※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

レーザープリンターや光通信、しみの除去や目の治療など、世の中にあふれる光・レーザー技術。そのレーザー界のプラットフォーマーとして存在しているのが、今回紹介する株式会社光響だ。高い技術力で独自のレーザー商品を数多く生み出し、国内最大級のレーザー専門メディア「Optipedia」をオンライン上で運営している。

同社の代表取締役CEOを務めるのは、長年レーザーの研究をおこなってきた住村和彦氏だ。博士号とMBAを取得した研究者である同氏が、なぜビジネスの道に踏み出すことになったのか。経営者になることを決意した背景、上場へのプロセス、そしてレーザー技術を通じて実現したい未来についてのインタビューを行った。

「速いもの」を突き詰め踏み出したレーザー研究者への道

ーー経営者を志した経緯を教えてください。

住村和彦:
学生時代からジェットコースターやスポーツカー、へヴィメタルのような速いテンポの音楽など、本質的に「速いもの」が好きでした。速さを突き詰めると「光」に辿り着き、その最先端であるレーザーを学ぼうと思い、研究の道に進んだのです。

研究を進めていく中で感じたのが、「日本でこのまま研究を続けていても先が見えない」ということでした。アメリカの研究者はビジネスを立ち上げ自ら研究費を生み出していますが、日本では税金によって費用が捻出されており、大企業や大学での研究費は減る一方でした。私の研究はビジネスになり得るテーマだと感じたので、1年間準備をした後に会社を立ち上げました。

ーー国内で博士号とMBA(経営学修士)を取得し、なおかつ上場企業の創業社長というのは、かなり貴重な存在ではないでしょうか。

住村和彦:
日本では研究者がビジネスを立ち上げるというのはめったにないことなので、そこに対しても危機感を持っていました。私の父も祖父も自営業者で起業家という家庭環境もあり、「自分で稼ぐ」という意識が当たり前にあったことが起業に踏み出せたきっかけだと思います。

研究者が企業すれば世の中はもっと活性化するはずなので、日本の研究者のロールモデルとなれるよう今後も精進していきます。

サービス業、商社業、メーカー業を経て、念願の上場へ

ーー研究の道からビジネスの世界に踏み込み、どのように事業を展開したのですか?

住村和彦:
起業時には博士論文を書くために多くのレーザー関連情報を持っていて、これらを広めることに強い意欲がありました。そのため、初めに技術コンサルティングやセミナーといった無形資産の提供を行うサービス業をスタートしたところ、技術コンサルティングで初年度に30万円の売上を捻出できました。

その後、レーザー機器を販売するためメーカー業の展開を考えましたが、土地や部品の購入が必要ですぐに取りかかれば赤字になることが目に見えていました。そこでまずは業界として黒字で売上げも伸びている商社業に目をつけ、研究者時代の人脈を活かしレーザー専門商社として事業を展開しました。

その後、商社とメーカーの中間のような業務をおこなうようになりました。1000万円ほどのレーザー製品をプラモデルのように組み立てて完成させる仕組みで、マニュアルと一緒に部材を100万円ほどでお客様に納品するのです。そうしたビジネスモデルをきっかけに売上も伸びてゆき、事業が安定してきました。

ーー事業を続けてこられた中で、特に感動したエピソードを教えてください。

住村和彦:
創業以来、連続で増収していたのですが、2021年度の第三四半期末の段階で、「あと3ヶ月で前期売上の約40%必要」という過去最大の試練が訪れました。

社員の意識改革を組織的に強くおこなったことで、結果として連続増収記録は維持することができました。翌年には大幅に売上を増進することができ、安堵とともに感動した出来事でした。

ーーその後も貴社独自のレーザー機器の開発・販売を続け、昨年上場をされていますね。上場にはどのような思いがあったのでしょうか?

住村和彦:
私はよく起業家の本を読むのですが、稲盛和夫氏をはじめ、世に語り継がれる著名な経営者というのは、若くして上場企業をつくりあげてこられた方が多いと思います。尊敬する彼らに少しでも近づき、人間力を高めることができる最短の道が上場だと感じ、その道を進むのに迷いはありませんでした。

2009年の弊社創業時、気になる会社が約7年で上場していたことを知り、「弊社も7年で上場しよう」という目標を立てましたが、売上が伸び悩み、それは叶いませんでした。管理体制の強化をおこない経営の効率化をしたことで、2023年には東京証券取引所のTOKYO PRO Marketに無事に上場を果たすことができ、弊社としては上場をひとつのターニングポイントにすることができました。

レーザーの無限の可能性を切り開き、社会を豊かに

ーー数ある貴社の商材の中でも、今後特に注力していきたいものは何ですか?

住村和彦:
現在レーザー市場は、主にレーザー加工、光通信、その他医療・軍事・研究開発などの3つで占められています。弊社としてはレーザー加工の分野に今後も注力し、数千数万とあるレーザーのアプリケーションをより増強していきます。

光通信についても徐々に着手していこうと画策しており、5Gや6Gに対応した光通信の部材を弊社のオンライン上のレーザー光学製品サイト「Optishop」に掲載していく予定です。新たに通信事業をおこなう企業向けに提供していくことになりますが、通信会社とは別途レーザー商品でのお取引などもあるため、そういったつながりから横展開をしていければと考えています。

ーーレーザー技術を極めた先にある、最終的な目標を聞かせてください。

住村和彦:
レーザーというのは、1960年に発明されて以来、光通信、レーザー加工、レーザー医療など、実に多種多様な用途で使用されてきました。私自身、長年レーザーの研究をしてきて、「世界のすべてをレーザーで覆い尽くしたい」という思いで会社を立ち上げたのです。

最終的には、レーザーによる核融合を再現できれば、ほぼ無限のエネルギーを生み出すことができるため、そこから環境問題の解決などにもつなげていきたいという夢を持っています。「光・レーザー技術で社会を豊かに」という経営理念の基、今後もレーザーの無限の可能性を切り開いていきます。

編集後記

一心にレーザーへの情熱を語ってくれた住村社長。今後の課題を尋ねると、「社長不要化」がひとつのゴールだという。上場までほぼ全ての意思決定を社長1人でおこなってきた分、後継者の育成を兼ねて現場の人間に判断を委ねることがさらなる発展への鍵となるようだ。

より社内体制が強化された同社によってどのようなレーザー技術が生み出されるのか。今後の活躍に注目していきたい。

住村和彦/1979年生まれ、広島県出身。2007年、大阪大学大学院工学研究科電気工学専攻にて博士号を取得後、同研究科生命先端工学専攻特任研究員に就任。在籍中の2009年4月、合同会社光響を設立した。2011年7月、株式会社光響へ組織変更し、代表取締役社長に就任。