半導体・電子部品事業は高度な技術や専門的な知識が必要で、時代の変化に適宜順応していく必要がある課題の多い業界だ。
そんな業界において、国内のみならず海外でも顧客のニーズに応え続ける佐鳥電機株式会社。今回は、代表取締役社長執行役員の佐鳥浩之氏から、その企業理念や今後の展望について話をうかがった。
起業から海外に市場を広げるまで
ーー起業のきっかけと企業理念について教えてください。
佐鳥浩之:
弊社は、1947年に日本電気株式会社(以下「NEC」と表記)と住友電気工業株式会社の販売代理店としてスタートしました。今年で創業77年になります。創業当初から、「貿易」「技術」「製造」を経営の3つの柱とし、基本方針として経営を行ってきました。
ーー貴社の強みを教えてください。
佐鳥浩之:
1つは『傾斜センサ』、『Leakele(絶縁監視装置)』など、これまで培ってきた技術をベースに自社企画製品をつくれることです。
もう1つの強みは、海外事業です。特に海外事業において同業他社と違うところは、台湾では台湾企業、韓国では韓国企業といった現地企業との取引関係によって現地子会社が経営されていることです。日系の海外進出企業ではなく、現地のお客様から支持をいただいていることが強みです。
私たちが海外での事業に強いのは、創業から約20年後の1968年に台湾に駐在員を送り、1973年には台湾に支社を設立するなど、海外へ進出したのが早かったこともありますが、理由はそれだけではありません。
日本の文化も弊社の文化もしっかり理解した現地の人材をトップに置いて、現地社員がより活躍できる運営を心がけたことが、成功している理由の一つではないかと考えています。
ーー同業他社との決定的な違いを教えてください。
佐鳥浩之:
当社のお客様のほとんどは製造メーカーです。まず、お客様の会社と製品に関する知識を理解していることが一丁目一番地であり、更に取扱製品知識は当然のこととして、無線技術を始めとして多岐にわたる技術・知識を持っているところです。
創業当初から技術・製造を重要視していましたので、開発の時点からお客様目線で考えることができます。
取扱製品への理解が深いため、それに伴いコストも削減できます。設計・製造管理だけ請け負う、設計から生産まで一貫して請け負うなど、小回りが利くのも魅力の1つではないかと自負しています。
日本の電子産業の歴史から自社の課題を読み解く
ーー日本の電子産業について教えてください。
佐鳥浩之:
日本の半導体・電子部品事業は1980年代から90年代が全盛期でした。NECだけではなく、三菱・日立・東芝などの半導体メーカーにより、日本のエレクトロニクス産業はより勢いを増し、1992年のバブル崩壊後も電子産業は伸び続けて、90年代後半が日本のエレクトロニクス産業の全盛期だったのではないでしょうか。
そして、2000年代が成熟期となるはずでした。しかし、2000年代の中盤にiPhoneが販売され、日本の強みを発揮できたアナログ技術とデジタル技術をうまく組み合わせて商品をつくっていた時代から、完全にデジタルの時代になりました。
ちょうどこの時期に円高の影響もあり、日本メーカーが海外生産を大幅に拡大したのですが、その頃から中国メーカーや韓国メーカーの台頭があり、日本のエレクトロニクス産業の競争力低下が始まりました。
この時の経験で当社が競争力を維持するためには、時代の変化に合わせて自社の強みを活かしながら変革していくことが必要なことであると知りました。
ーー事業を成長させるために必要なものはなにか教えてください。
佐鳥浩之:
グローバル市場における人的資本を充実させることだと思います。新しいことを探索したり、挑戦したりする人を1人でも多く輩出したいです。
成功や失敗にこだわるのではなく、まずは新しいことに取り組む姿勢を評価していきます。それだけではなく、挑戦する役割の社員も、そうではないポジションの社員も仕事の難しさはそれぞれ違うので同じ物差しで評価できるよう、社内の人事制度を中心に作り直しています。
時代に合わせた企業改革と展望
ーー貴社の今後について教えてください。
佐鳥浩之:
ソリューションについては、人協働ロボットソリューションなど、社会課題の解決に貢献するものを一層増やしています。そしてハードウェアを中心としたモノ売りは勿論のこと、サービスや使用料を頂戴するサブスクリプションを例とする、コト売りなどの新しい取り組みにも挑戦していきます。
そのために、当社を2030年までに「サステナビリティソリューションカンパニー(お客様と社会課題を解決する企業)」に変革する宣言をしました。それに伴い、社員の意識改革も今現在行っています。
ーー意識改革のための具体的な取り組みを教えてください。
佐鳥浩之:
半導体やデバイスそのものが「省電力」「安全」「快適」という点において、すでにサステナビリティなので、会社として活動はできていると思っています。しかし、社員のマインドにはなかなか繋がらないので「半導体・デバイス=サステナビリティ」ということが社員に浸透するような活動を積極的に行っています。
ーー企業としてどのように成長していきたいか教えてください。
佐鳥浩之:
2030年までの長期目標として「モノ売りからコト売り」の事業の事例を少しでも増やす取り組みを行なっています。
例えば電気設備の漏電監視装置『Leakale』はさまざまなデータが取れるので、漏電の監視だけでなく、そのデータを収集・分析することでお客様の予防保全に役立てることができます。
「佐鳥電機なら何か新しいことを行ってくれる」とお客様に思って頂ける、そういった機能価値をしっかり出していきたいと考えています。さらには、2030年までに今の時価総額の倍を目標に、会社を成長させたいと思っています。
編集後記
常に前を向いて新しいことを考える姿勢を忘れない佐鳥社長。国内のみならず海外情勢にも目を配り、企業として成長する努力を怠らない。
創業から77年目になっても、当初の企業理念を大切にし続ける佐鳥電機に今後も注目していきたい。
佐鳥浩之(さとり・ひろゆき)/1966年生まれ。成蹊大学卒業後、1989年日本電気株式会社に入社。その後、1995年に佐鳥電機株式会社に入社。国内営業を担当。2002年に取締役に就任、以来、海外事業経営ならびに国内事業経営に従事。2007年に常務、2011年に専務執行役員、2012年に副社長を経て、2013年6月、代表取締役社長に就任。