人々の生活に欠かせない産業資材を提供する1890年創業の老舗メーカー、小泉製麻株式会社。創業以来、時代の変化に合わせた産業資材を世に送り出してきた同社は、今や農業、土木、食品など幅広い分野で存在感を示している。その製品ラインナップの広さは、同規模の企業の中でも群を抜いているという。
「ハイテクではなく、スパイスの利いたローテクな製品で世の中に貢献する」。そう語る7代目代表取締役社長の小泉康史氏は、既存の枠にとらわれない新たな市場開拓と製品開発に挑戦し続けている。さらに、サプライチェーン全体の笑顔を目指すという経営哲学を掲げ、持続可能なビジネスモデルの構築にも取り組んでいる。
元バックパッカーの社長が率いる小泉製麻は、どのようにして産業資材の未来を描いているのか。同社の魅力と挑戦について、小泉社長にお話をうかがった。
バックパッカー経験から培った「とにかく行動してみる」精神で経営に挑む
ーー幼い頃から代々続いてきた家業を継ぐことを想定していたのですか?
小泉康史:
実は、そのような考えは全くありませんでした。今の会長である父はもともと東京で公務員をしていましたが、母方の祖父から「家業を手伝ってほしい」と頼まれたのをきっかけに小泉製麻に入社し、その後社長になりました。私も20歳から小泉家に入り、小泉姓を名乗ることになりましたが、末っ子だったこともあり、家業を継ぐことを意識したことはありません。また、周囲からそのようにいわれた記憶もありませんね。
大学を卒業した後は、バックパッカーとしてヨーロッパやアメリカを自由に旅していました。ところがあるとき、父から「うちの会社に入れ」といわれて、入社することになったのです。
ーーバックパッカーとしての経験は、現在の経営にも生きていますか?
小泉康史:
その経験から得た学びはありますね。言葉が通じない世界でも、前に進もうとする強い意志を持てばなんとかなるのだと気づきました。たとえば、ある日お酒を飲みに行った際、言葉が通じなくても、心が通じ合い、一緒に笑い合うことが出来ました。言葉の壁を超えて仲間になれるという経験を通して、「まずは動いてみること」がいかに重要かを実感しました。
これは経営にも通じるものがあります。リスクを完全に避けてから行動を起こそうとすると、機を逃してしまいます。ビジネスにおいては、ある程度の確信が持てた時点で、素早く行動に移すスピード感が大切だと考えています。失敗もしましたが、行動し続けたからこそ今の自分があるのだと思いますね。
「ローテクにスパイスを利かせた製品」で、多様な産業を支える
ーー貴社の事業内容について教えてください。
小泉康史:
弊社は産業資材メーカーとして、人々の生活を支える様々な資材をつくっています。たとえば、「住」に関しては、家の基礎や河川の堤防、道路舗装などに使われる土木資材です。「食」の分野では、農業資材を中心に、効率良くトマトやイチゴを生産するための資材などを開発しています。また、業務用液体容器も主力製品の一つで、食品メーカーや調味料メーカー向けに、原料や製品を安全かつ利便性よく運ぶための容器を提供しています。
弊社の製品は目立つ存在ではありませんが、人々の生活を円滑に支える縁の下の力持ちとして機能しています。お客さまのニーズに応じた資材を開発し、必要とされるものを届ける、いわば動脈のような役割を果たしているのです。ハイテクな製品が注目されている現代にあっても、弊社はスパイスの利いたユニークなローテク製品で、世の中に貢献していくことを目指しています。
ーー貴社の強みはどのようなところでしょうか?
小泉康史:
弊社の強みは、多様な業界に対応できる総合力と滋賀と大阪の岸和田にある工場の技術力です。また、多数の協力会社とのパートナーシップも大きな強みですね。自社製品に加え、協力会社との連携で製品を組み合わせることで、多様なニーズに応えられます。この「小泉製麻なら何とかなる」という安心感が多くのお客様の信頼につながっているのではないでしょうか。
また、製品のラインナップも非常に多岐にわたっています。農業資材や梱包資材、土木資材など、同じような規模の会社の中では、弊社の製品ラインナップの広さは自信を持って誇れるものだと思います。
サプライチェーン全体の笑顔を目指し、持続可能な未来を描く
ーー現在、注力している分野についてお聞かせください。
小泉康史:
新たな市場の開拓です。弊社の製品が最も効果的に使われる場所を見つけ出し、その製品にとって最適な商流を考え、アプローチしていくことが大切だと考えています。全く新しい業界に提案することで、思わぬシナジーが生まれることもあるのです。
また、私は誰かの犠牲の上に成り立つビジネスは長続きしないと考えているので、関わる方の笑顔を増やしたいとも思っています。サプライヤー、協力会社、お客さま、そして弊社、すべての関係者が笑顔でいられる状態が理想です。
そのために社内では、社員への還元も重要視しています。みんなが頑張って新しい企画を立て、お互いに意見を出し合い新製品を開発する。その努力の結果として得られた利益は、適切に還元されるべきだと思うのです。
また、取引先との関係においても、お互いの価値を高め合えるような形を目指しています。一方的な関係ではなく、対等な立場で意見を出し合い、ともに成長していくことこそが、持続可能なビジネスの基盤になると信じています。
ーー今後の展望を教えてください。
小泉康史:
会社をより強固なものにしていくためには、海外展開は避けて通れない道だと考えています。既に農業資材や液体容器など、海外でも必要とされる製品を持っているので、まずは展示会への出展など、小さな一歩から始めていきたいと思います。中でも、ヨーロッパ市場には特に興味がありますね。リスクはありますが、挑戦しなければ成長はありません。
私が社長を務めている間に、海外での売上比率を25%くらいまで伸ばしたいと考えています。簡単な目標ではありませんが、弊社の製品はとても良いものだと自負しているので、海外のお客さまにも評価していただけると信じています。
編集後記
小泉社長の言葉からは、老舗企業でありながら、常に新しいことに挑戦し続ける姿勢が伝わってきた。特に「ローテクにスパイスを利かせる」という言葉が印象的で、最新技術に目を奪われがちな現代において、既存技術の可能性を追求する姿勢に感銘を受けた。また、「サプライチェーン全体の笑顔を目指す」という経営哲学は、本来のビジネスのあり方といっても過言ではないだろう。同社の今後の展開がとても楽しみだ。
小泉康史/1976年生まれ。甲南大学卒業。1999年、小泉製麻株式会社に入社。2009年、事業開発部長に就任。その後、常務取締役 経営企画本部長を歴任し、2015年に代表取締役社長に就任。