※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

2002年に東京で設立されたアッシュコンセプト株式会社。シンプルさの中に個性が光る「デザインカンパニー」として、生活用品を中心に多数のブランドを企画・製造し、国内外に展開している。代表取締役の名児耶秀美氏に、創業のきっかけやアイテムの魅力、今後の展望についてうかがった。

恩師との出会い、家業の立て直しを経て独自のデザイン観を確立

ーー経歴をお話しいただけますか。

名児耶秀美:
実家は、創業150年のブラシの製造業者です。次男の私は家業を継ぐ予定もなく、小さい頃から絵や工作が大好きなことからデザインの道へ進みました。武蔵野美術大学では、歌舞伎座の舞台など「人を楽しませる空間」について学べたことが面白かったですね。

在学時に高島屋でアルバイトを始めて、デンマーク出身のデザイナー、ペア・シュメルシュア氏に師事したことが転機となります。ショーウィンドウデザインと製品をコーディネートする仕事を通して、私はモダンで軽やかなデザインと、「デザインとはどうあるべきか」という心得を学びました。

ペア氏はショーウィンドウをより魅力的にするために、学生の僕にさえ意見をきいて、時には採用してくれる人でした。ボスの指示に従うのではなく、みんなで協力して良いものを生み出すスタイルに共感したことから、弊社もフラットなチームプレーで運用しています。

ーーその後の取り組みもうかがえればと思います。

名児耶秀美:
体調を崩した父の見舞いに行った際に「会社を手伝ってくれ」と頼まれ、経営が上手くいっていないことを知り、「これまで自由に生きてきたから親孝行しよう」という思いで家業に入りました。当時勤めていた高島屋の宣伝部は、円満退職した次第です。

家業は想像以上に家族経営で「企業」としては未熟でした。そこで私は、会社の入口にショールームをつくったり、昔の倉庫をペイントして企画室をつくったり、「デザインの力」で会社を変えていったのです。展示会やカタログのアプローチも変えたことで会社が注目され、百貨店で良い売り場をいただくこともできました。

つくれるものをつくるのではなく、「みんなが欲しいものを形にしよう」という考えから、「ケア」をコンセプトにしたブランドも誕生しました。売上が約40億円まで向上するなど、「デザインで会社は変わるのだ」と強く実感したものです。

ーー独立に至るきっかけがあったのでしょうか?

名児耶秀美:
日本では、良い仕事をしてもデザイナーがなかなか報われないと感じ、「デザイナーにフォーカスした生活用品ブランド」をつくりたいと考えました。家業が安定したこともあり、自分のやりたいことができる会社で、新しい事業にチャレンジしようと決めたのです。

私は、日本のデザインの力は世界一だと思っています。自己表現・自己主張であるアートに対して、デザインはユーザーのためのクリエイティブな仕事です。デザイナーの「アイデア」とユーザーの「欲しいもの」が結びついた時、本当に生き生きしたものがつくれることこそ、ものづくりの面白さではないでしょうか。

日本の心を込めたものづくりでペーパーレス・コーヒーフィルターがヒット

ーー貴社が大切にしていることを教えてください。

名児耶秀美:
「hello」「happy」「ha ha ha」という、「h」から始まる3つの言葉を大切にしています。
「値段が安い」という理由で購入したアイテムを、あまり使用しなかった経験はありませんか。私は、「ちょっと高いな」と思う敷居を越えて、価値を理解した上で購入したものほど大事にできると考えています。

「安さ」を重視するより、品質に見合った価格設定をして、作り手も含めてみんなでハッピーになるべきです。みんなで一つの目標に向かえれば、社会的な価値も生まれることでしょう。

ーー取り扱い商品もアピールいただければと思います。

名児耶秀美:
今までおよそ110のブランド・6000以上のプロダクトをつくり上げてきました。自社ブランドの「+d(プラスディー)」は、世に出せずにいたデザイナーの優れたアイデアを「僕らが世界に届ける」というコンセプトから誕生しました。他にも、いろいろな企業や産地と協力して、多彩なブランドを展開しています。

近年力を入れているアイテムは、「cerapotta(セラポッタ)」というセラミック製のコーヒーフィルターです。「多孔質」と呼ばれる細かい無数の穴があることで、抽出したコーヒーはなめらかな舌触りとなります。サステナブルなだけでなく、紙特有の臭いがなく、香りや深みの元となる豆の油分もそこなわれないこともペーパーレスの魅力ですね。

ハンドメイドなので大量生産は難しいものの、世界各国のバリスタやコーヒー愛好家に興味を持っていただき、売上の8割が海外輸出となっています。

ーー商品に込めた思いについてもお聞かせください。

名児耶秀美:
私たちは「道具」ではなく、「コーヒーのある楽しい暮らし」をデザインしたと言えます。たとえば、昔の日本家屋にはゴミ箱がありませんでした。ボロボロになった衣服は床に敷き、捨てる部分がないほど使い倒したのです。

土地が限られた島国ゆえに発展した、日本のものづくりや生活・文化は、世界中の人に注目されています。お手入れすることで半永久的に使える「cerapotta」も、現代人が忘れてしまったものの大切さや発想を世界に届けられるアイテムの一つです。

スピード感のある挑戦&リカバリーを続け、個性派ブランドを続々展開

ーー今後の展望をお話しいただけますか。

名児耶秀美:
これからも、デザインで社会を元気にできる「個性的な会社」でいたいと思っています。「すべての人がお客様である必要はない」というペア氏の教えのもと、ターゲットを絞ったブランドのコンセプトをつくり、だからこそ「本当に好きなお客様に選んでいただける」という形がベストです。

アッシュコンセプトの「デザイン」は製品が売れてからが始まりで、お客様の声や製品の使われ方を反映しながらブラッシュアップを重ねてきました。人々の「暮らし」や「声」を知るためにも、お客様とコミュニケーションをとれる対面販売に注力し、買い物の面白さをより伝えていくつもりです。

時には失敗することもあるかもしれません。ですが、きちんとリカバリーさえできれば「失敗」は勉強の機会になります。これからも「80点でいいから行動してみよう」というマインドで挑戦を続けていきたいですね。

編集後記

アイテム数とともにお客様が増えていく中でも、地に足をつけながら独自の価値観を大切にしているアッシュコンセプト。企業の軸がブレないからこそ、多数の消費者の声に翻弄されることなく、本当に拾い上げるべきファンのニーズに気付けるのだろう。失敗を恐れずに挑戦できる環境から、世の中を「ha!(はっ)」とさせるデザインが生まれ、使う人が「ha ha ha」と笑顔になる商品が生まれる。

名児耶秀美(なごやひでよし)/1958年生まれ。武蔵野美術大学造形学部を卒業。デンマーク出身のデザイナー、ペア・シュメルシュアのもとでデザインアシスタントを経験。その後、株式会社高島屋の宣伝部や、株式会社マーナの専務取締役企画室長として、経営・商品開発・プロデュース・マーケティング・デザイン戦略に携わる。2002年にアッシュコンセプト株式会社を設立、代表取締役に就任。