1894年に、日本海軍が使う水雷発射照準器用宝石加工に成功し、現在に至るまでさまざまな精密加工製品の製造を手がけるオグラ宝石精機工業。豊富なものづくりの経験を持ち、専門性の高いスタッフにより、顧客の多様なニーズに応え続けている。
そんな同社の代表取締役社長、小倉教太郎氏が社長になって特に意識したのが「プライドを捨てること」だという。1世紀以上の長い歴史を持つオグラ宝石精機工業の強さとは一体何なのか、小倉氏に経営者の哲学を聞いた。
すぐに諦めず「どうしたら製品にできるのか」を追求する
――貴社の事業や製品について教えてください。
小倉教太郎:
弊社が行っているのは、ダイヤモンドやサファイアなど超硬度のものを磨いて加工する事業です。放電加工機用ガイドやサファイアウォータージェットノズルなど、主に精密なものをつくっています。あまり目立つ製品ではありませんが、弊社の製品がなければ液晶画面などは完成しません。
国内に競合となるような企業はあまり多くありませんが、中国などの海外勢は安く量産することが得意ですから、弊社では精度で負けないのは当然、価格でも負けないようにと思っているところです。
――他社に負けない貴社の強みは何だと思いますか。
小倉教太郎:
お客様から図面をもらったとき、製品にできるかどうか判断しにくいケースが少なくありません。そういったときでも弊社はとにかく諦めず、お客様に徹底的にヒアリング・相談しながら、どうにか製品にできる道を探すようにしています。そのほか個別で1、2個だけ製品をつくることもできますし、量産もできるのが強みですね。
弊社では、お客様から依頼されたものをどうしたらつくれるのか、日頃から試行錯誤しています。1つ1つの製品が簡単なものではないですし、簡単でないものをつくるのが私たちの日常です。チャレンジ精神は他社よりも優れていると評価いただいております。
社長就任後に意識したのは不要なプライドを持たないこと
――小倉社長は1979年に貴社へ入社して、2006年に社長に就任されています。入社から社長に就任されるまで、どういった経験をされてきたのでしょうか。
小倉教太郎:
製造や生産管理、営業などを経験しました。特に生産管理のときに、商品の技術を覚えたり、対外交渉をしたり、いろいろな経験ができて、このときの経験は営業に行ってからも活かすことができました。製造の知識については、勉強会に参加したり、お客様に教えてもらったりしながら身に付けました。
――社長に就任されてからは、どういった点を意識するようになりましたか。
小倉教太郎:
社長になって1番強く意識したのは、プライドを持たないということです。くだらないプライドは捨てて、知らないものは知らないと言うことですね。社員に「教えて」と平気で言えることも大切ですし、分からないことは任せることも大切です。
ただし、勉強をしなくて良いというわけではありません。たとえば社員たちには「自分は営業だからといってものづくりの勉強をしなくていいわけではなく、たとえ営業でも製造の勉強はしないといけない」と伝えています。
中長期的な目標を見ながらも短期で軌道修正することが大切
――貴社の今後のビジョンなどがあればお聞かせください。
小倉教太郎:
今後は中国やインド、アフリカなど安価に商品を製造・販売できる国が競合になってきますし、そんなときに値段を上げれば生き残れないと思っています。
この問題に対してはコツコツとものづくりを続けていくしかないのですが、その中でもやはり軌道修正をしていくことが大切です。中長期的な目標を見ながらも、単年度で常に修正しながら、方向性が大きくぶれないようにしていく必要があります。
――新技術の開発にも力を入れたいとうかがいましたが、その点はいかがでしょうか。
小倉教太郎:
新しい分野に参入していけたらなと考えています。あまりにも異なる分野だと失敗する可能性が高いので、弊社の技術を活かせる新分野へ挑戦していきたいですね。
意識を持つから知識と知識がつながる
――ものづくりをするうえで社員たちに意識してほしいことなどはありますか。
小倉教太郎:
私はものづくりをするうえで、技術や機械について勉強して知識を付けるだけでなく、問題意識を持つことが大切だと思っています。学んだことについて問題意識を持つから、知識と知識がつながって「これはこうなっていたんだ」と腑に落ちる。勉強することはもちろん大切ですが、知識を活かすためにはまず問題意識を持つことが重要です。
――貴社ではどういった人材が活躍しやすいでしょうか。
小倉教太郎:
弊社はメーカーですから、ものづくりが好きな人、ゼロから何かを生み出すのが好きな人が向いているのではないでしょうか。たとえ営業でも、製品についてお客様から質問されたときに対応できなければなりませんので、弊社では営業の社員も現場に学びに行きます。
そういった面で弊社は、業種問わず幅広い業務を経験できるのが良いところですね。弊社で技術職をしている社員も「幅広い技術に関われるから楽しいし、やりがいがある」と言ってくれました。
もちろん社員たちにはこれからも弊社で働き続けてほしいですが、弊社ではいろいろな経験を積めるので、もし社員たちが転職市場に出たらきっと引く手あまたなんじゃないかなと思っています。
編集後記
「プライドを持たないことを意識している」という小倉社長。実際に小倉社長が「分からないから教えてくれ」と社員に言うことで、社員と社長がお互いに気をつかわずに済むような関係性ができあがっているとのこと。
顧客や社員との良好な関係を築くためには、余計なプライドを持たないこと、そして常に勉強をし続けることなのだと小倉社長から学ばせてもらった。
小倉教太郎(おぐら・きょうたろう)/1956年生まれ東京都出身。1979年に慶應義塾大学商学部を卒業し、同年にオグラ宝石精機工業株式会社へ入社。2006年に同社の社長に就任。