※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

1921年の創業以来、日本の文具業界をけん引してきた株式会社サクラクレパスは、「教育・文化への貢献」を社是に掲げ、「クレパスⓇ」など、さまざまな製品を提供し続けている。これまでクーピーペンシルⓇや、マット水彩Ⓡなどを開発し、誰もが知る製品で教育現場を豊かにしてきた。教育現場にとどまらず、ビジネス・医療・家庭など幅広い分野への販路の拡大にも意欲的だ。

「色彩による豊かな生活を」と語るのは、代表取締役社長の西村彦四郎氏。今回は西村社長に、会社に対する思いとこだわり、そして今後の戦略についてうかがった。

現場の視点が育んだ経営手腕

ーー社長就任までの経緯を教えてください。

西村彦四郎:
入社してまず大阪エリアで営業に配属され、文具店を一軒一軒訪問していました。その後、営業企画として東京勤務になり、さまざまなデータの分析に取り組んだあと、本社のマーケティング部に配属されました。その後、営業企画本部長、営業本部長を経験し、社長に就任しました。

弊社は同族企業ですが、私は直系ではないこともあり、社長になるとは全く思っていませんでした。だからこそ社員としての視点を持ち続け、社員の立場から会社を見ることができたのです。今となっては、その経験が会社経営に役立っていると思います。

ーー社員時代に取り組んだ企画について教えてください。

西村彦四郎:
当時、最も会社に貢献できたと感じているのは『エデュース』という通信販売を立ち上げたことです。アスクルがオフィス向けのカタログ通販を始めたのを見て、それを弊社では学校向けに展開できるのではないかと考え、企画しました。営業からの大反対がありスタートが遅れましたが、始めてからは順調に進み、大きく売上を伸ばし成長させることができました。

「自由画教育」の啓蒙 創業精神を誇りに未来へ

ーー社長就任時に、貴社の歴史について印象深い話をされたとうかがいました。

西村彦四郎:
大正時代、美術教育の中で子どもたちはもっと自由に表現するべきだと、山本鼎(かなえ)氏が「自由画教育運動」を提唱されました。その山本鼎氏から安価で品質の良いクレヨンを作ってほしいという要望を受け、クレヨンの製造を開始したのがサクラクレパスの始まりです。

当初のクレヨンは硬くてすべりやすく、色着きも悪かったため表現にも限界がありました、そこで、クレヨンとパステルのいいとこどりをしたクレパスⓇを開発・製造しはじめました。

当時のセールスは製品を売るのではなく、自由画教育運動を広める啓蒙活動をしていました。今の子どもたちが、クレヨンやクレパスⓇで絵を描くという当たり前の文化が定着しているのは、当時の創業メンバーが運動を広めていったからこそです。

ーーその歴史を踏まえ、社長としてどのような思いで舵取りに臨んでいますか。

西村彦四郎:
就任当初、社員がより自由に意欲的に働ける風土をつくろうと強く思いました。上意下達ではなく、自分で決めて物事を進めていくことで、仕事への責任感が生まれてくるものです。

社員たちには「私たちはこの国を豊かにする会社のひとつである」と、会社と仕事に誇りを持ってほしいと思っています。そのために、失敗を恐れずにチャレンジしてほしいと、日々のコミュニケーションの中で伝えるようにしています。

成長と効率、そして人を大切にする経営ビジョン

ーー今後のビジョンについてお聞かせください。

西村彦四郎:
私たちが掲げる戦略は、大きく3つの柱から成り立っています。1つ目はグローバル展開を軸とした成長戦略です。海外市場のさらなる拡大を図るメーカービジネスと、教育現場のさまざまな課題を解決し、新しい企画を提案するソリューションビジネス。この両輪で新たな成長を目指します。

2つ目は、生産性向上をメインにした効率化戦略です。具体的には、社員の数は変えずに生産性を向上させ、その成果を給与に反映させることです。私は「企業の成長は社員の幸せなくしてありえない」と考えています。社員一人ひとりが経済的に豊かであることが、幸せにつながると考え、そのための施策を考えています。

最後は組織基盤の充実化を図るための戦略です。弊社は性別による処遇の差はありませんが、育児や介護との両立支援はもちろん、柔軟な働き方を可能にする制度の整備を進め、誰もが長く活躍できる職場づくりに取り組んでいます。

ーー新商品の開発ではどのようなものがありますか。

西村彦四郎:
弊社は長年、子ども向けの画材メーカーというイメージが定着していました。しかし、多様なニーズに応えるため、新たなブランドを展開しています。その象徴が、2017年にスタートした『SAKURA craft_labⓇ(サクラクラフトラボ)』で、全世代に向けた筆記具を販売しています。

また、育児中の女性社員の企画から生まれた『こまごまファイル』は、こまごまとしたものを出し入れしやすいファイルです。子ども向けに作りましたが、大人でも使いやすい収納用品としてSNSやテレビで取り上げられ、好評をいただいています。

ーー文具業界の課題と、貴社の施策を教えてください。

西村彦四郎:
この2年ほど、原材料の価格上昇で売上が厳しい状況にあります。販売価格を上げれば売上は増えるのですが、販売数量が減ることが課題です。そこで、高価格、高付加価値の商品に注力し、ブランド価値を高め、収益性の向上を目指しています。

学びと謙虚さが生む新たな視点

ーー大切にしている理念についてお聞かせください。

西村彦四郎:
「君子は諸を己に求め、小人は諸を人に求む」という言葉があります。これは自分への戒めであり、自責の念を持って仕事に取り組むことを社員にも伝えています。自分にできることは何かを考えて行動することで、自己の成長、ひいては会社の成長につながると考えています。

もうひとつ、「学びて思わざれば則ち罔(くら)し」という言葉もあります。ベテランになると考えが固まりがちですが、学ぶときは常に謙虚な姿勢を持ち、そのうえで自分で考えることが大切だと思っています。

ーー最後に、これだけは伝えたいというメッセージをお願いします。

西村彦四郎:
実は入社後、20代半ばで病気を患いました。20代という楽しい時期に病気になり、つらい経験でしたが、今となっては大きな財産です。入院中に暇を持て余し、たくさん本を読んだことによって、謙虚な気持ちを養うことができました。どんなに悪い出来事でも、それは必ず良い結果につながると信じて頑張ってほしいと思います。

編集後記

会社の長い歴史に誇りを持ち、社員にその意義を伝える西村社長。社員の幸せを思い、声を上げやすい環境づくりを進める姿勢からも、社員を大切に考えていることが伝わってきた。また困難に直面しても、いつかは乗り越えられると信じて歩み続ける姿に、勇気をもらった社員も多いだろう。

それぞれが責任を持って仕事に取り組み、挑戦を恐れずに前進し続ける株式会社サクラクレパス。これからどのような未来を切り開いていくのか、今後のさらなる成長を期待せずにはいられない。

西村彦四郎/1955年、兵庫県生まれ。1979年に成蹊大学法学部を卒業後、株式会社サクラクレパスに入社。取締役営業企画本部長、常務取締役、専務取締役を経て2014年、代表取締役社長に就任。