※本ページ内の情報は2024年7月時点のものです。

あらゆるものがデジタル化している現代に、書道用品という伝統的な商品を軸に122年続く企業、株式会社呉竹。これまで代々同族経営が続いてきた同社で、中途入社から代表取締役社長に就任した山際義敬氏に、時代の変化を見据えた取り組みや今後の展望について話を聞いた。

外部から同族会社の社長に。現場を知り尽くしたからこその強み

ーー呉竹に入社するまでの経緯を聞かせてください。

山際義敬:
学生時代は理系の学部にいたこともあり、新卒では会計事務所に入社し、3年間、中小企業から大企業までさまざまな企業の決算処理を担当しました。

28歳で結婚したタイミングで、当時上場を目指していた呉竹に魅力を感じ、「これまでの経験を活かして管理側として貢献したい」と思い入社を決意しました。

ーー入社後、大変だったことはありますか?

山際義敬:
私が入社した当時、弊社は、管理部門を外部の会計事務所に全て委託していたので、事業やデータに詳しい社員がいませんでした。まずは、そこを整理して理解していくところから始めました。入社して最初の決算は、ほとんど私ひとりで行いました。最初の1年は休みが数えるほどしかなく大変でしたが、この期間で企業理解が進み、企業の基礎となる部分を整えられたと思います。

ーー外部から同族会社の社長に就任した要因は何だと思いますか?

山際義敬:
弊社の従業員として仕事をする中で、私はチャンスがあれば「まずはやってみよう」という精神でさまざまなことに積極的に挑戦してきました。その行動が今の立ち位置につながっていると思います。

これまで挑戦したことで特に印象に残っているのが、「3年間のアメリカ勤務」です。赤字だったアメリカの子会社の再建をはかるため、今の常務と2人で赴任しました。

英語も話せず、アメリカの法律や条件面など知らないことばかりでしたが、私は「できないことはないだろう!やってみよう」と思い、挑戦した次第です。アメリカでは、分からないことは一から調べて進めていったのですが、それが私にとって成長の機会になったと感じています。

ーー仕事を進める上で大切にしている考えを教えてください。

山際義敬:
現場に行って直接見たり感じたりすることですね。人を介して聞くより、自分で見たり聞いたりするほうが得られる情報の質、量が格段に良くなります。知らないまま何となくで進めることはしないというもともとの性分もありますが、会計の業務を行っていた時から、絶対的な事実や数字をベースに積み上げるという癖がついているので、そこは常に大事にしています。

「〇〇だからできない」を払拭したい。変化の激しい時代だからこそ常に新しい視点を

ーー歴史ある企業を運営する中で、どのようなことを意識していますか?

山際義敬:
120年以上続いている会社なので、その歴史の中で培ったものを大切にしつつ、今の時代に合った状態に変化させていきたいと考えています。

墨という固形から墨液という液体化したものをつくる過程には弊社のこだわりが詰まっています。弊社は、そういった部分を大事にしながらも、筆ぺんや化粧品、工業用の製品など得意分野から派生した商品も開発し、今後もさらなる展開を目指しています。

ーー組織を変化させていくために、人材採用においてどのような工夫をしていますか?

山際義敬:
弊社では、年齢や性別、信条など一切こだわらず、全ての人に平等な機会があります。この仕事は「女性だからできない」や「高齢だから無理」といったことはありません。実際、高卒で入社した女性社員が「フォークリフトの免許を取りたい」と手を挙げて、今では自由自在にフォークリフトに乗って活躍している例もあります。

また、筋力が必要だった作業は新たな機械を導入し、少しの力でできるようにするなど、誰もが同じように業務に取り組むことができる仕組みづくりも進めています。

現在、幹部を含め、従業員の約6割が女性です。化粧品の開発などでは女性の視点も取り入れて進められることも弊社の強みのひとつですね。これらは、今後も続けていきたい取り組みです。

ーー現在オンラインショップにも力を入れているそうですが、詳しく教えていただけますか。

山際義敬:
弊社はECサイトの運営にも力を入れています。これまでのリアル店舗だけでは実現できなかった​​​​世界中のマーケットにアプローチでき、お客様の層が広がってきています。また、直接お客様の声が聞けるため、それを商品開発に活かしていくという良いサイクルができていますね。

「エラー」が魅力になる世界、アナログがつくり出す価値

ーー最後に貴社が目指す姿についてお聞かせください。

山際義敬:
人々の生活に潤いを与えられる存在になりたいですね。現代の人々の生活にゆとりをもたらすことに、弊社が役に立てると思います。

あらゆるもののデジタル化が進めば進むほど、アナログの価値は増すと考えています。全てがデジタルになったときに、人々は「誤り・エラー」「侘び寂び」といった人間らしい要素に惹きつけられます。たとえば毛筆は、そのときの気持ちや調子がダイレクトに表れ、毎回違った表情を見せるので非常に興味深いですよね。

今後は、標準化されたものにはないアナログなものにますます価値が出てくるでしょう。このようなアナログの分野で、弊社はNo.1になりたいですね。

また、弊社は「文具メーカー」としての顔だけでなく、「化学メーカー」としての顔も持っています。墨という固形のものを液体化して新しい商品を生み出し、お客様のニーズに合わせて商品を変化させています。「変わらないアート&クラフト」である文具の世界と上手くシンクロさせ、今後も「二刀流」でより多くの方の生活に溶け込んでいきたいですね。

編集後記

今回の取材を通して、「不易流行」という言葉が思い浮かんだ。これまで大事にしてきたものは残しつつ、新しいものを取り入れて常に変化をしていく。そんなバランス感覚が120年以上続く企業をつくっているのだろう。今後さらなるデジタル化が進む中、“最先端のアナログ商品”で勝負する株式会社呉竹が、忙しい現代人にとって必要不可欠な存在になっていくに違いない。

山際義敬/1975年、三重県生まれ。2003年、株式会社呉竹に入社。2012年、管理本部マネージャーに就任。2019年、管理本部、国際部、企画MK部兼物流部部長に就任。2018年、Kuretake ZIG Corporation Director(米国子会社)兼務。2020年、常務取締役を経て、2021年に代表取締役社長に就任。