※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

「バイオベンチャー」という言葉をご存知だろうか。バイオテクノロジーを用いて医療や産業の発展につながる先端技術を研究、開発するベンチャー企業のことである。

株式会社ステムリムは、その1社であり、画期的な新薬の開発で業界の注目を集めている。

今回は、株式会社ステムリム代表取締役社長CEOの岡島正恒氏から、バイオベンチャー企業に携わることになった経緯、開発している新薬、さらにはベンチャー企業の社員として持つべき大切な考えについてうかがった。

証券マンからバイオベンチャー企業の社長に!

ーー大学卒業後のキャリアと、バイオベンチャー企業に関わるまでの経緯を教えてください。

岡島正恒:
卒業して住友銀行(現三井住友銀行)に5年勤めた後、証券会社でインベストメントバンカー(金融業界で顧客にコーポレートファイナンスのサービスを提供するプロフェッショナル)として10年勤務しました。

顧客の投資先にオンコセラピー・サイエンス株式会社という東京大学医科学研究所発のバイオベンチャー企業があり、当時、同社の社長だった冨田憲介氏が、メディシノバ・インクの社長である岩城裕一先生を紹介してくださいました。

そして、メディシノバ社が日本の証券取引所の次にアメリカのナスダックに上場するタイミングで、岩城先生から「一緒に働かないか」と誘っていただきました。そこで、証券会社を辞めて執行役副社長という立場でメディシノバ社に入社しました。

ーー金融業界からバイオベンチャー業界に転身したときの状況やお気持ちをお聞かせください

岡島正恒:
メディシノバ社は、上場はしているものの、従業員数20名程の小さなアメリカのバイオベンチャーであることから周囲からは反対もされました。しかし、治療法のない病気に苦しむ患者さんを、創薬ベンチャーの経営に携わり救いたいという思いが強かったので、反対を押し切って転職しました。

アメリカの会社で執行役になれば、得意でない英語も必然的に勉強するだろうし、自分を追い込んでみようという気持ちもありました。

ーーメディシノバ社副社長から貴社の社長になった経緯をお聞かせください。

岡島正恒:
メディシノバ社で副社長を12年半務めた頃、当時ステムリムの社長になっていた冨田憲介氏から連絡があり、「ステムリム社を上場させようと思っている、次の社長になってほしい」と言っていただきました。

証券会社の業務では、リスクを自分で背負うことはほとんどなかったため、自分で会社を動かしてみたいと思い、ベンチャー企業に飛び込んだ総仕上げとして代表取締役社長になりました。

画期的な開発新薬「再生誘導医薬®」の無限の可能性

ーー貴社の事業内容について詳しく教えてください。

岡島正恒:
弊社は「再生誘導医薬®」というものを開発しています。これは世の中に全くない新しいコンセプトの医薬品です。

再生誘導医薬®とは、「化学合成された医薬品を投与して生体内のメカニズムを活性化することにより、再生が行える画期的な新薬」のことです。たとえば、繊維化して硬くなった肝臓を修復し再生能力を発揮できるように薬で誘導する。このように、薬で体の再生機能の活性化を促すことが再生誘導医薬®のコンセプトです。

身体の外で細胞を培養して増やし、再び身体に入れるなどの人工的な方法とは異なり、生体内のメカニズムを最大限利用することで、薬で臓器・組織などの再生を誘導するだけです。したがって、免疫拒絶のようなリスクを回避できます。

既存のコンセプトの医薬品に似た、より優れたものをつくるのは簡単ですが、世の中に全く存在しない新しいものを生み出す場合、「そんな都合のいい話が本当にあるのか?」と、最初はみんな疑うかもしれません。

しかし、再生誘導医薬®は、将来的に対応できる病気、領域に関して幅広い可能性があるのです。たとえば癌は治せなくとも、身体内でダメージを受けている臓器、具体的には肝臓、皮膚、脳などに再生誘導医薬®の可能性が見込まれています。

ーーベンチャー企業に必要とされる人材について教えてください。

岡島正恒:
現状に問題点や改善点を見つけ出し、解決しようというチャレンジ意識のある方です。

特に、ベンチャー企業は、問題にぶつかるのが当たり前なので、その問題をクリアするためのソリューションを常に自分で考えることが必要です。誰かの指示待ちでは駄目なのです。

また、今日できることを明日に先送りしてはいけません。たとえば、報告をためらうトラブルも、大きなトラブルにならないうちに対処すべきです。

とにかく、スピード感が大事です。スピードは、ベンチャーが大企業に勝てる重要な要素です。チャレンジ精神や自主的な解決意欲を持っている人と一緒に働いていきたいと思っています。

編集後記

病気に苦しむ患者を救いたい気持ちで証券マンからバイオベンチャー企業に転身した岡島社長。

ベンチャーならではのチャレンジ精神とスピード感を武器に新薬の開発を実現し、世界をリードするバイオベンチャーになってほしい。これからも株式会社ステムリムの挑戦に注目だ。

岡島正恒(おかじま・まさつね)/1991年株式会社住友銀行(現三井住友銀行)入行。1996年住友キャピタル証券株式会社(現大和証券株式会社)、1999年大和証券SMBC株式会社(現大和証券株式会社)にて従事。2006年メディシノバ・インク執行役副社長・東京事務所代表。2019年3月より株式会社ステムリム代表取締役社長に就任。2020年8月代表取締役社長執行役員を経て、2023年10月より代表取締役社長CEO就任(現任)。東京理科大学理工学部経営工学科卒。