニカラーに入社し、印刷のノウハウを学ぶ。3年間の修業期間を経て、2002年に中浜工芸株式会社へ入社。2024年7月、代表取締役社長に就任。現在は、次世代の印刷業に向けて注力している。