※本ページ内の情報は2024年9月時点のものです。

観光地や商業施設で目にするお馴染みのはちみつ専門店。創業78年の株式会社杉養蜂園も、熊本を拠点に国内外79の直営店舗を展開している。同社は、蜜蜂の飼育から採蜜、販売までを一貫して手がけ、はちみつ以外にもローヤルゼリーやプロポリス、はちみつ入り化粧品など、はちみつを使った蜂産品(ほうさんひん)を取り扱う。

そんな同社の倒産の危機を救ってくれた人との出会いや、現在の成長につながる販路開拓、養蜂にかける思いなどについて、代表取締役社長の米田弘一氏にうかがった。

ミツバチを育て、採蜜したはちみつを製品化し、自社店舗で販売

ーーまずは貴社の強みをお聞かせください。

米田弘一:
養蜂からはちみつの製造、販売まで一気通貫で行っていることです。自社で採蜜したはちみつを使った製品をメインに、ローヤルゼリーやはちみつ入り化粧品など、様々な蜂産品関連商品を展開しています。

また、製品開発や接客サービスにおいては、お客様の生の声を反映しています。弊社は自社店舗で販売を行っているため、お客様の声を直接うかがうことができます。コールセンターでも生の声をお聞きし、常にサービスの改善に努めています。

どのような商品を求めているかといったニーズや、改善すべき点を教えていただけるので、私たちにとってお客様とのつながりは最大の財産です。

会社の危機を救った人物との出会い、起死回生のために始めたBtoCの販路開拓

ーー米田社長が杉養蜂園に入社したきっかけは何だったのですか。

米田弘一:
先代社長の次女と結婚したことをきっかけに、先代社長と会う度に、蜜蜂の不思議や養蜂の魅力、そこから広がる先代社長の夢に魅いられていきました。

しかし入社後に私が取り組んだのははちみつの販売ではなく、大量の在庫が残っていたヘチマを売りさばくことでした。仙台から九州まで全国の雑貨問屋に飛び込み営業したり、営業電話をかけ続けたりしましたね。

そんななか、ある企業の専務が協力してくれました。電力会社のキャンペーングッズとして弊社の商品を採用していただけることになったのです。その結果、3年で在庫を消化でき、会社の危機を脱することができました。

ーーまさに救世主ですね。

米田弘一:
その方との出会いはヘチマだけにとどまらず、後々、弊社商品のボトルデザインや建物のグランドデザインを担当してもらいました。完成した商品や建物を見て、デザインひとつでこんなにイメージが変わるのかと驚きました。

また、彼からは経営哲学も教わり、私自身の商いへの考え方が大きく変わりました。
結果的に、私がかけた一本の営業電話から、自身に大きな転機を与えてくれる方との縁がつながったのだと感じています。

ーーそれからどのように事業規模を拡大しましたか。

米田弘一:
その後は、BtoBで自社商品の販路を拡大するべく営業したのですが、他社商品の価格設定が低かったため、なかなか思うような成果が上がりませんでした。そこで、自分たちで新たな販路を開拓しようと思い立ちました。すぐにスタッフを2人採用し、2000年にBtoC(消費者向け取引)を本格化しました。

それが大きなきっかけとなり、その後業績が上向きになり、従業員が50名ほどだったところから、現在は500名を抱える企業に成長しました。

商品の源となる養蜂にかけるこだわり

ーー蜜蜂を飼育するにあたって心がけていることはありますか。

米田弘一:
我が子のように大切に育てています。2代目の養蜂責任者は、巣箱を開けるときに必ず「元気にしとったか」と声をかけていましたね。当時、私が「ミツバチ」と呼んでいたら、「ミツバチくんか、ミツバチさんと呼びなさい」と怒られたものです。

また面白いもので、優しく接するとミツバチもおとなしい性格になるのですよ。3代目の専務も優しい人なので、ミツバチの性格もおだやかです。

ーー養蜂場や貴社ではどのような方々が働いているのでしょうか。

米田弘一:
養蜂場では20代、30代の若い世代が活躍しています。養蜂の仕事は手間のかかる仕事ですし、体力も使い、痛い思いをすることもあります。それでも、生き物や自然が好きな彼らは、営業の仕事よりも楽しいと言ってくれます。

また、社員の健康意識が高いことも特徴です。私自身も全国各地で開催されるトライアスロンに参戦しており、会社としてもスポーツイベントに協賛したり、スポンサーを務めたりしています。また、トレーニングや大会時は、自社の製品を積極的に栄養補給として取り入れたりもしています。

その他、社内ではウォーキングなどの健康イベントが盛んです。全社員の結果がリアルタイムでわかるので、お互い負けじと競いながら楽しんで体を動かしています。

ーー国産以外に海外産のはちみつも販売していますね。

米田弘一:
海外産のはちみつを販売するにあたっては社内からは反発もありました。ただ、カナダやオーストラリア、フランスなど現地の生産現場を見て回り、広大で豊かな自然を活かさない手はないと実感しました。

現地のパートナーに私たちが国内で実践している健やか農蜂業への考えを理解していただければ、高品質な商品を自信を持ってお届けできると確信しています。

お客様の声や時代の流れを反映した会社づくり

ーー今後の注力ポイントを教えてください。

米田弘一:
時代の変化に合わせて販売チャネルを増やすため、オンライン販売を強化していきます。ECサイトと店舗の価格は統一し、実店舗とECを上手く融合させたいと思っています。

昨今は、実店舗で購入してECサイトに行くという流れから、SNSやネット広告からECサイトに流入する傾向に変化しつつあります。そこで、はちみつづくりにかける思いを伝えるなど、弊社のサイトを閲覧したお客様に共感してもらえる動画も制作しています。

幅広く集客するよりも大切なのは、弊社の活動の実態を知っていただき、リピーターを増やすことです。そのためには、ファーストコンタクトが重要だと思っています。お客様は商品や店員の姿勢をじっくり見定め、厳しくチェックされます。まさに一回一回すべてが勝負という気持ちでいます。

ーー最後に5年後、10年後の展望をお聞かせください。

米田弘一:
今後も継続して「お客様に喜んでいただける会社づくり」に注力していきます。そのために時代に合った商品を提供し、多くの方々に愛される会社を目指します。

「(様々なことに)よく気が付く会社だよね」「杉養蜂園は私たちが欲しいものをつくってくれるよね」と言っていただけるように、これからも土台固めを重視する構えです。そしてこのスピリットを、未来の杉養蜂園を支える社員や副社長である息子たちにも、ぜひ継承してもらいたいですね。

編集後記

大量に残っていたヘチマを売り切って会社の危機を回避し、新たな販路を開拓するなど、会社の立て直しに大きく貢献してきた米田社長。歴史あるはちみつメーカーは、数々の困難を乗り越え、今も変わらず私たちに商品を提供してくれているのだと知った。お客様の声にしっかり耳を傾け、常に改善を続ける株式会社杉養蜂園は、これからも多くの人々に支持されることだろう。

米田弘一/東海大学卒業。明治生命保険相互会社(現:明治安田生命保険相互会社)総合職勤務を経て、1991年、株式会社杉養蜂園に営業部長として入社。1999年に専務取締役、2014年に代表取締役社長に就任。趣味はトライアスロン。天草国際トライアスロン大会や東京マラソン、京都マラソン、熊本城マラソンなどにも精力的に参加している。