※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

1962年に大阪市で設立された渡辺泰(わたなべたい)株式会社。園芸用品の企画・製造から卸売・販売を手がける会社として、園芸業界で存在感を高めてきた。代表取締役社長の福田浩久氏に、社長就任の経緯や事業内容、今後の展望についてうかがった。

就職氷河期の「なりゆき」で園芸の世界へ

ーー社長就任までの経緯をお話しいただけますか。

福田浩久:
私が就職活動をしたのは「就職氷河期」と称された1999年でした。正直に言うと、何十社も受ける中で採用してくれたのが渡辺泰であり、特別な志があったわけではありません。機械工具を扱う部署に魅力を感じて入社をしましたが、実際の配属先は園芸部門でした(笑)。しかし、母親が花好きだったことが影響してか、意外に仕事への抵抗感は無かったですね。

不思議なことに、園芸は経済が不安定であれば需要が高い傾向があり、私が入社した当時はバブルが弾けても業界的には潤っていました。しかし、数年も経てば一次的な需要も落ち着き、コロナ禍の巣もごり需要で業界が盛り上がるまでは厳しい時代が長く続きました。

29歳で課長代理となってから、「せっかくなら好きなことに挑戦しよう」という思いが芽生えました。当時の自分が持ちうる権限の中で、可能な限り発言や提案をするように努めたのです。目の前の課題に一生懸命取り組んでいった結果、社内の改革につながったケースもありました。取締役として先代社長と事業継承の準備を始めたのは3年前のことです。

ーー社長として日頃から大切にしている考えを教えてください。

福田浩久:
「会社への不満が一切ない従業員はいない」と考える私は、会社の新たなビジョンとして「自社自賛」というキーワードを打ち出しました。一つでもいいので、「この会社にいて良かった」と自慢できることを定期的に増やしていこうという考えです。

「自分の会社を自分で褒められるように」と心がければ、個人のモチベーションが上がり、会社も自然と良い形になっていくのではないでしょうか。会社や社会的なルールの範囲内であれば「自由に行動していい」という社風も大切にしています。

メーカーでありながら、確かな商品を提供する問屋であるという強み

ーー事業内容をお聞かせいただけますか。

福田浩久:
渡辺泰は、植物を支える支柱資材をはじめとして、肥料や用土といった園芸用品を扱う会社です。「メーカーであり、ベンダー(問屋)でもある」という事業形態で、いろいろな要素を組み合わせて一つのプロダクトを生み出しています。

メーカーとしては、オリジナリティがある商品を世の中にお届けするという使命があります。一方、多様なメーカーの商品を仕入れて、市場に供給することがベンダーとしての使命です。

近年は巨大マーケットのホームセンターや量販店だけでなく、ガーデンセンターから商店街の花屋などの地域密着型のマーケットにも着目し、SNSなどでそれぞれの店の特長などを情報発信していけたらと考えています。

ーー会社の強みも教えてください。

福田浩久:
私は、自社製品よりもクオリティが高いものがあれば、あえて他社製品を仕入れてお客様に提供するというスタンスでやってきました。この「自分の感性を信じて物を売る」という精神は、私を含めた会社の強みでもあり、お客様から信用・信頼される結果にもつながったと思っています。

共働き世帯が増えたことにより、時間をかけて楽しむ園芸よりも、手間が少ない観葉などの室内園芸の需要が爆発的に伸びました。かわいい雰囲気の多肉植物から、ゴツゴツ・ギラギラした塊根植物まで、多様にジャンルが広がっています。そこにあるニーズを把握しながら製品を展開する姿勢は、今後も会社の強みとしていきたいです。

ーー独自の営業方針などはありますか?

福田浩久:
今までは生きた植物を扱うため、営業はホームセンターやスーパーマーケットに足を運ぶアナログスタイルが基本でした。園芸業界は、他の業界よりもデジタル化で遅れをとっていたのです。私は「時代の雰囲気をどれだけ把握し捉えられるか」が営業の鍵だと考えます。

今後は有益なWebコンテンツを活用する時代となり、営業スタイルもリモートなどのデジタルが主流になっていくでしょう。小売店だけでなく、インスタグラマーやYouTuberなどのインフルエンサーにもアプローチしていくなど、時代に合ったやり方で販路を広げていきたいと思います。

園芸に興味を持つ人を増やして緑のある生活をもっと身近に

ーー今後の展望をお聞かせください。

福田浩久:
数十年かけて会社の経営基盤を固めつつ、次世代を担える人材を育てていきたいです。園芸業界での会社の知名度を上げるとともに、日本独自のアイテムを海外へ展開する構想もあります。

身近な空間に一つでも植物を置いてもらえるきっかけを弊社がつくっていければと思います。SNS時代の弊害か、成功例が全てであり、失敗を極端に避ける風潮が蔓延していますが、私は「頑張った結果が失敗してもいいじゃないか」と思うのです。

水やりのタイミングを間違えて、植物を枯らす失敗はよくあることです。「自分はすぐに枯らしてしまう」とネガティブなマインドに陥らず、失敗を次の成功に生かす心意気で植物との生活を楽しんでみてはいかがでしょうか。

近頃は100円ショップにも観葉植物が並んでいます。手頃なものを買って、器を好きなデザインに変えるだけでも特別感が生まれるものです。そうした小さなきっかけが、人々の暮らしの癒しになり、園芸業界の発展にもつながることを願っています。

編集後記

とかく成功体験を追求しがちな現代。「失敗も楽しんでいこう」という福田社長のマインドに触れ、「生活に緑を取り入れてみたい」と感じた。渡辺泰が事業を通して蒔いた種が「園芸の入口」となり、誰かの日常を変えていくというストーリーにはロマンがある。同社が描くビジョンが園芸業界と人々の生活にどのような影響を広げていくのか、期待が高まる。

福田浩久/1975年、大阪府出身。1999年に大学を卒業し、渡辺泰株式会社へ入社。営業課長、営業統括部長、取締役などを経て、2024年4月に代表取締役社長に就任。