※本ページ内の情報は2024年12月時点のものです。

高度なプラスチック切削加工技術で、精密部品を製造する株式会社伸光製作所。スマートフォンや医療機器など、さまざまな産業に欠かせない製品を提供する同社は、常に技術革新に挑戦し続けている。また、グローバル人材の採用や社員の自主性を重視した経営方針で、さらなる成長を目指している。今回は代表取締役の角田正典氏に、同社の強みと今後の展望についてうかがった。

電機メーカー勤務の経験を活かし、家業を継ぐ

ーー貴社に入社した経緯についてお聞かせください。

角田正典:
私は日本大学理工学部を卒業後、弊社ではなく他の電機メーカーに入社しました。入社の決め手は単純で、自宅から近い会社だったからです。とても楽しくやりがいもあり、機構設計の仕事に6年間携わりました。その会社には社員のやりたいことを尊重してくれる社風がありました。たとえば「展示会に行って勉強したい」といえば、一日中展示会に行かせてくれるような、とても恵まれた環境でした。

ところが、あるとき母が病気になり、仕事を続けることができなくなってしまったのです。そのため、家業を手伝ってほしいといわれ、1989年に伸光製作所に入社することになりました。

ーー社長就任までの経緯を教えてください。

角田正典:
社長に就任したのは、伸光製作所に入社してから約20年後の2010年です。当時は景気が悪化しており、業績にも影響が出始めていました。創業者である父は世代交代の必要性を感じていたようですが、なかなか決断できずにいたのです。

そうしているうちに、那須塩原に新しい工場を立ち上げることになりました。そのとき、父は工場長として、工場の立ち上げに専念することになり、経営にはほとんど関与しなくなりました。そういった経緯もあり、自然な流れで私が社長を引き継ぐことになったのです。

世界トップレベルの技術力で小型精密部品市場を開拓

ーー貴社の事業内容と強みについてお聞かせください。

角田正典:
弊社はプラスチックの切削加工を専門としています。プラスチックは成形加工といって、金型を用いた加工が主流ですが、弊社は刃物でプラスチック材料を一つずつ削り、1個から数十万個単位で製品をつくっています。特に得意としているのは、小さな精密部品の製造です。たとえば、スマートフォンの検査装置に使われる部品などですね。これらの部品は非常に小さく、肉眼では確認が難しいほどです。

弊社の強みは、このような微細な加工を可能とする技術力にあります。実際、ある製品では、弊社が開発してから3年後にようやく海外のメーカーが製造できるようになったほどです。

ーー貴社の技術力はどのように培われてきたのでしょうか?

角田正典:
一番の理由は、経験が少ない社員の柔軟な発想と挑戦する姿勢だと考えています。たとえば、新しい製品の図面を見せられたとき、経験豊富なベテラン社員は「これは無理だ」と思うかもしれません。しかし、経験が少ない社員たちは「できるかもしれない」と考え、実際に挑戦してみるのです。

こうした姿勢が、これまで不可能だと思われていた製品の開発につながっています。半年ほど試行錯誤を重ねて、最終的に製品化に成功したこともありました。この「まずはやってみる」という姿勢が、弊社の技術力を支える大きな要因になっていると感じています。

グローバル人材の採用と、「思い・気づき・判断」できる人材の育成

ーー採用活動は、どのように取り組んでいますか?

角田正典:
近年、国内での採用が難しくなっている中、弊社では新しい取り組みとして、モンゴルの大学生の採用を行っています。品川区の支援を受けて、モンゴルの大学と連携し、優秀な学生を受け入れる体制を整えました。

モンゴルの学生たちは、自国の発展に貢献したいという強い思いを持っています。海外で技術を学び、将来はその経験を活かしてモンゴルの産業発展に寄与したいと考える学生がとても多いのです。そういった志の高い人たちと一緒に仕事ができることは、弊社にとっても大きな刺激になっています。

ーー今後の事業に対する思いをお聞かせください。

角田正典:
私は「思い・気づき・判断」ができる経営者を目指しています。これは、お世話になっている立正大学の佐藤教授に教えていただいたことで、成長する中小企業の経営者に共通する特徴だそうです。

「思い」とは、会社や社員、お客様を思う気持ちです。「気づき」は、多くの情報を集め、気づきを得ること。そして「判断」は、素早い決断と行動を指します。これらを意識しながら、失敗しても諦めずに挑戦し続ければ、いつかは成功にたどり着けるでしょう。

また、この考え方を社員にも浸透させるため、さまざまな取り組みを行っています。たとえば、入社後は3ヶ月の研修期間を設け、全部署を回った後で各自の希望する部署に配属するようにしています。加えて、経営計画の策定にも社員が参加し、各部署でどのように目標を達成するか考えてもらうのです。

このように、社員が自主的に考え、行動できる環境づくりを心がけています。将来的には、私がいなくても社員一人ひとりが経営者的な視点を持って仕事に取り組めるようになり、会社を円滑に運営できるようになれば嬉しく思います。

編集後記

角田社長のインタビューを通じて、伸光製作所の強みが浮き彫りになった。高度な技術力はもちろんのこと、経験の少ない人材の積極的な登用や、社員の自主性を重んじた経営方針が、同社の競争力の源泉となっている。特に印象的だったのは、角田社長が常に学び続ける姿勢を持ち、それを社員とともに追求している点だ。今後も技術革新と人材育成を武器に、さらなる成長が期待される企業である。

角田正典/1960年、東京都品川区生まれ。日本大学理工学部卒業。神田通信工業株式会社に入社。6年の経験を積んで1989年に株式会社伸光製作所に入社すると、2010年に代表取締役に就任。